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しあわせの唄がきこえる
003


次の日の朝、無事に退院した流生が久々に登校していた。俺はいっさい連絡をとっていなかったが他の友人達はそうではなかったらしく、周りが朝から騒がしかったので今日流生が来るらしいのはなんとなく察していた。本当なら真っ先に駆けよって色々と聞きたいところだったが、心を鬼にして、俺は我関せずを通すつもりでいた。






「あき君、おはよう」

退院した流生を集団が出迎え、クラス内はちょっとした騒ぎになっていたが、俺はいっさいそちらを向くことなく机に広げた教科書とノートを凝視していた。そんな俺にも流生は人混みを掻き分けてまで挨拶しに来てくれた。

「……おはよ、流生」

「久しぶりだね、あき君。会えて嬉しい」

「…うん」

幸せそうに顔を綻ばせる流生を目の前に、無視や辛辣な言葉を浴びせたりはどうしてもできなかった。流生が無事に退院できて良かった。そう言いたいのをこらえるのに必死だった。

「どうして、お見舞いに来てくれなかったの?」

「……」

いきなり突っ込んだことを訊かれて思わず固まる。本当は見舞いには行ったのだが、なんといえば答えれば良いのか。

「メールもしてくれないし、俺、寂しかったな」

「……ごめん。先生から怪我はたいしたことないって聞いてたし、テストも近いから色々忙しくて」

我ながら酷い言いぐさだと思うが、これでいい。嫌な奴だと思ってくれれば、流生だって俺に構わなくなるはずだ。

「あき君……?」

「友達、待ってるみたいだけど、行ってやったら?」

「……あき君っ」

流生にこれ以上何も言われないうちにと俺は用事もないのに席を立つ。後悔と罪悪感で泣きそうになったがなんとか堪えて、これでいいんだと自分に言い聞かせながら俺は流生と離れる決心を固めていたのだった。







その後は休み時間でも徹底的に流生と顔をあわさないようにして、それから気まずくなった俺達の関係は徐々に希薄に……という展開になるものとばかり思っていたが、その日の昼休みには俺は無理矢理流生に引っ張られ人気のない空き教室まで連れてこられていた。俺の制止の声はまったく届いていない様子で、向かい合ってようやく流生の目が怒りに燃えていることに気がついた。

「何で俺のこと、避けるの。俺、何かした?」

「……」

「何か言ってよ」

こんなに怒ってる流生は初めて見た。威圧感が物凄くていつもニコニコしてる流生とはまるで別人みたいだ。喧嘩が強いっていうのも今の流生を見れば簡単に信じられる。

「あき君、答えて」

その冷たい視線に俺は一瞬めげそうになった。でも一度決めたことを簡単に曲げる気はない。俺は極力流生を見ないようにしながら、もうどうにでもなれと半ばやけくそになりながら口を開いた。

「……俺は、もっと崎谷先輩と一緒にいたいんだ」

「崎谷?」

先輩の名前を出してまた目の色が変わった。めげそうになる自分を奮い立たせて俺は言葉を続けた。

「俺のために色々してくれてるのに、こんなこと言いたくないけど……正直、迷惑なんだ。流生といると先輩を不安にさせるし、あれこれ俺に指図してくるのも嫌だ。悪いけど、これからはもう俺に構わないでほしい」

「……」

言った、ついに言ってしまった。いくら何でもこんな風に言われたら腹が立つに決まってる。流生は怒るだろう。もう口もきいてくれなくなるかもしれない。でもそれでもいい。その方がいいんだ。

「……?」

これでいいと必死に自分に言い聞かせながら、いつ何を言われるかとドキドキしていたが、まったく反応がない。恐る恐る流生の顔を見て、俺はぎょっとした。

「何で……何で、そんなこと言うの……?」

「る、流生?」

な、泣いてる…!? どうしよう、どうしよう。高校生男子が号泣してるところなんて初めて見た。っていうか俺が泣かせた? 俺のせいなのか?

子供みたいに涙をぼろぼろと流す流生。どうすればいいのかわからず、俺は呆然と立ち尽くしていた。

「ひどい、ひどいよあき君。俺、何にも悪くないのに。どうしてそんなに冷たいこと言えるの? ひどすぎる」

「ご、ごめん流生! ……俺、謝るからっ。酷いこと言って本当ごめん!」

頭が真っ白のままひたすら流生に頭を下げ続ける。流生に嫌われなきゃとか、そういうことはもうどこかへふっ飛んでしまっていた。

「嫌なとこあるなら、俺、全部直すのに。構うなって、あき君にとって、俺ってそんなに軽い存在なの? 先輩よりもずっと、ずーっと下ってこと?」

「そんなことない! 違う、違うんだよ流生」

「何が違うの? もういい、うるさい。あき君の馬鹿、謝ったって許さないから……ひっく……ううっ」

「さっきのは本気で言ったんじゃないんだ。頼む流生、話を聞いてくれ」

その後は感情を爆発させた流生をなだめるので精一杯。結局、なかなか落ち着いてくれない流生に、俺は避けた理由を全部ぶっちゃけるはめになってしまった。


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