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しあわせの唄がきこえる
002



「何か最近、遠藤の姿見ねー気がすんだけど」

休み時間、屋上で先輩は俺にそんなことを言った。まめに俺に会いに来るのでクラスの異変に気がついたらしい。とはいえ流生が入院したのはうちのクラスじゃなくても周知の事実だ。先輩は友達がいないせいで情報にとても疎い。

「流生、休んでるんですよ」

「あいつが? 何で?」

正直に話すか一瞬迷ったが、先輩に嘘をつく必要はないことに気づく。要は話せることだけ話せばいいのだ。

「怪我をして入院してるんです。すぐに退院できるらしいって先生は言ってましたけど……」

「ふーん。てか見舞いとか行ってねーの?」

「……」

行ったけど、行ってない。流生はそう思ってるだろうし、これから離れることにしたんだから先輩にもそう言えばいい。

「行ってません」

「何で?」

「……流生とは少し、距離を置こうと思って」

てっきり喜ぶとばかり思っていたのに、先輩は顔をしかめたままだった。俺の言葉をあまり信用していないのだろうか。

「あんなにあの男と仲良かったのに、いきなりどうしたんだよ。何かあったのか?」

「別に何にもないです」

「嘘つけ、ちゃんと言えよ」

食い気味に問い詰めてくる先輩に俺はどうしようかと内心焦っていた。先輩のファンが俺と流生を間違えて怪我させた、なんて事は言えない。先輩が悪い訳ではないのだから、これは俺達と向こうの問題だ。それに先輩に言っても解決するどころか余計にややこしくなりそうだ。

「俺と流生が仲良くするの、一番嫌がってたのは先輩じゃないですか。いざ離れたら離れたでそんなこと言って、俺はどうすればいいんですか」

ちょっと怒り口調でそう言うと、先輩は口を閉じて少し考え込んでいた。俺としてはこれ以上何も聞いては欲しくなかっただけだったが、ちょっと言い過ぎたかもしれない。怒らせたかな、と不安になったが先輩は俺の肩を黙って抱いてくれた。

「……わかったよ。んじゃ暁が俺のために遠藤離れしたって思っとく」

「せ、せんぱい」

頬にキスされてたじろぐ俺を逃がさないとばかりに腕をしっかりと回してくる先輩。周りに誰もいないとはいえ恥ずかしすぎて死にそうになる。先輩は結構ところ構わず甘い雰囲気に持っていくが、こういう時なんと返せばいいのかわからない。嬉しくないわけではないが、男である俺は女みたいに甘えるなんて簡単にはできなかった。

「遠藤がいなくても、お前には寂しい思いはさせねぇ。俺がいるからな」

「ははっ、そんなの大袈裟ですよ」

口ではそう言っても先輩の言葉は嬉しかった。俺の方も彼を抱き締めると、先輩にそのまま押し倒される。ようやく慣れてきた深いキスを、お互い貪り会うように続けた。

「先輩…っ、何で、そんなとこ……ッ」

口づけながらシャツの上からずっと乳首を触ってくる。女でもない野郎のものをいじって楽しいのだろうか。

「お前がいちいち反応してくれるからな」

「別にしてな……んっ」

今までよりキツく摘ままれて、痛みでつい声をあげてしまう。何をするんだとちょっと身体をよじって抵抗したが、先輩は気にすることなく続けていた。

「暁、お前反応してんじゃねぇか」

「う、うるさいっ……」

そりゃさっきから膝で股間を刺激されてたら誰だってこうなる。しかも相手は先輩だ。もう認めるしかない。

「先輩とこんな密着してたら、そりゃ反応もしますよ…っ」

「……ふーん」

嬉しそうな声を滲ませる先輩の手がシャツの中に入ってきて、直接肌や乳首に触られる。俺だけでなく先輩の方も反応しているのはわかっていた。
でも先輩は絶対俺のには触らないし、無理に下着を脱がしてきたりもしない。俺が嫌だと言ったから。でもそれは先輩と別れたくてついた嘘だ。けれど本当は、俺は、もっと先輩に触りたいし近づきたい。まだ最後までできるかはわからないけど、これから先もこのままなんてやっぱり嫌だ。

「んっ、……あの、先輩……」

「何だよ」

「もし、…先輩さえ、良かったら……」

「?」

「あ、あの……く、口で……」

意を決しての俺の発言は、予鈴のチャイムの音で書き消された。夢中になりすぎて時間がたつのを忘れていた。屋上からだと今すぐでなければ授業に間に合わない。

「先輩、授業遅れます! 戻りましょう!」

「ちょっとくらいサボればいいだろ。どうすんだよ、それ」

「大丈夫ですからお気遣いなく!」

邪魔が入って残念な様な安心した様な。とにかく自分の言いかけた言葉とやろうとしたことが恥ずかしすぎて、一刻も早くここから、先輩から逃げ出したかった。

「暁ってほんと真面目だな。いいよ、先戻って」

「は、はい! ではまたっ」

「おう、放課後迎えにいくからなー」

やっぱり邪魔が入って良かったかもしれない。盛ってるのは俺だけで、先輩は今のままで十分なのかも。手を振る先輩の爽やかな笑顔を見て、俺は一人憤死しそうになりながら屋上を出た。


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あきゅろす。
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