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しあわせの唄がきこえる
好きの代償




「何言ってんだ。ふざけてんのか、立川」


休み時間、立ち入り禁止となっている屋上で俺は崎谷先輩に睨まれていた。なぜ俺達が屋上に入れるかというと職権濫用している先輩が鍵を自由に使っているからだ。先輩はよくここを使って誰にも邪魔されずサボっているらしい。

「他の男の部屋に泊まるなんて、駄目に決まってるだろ」

「ええっ!」

流生の部屋に泊まると約束したので一応報告だけはしようと思ったのだが、まさか問答無用で駄目だと言われるとは。男同士の付き合い方がよくわからない俺からすればびっくりだ。

「つーか、なんでよりによって遠藤流生? あいつのよくない噂は俺でも知ってる。もう付き合うのはやめろ」

「ええ〜……」

先輩、意外と束縛するタイプだ。男と付き合ったことないからよくわからないが、もしかして俺はこのままずっと友達の家にも泊まれないのか? 元々男が好きなわけじゃないんだから別にいいだろうに。

「流生は俺の大事な友達なんです。先輩がそんな噂云々を信じてるとは思いませんでした」

「別に気にしちゃいなかった。お前が遠藤のとこに泊まりたいとか言うまでな」

「俺と流生は何でもありません! 流生はクラスで唯一の友達なんです」

「……マジで? 寂しい奴だな」

「せ、先輩だっていないじゃないですか!」

「俺は好きでいないんだからいいんだよ……。とにかく、お前がそう思ってても遠藤は男好きなんだから絶対に駄目だ。お前の幼馴染みの……なんつったか、バスケ部の奴なら俺だってとやかく言わねえよ」

「桃吾じゃなくて、今は流生の話を」

「だから駄目だって言ったろ。これであいつの話は終わり」

「うええ……」

まさかこんなことになるなんて。先輩に内緒で流生のところに泊まるって手もあるけど、バレたら怖いし何よりどんな形であれ先輩を裏切りたくない。ずっと楽しみにしてくれてた流生には悪いが諦めるしかないだろう。でも、それでもやっぱり、

「ううう、先輩ひどい……」

「しっつこいな。他の野郎の部屋泊まる前に、俺のとこに泊まればいいじゃねぇか」

「え」

「てゆーかお前もっとこっち来いよ! どんだけ離れて座ってんだ!」

俺と先輩の距離、目算で約2メートル。人一人余裕で間に寝られる。

「ん」

崎谷先輩がすぐ横のコンクリートの床をコンコンと叩き、座れと命じてくる。カチカチになりながらも俺はおそるおそるそこに正座した。

「そんな堅くなんなよ、何もしねえって」

「は、はい」

別に殴られるとか思って身構えているわけでもないが、恋人同士という肩書きが緊張感を煽る。距離とか会話の内容とか、友達や普通の先輩後輩とはやっぱり微妙に違っていて、自然体でいいとは思うけど、つい意識してしまうのだ。
身長は同じくらいのはずなのに体格がいいからなのか先輩の風格なのか、威圧感が半端ない。俺なんて一捻りでどうにでもできるんだろう。

「ったく、いちいち大袈裟に反応すんじゃねえよ。俺達、これからずっと付き合ってくんだから、そんなんじゃ身が持たないだろ」

「……」


先輩とひょんなことから付き合うことになってしまってから3日。
俺は、まだ本当の事を言えずにいた。











「駄目だ。俺、このままじゃ精神が持たない……」

「……」

昼休み、俺は桃吾に洗いざらい話して、自分の置かれた状況を嘆いていた。桃吾は弁当を食べながら難しい顔で、頭を抱える俺を見ていた。

「このままずっと先輩を騙し続けるなんて絶対無理。早くなんとか、なんとかしないと」

「まあ、俺も責任あるし、何とかしてやりたいとは思うけど……」

「け、けど?」

「こればっかりは、さっさと本当の事を話すしかなくないか? 日があけばあくほど言いにくくなるだろうし」

「今でも十分言い出しづらいんだよ……」

本当なら付き合おうと言われたときにきちんと説明するべきだったのだ。いや、誤解に気づいたときしっかり話せば良かった。嫌なことから逃げ続けた結果がこれだ。

「結局どうすんの。暁が決めることなんだからさ」

「どうせすぐに、俺となんて別れたくなると思うんだ。ただそれまでの間をなんとか持たせたいんだよ。先輩を傷つけずに終わらせたい」

「うーん、そんなにうまくいくもんか?」

先輩に嫌われるようなことをあえてすればこんな問題すぐに解決できるのだろうが、俺は先輩に嫌われたくないし嫌な思いもさせたくない。崎谷先輩がどうしていきなり付き合う気になったのかはわからないが、俺がこんな調子では長続きできるものじゃないはずだ。憧れの人と一緒にいられるのに、俺はここに来てから今が一番つらかった。


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