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しあわせの唄がきこえる
002※


その後、母親の残業は続き、しばらくすれ違いの生活が続いた。それはいま親との事を考える余裕がまったくない俺にとっては好都合だった。怪我が治りきる前に顔を会わせたら確実に母親が学校に電話する。顔さえ見られなければ流生の家に泊まらずにすむし、おかえりのハグもしなくていい。

しかし、かといってこの最悪な事態が好転するわけはなく。俺は2日に1回は羽生に呼び出され、好き勝手にされていた。殴られたりはしないものの、あの絶倫野郎は手加減というものを知らない。さすがに毎回突っ込まれる訳ではないが、そうじゃない時は口でくわえさせられる。いくら慣れてるとはいえ、正直顎と腰はもう限界だ。


その日も俺は、メールで羽生に部屋に来る様に呼び出された。それが五時間目の話で、どうやら奴はもうさっさと早退して寮に帰っているらしい。授業があるからといってあんまり待たせると短気な奴はすぐ機嫌が悪くなる。授業を受けて、送ってくれた桃吾達を撒いてからだとどれくらいかかるのか。不機嫌に怒鳴る奴の姿が容易に想像できた。

「流生、確か次ってHRだったよな」

休み時間、可愛い面した取り巻きに囲まれていた遠藤流生に訊ねる。奴は隣に座る男の髪を優しく撫でながらこちらを向いた。

「ああ、そうだけど。それがどうかした?」

流生に撫でられた男はうっとりとした表情になる。最初奴のハーレム集団を見たときはゲイの俺でも引いたがさすがにもう慣れた。よく教室なんかでやるな、とは思うが。これを暁は一体どんな気持ちで見ていたのだろうか。

「俺、帰るわ。先生には体調悪くなって早退したっつっといて」

「え、ちょっとあき君、いきなりどうしたの」

「悪い、急用できたんだ。じゃーな」

いくら真面目な暁君でも授業を欠席してばかりじゃ親に連絡されてしまうかもしれない。けれど幸い今日は六時間目までだし、次サボったところでたいして問題にならないだろう。

俺は鞄を持って廊下にいる生徒達を掻い潜って外に出た。いつも暁大好き心配性の流生は追いかけては来なかった。あいつ、俺が暁でなく忍だとわかってから過保護っぷりがややテキトーになっている。一応暁としての扱いを受けているから心配そうなふりをしているが、俺が上手いことやれてると思っているのかすっかり油断してやがる。俺を信用してるのか能天気なバカなのか、よくわからない男だ。


羽生の様な不良がたくさんいるせいか、寮へ帰るのはとても簡単だった。羽生の部屋である322号室の鍵は開いており、俺はいつもながらカーテンの閉め切った暗い部屋に足を踏み入れた。

「……失礼します」

「遅い」

すでにベッドに横になっている羽生はタバコの灰を落としながら俺を睨み付けた。これでも早く来てやったんだ、という言い分は我慢して飲み込む。奴は煙を吐き出しながら俺の全身を見て顔をしかめた。

「お前、何で手ぶらなんだよ」

「え」

いつも通り、荷物は靴の横に置いてるからだ。そう言おうと思ったが、羽生が聞きたいのはそういうことではなかったらしい。

「飲み物買ってこいってメールしただろ。見てねぇのかよ」

「え!? すみません、気づきませんでした。すぐに買って……」

「いーよもう、他の奴に頼むから」

かったるそうに携帯を操作しながらタバコを灰皿にすりつぶす羽生。こいつ、いったい1日何本吸ってんだよ、と心のなかで突っ込みながら奴の手を見ていた。あの手は、なかなか俺好みだ。でかくて筋ばった、無骨な手。手フェチという程ではないが、俺はヤりたいと思った奴の手を無意識に目で追う癖がある。その点、ヤニ臭いところを除けば羽生の手は満点に近かった。

「羽生さん……」

お気に入りの手をとって、俺は奴に近づく。ベッドに乗り上げ、ブレザーを床に落とした。

「ヤるんなら、さっさとしましょう」

その言葉に一瞬ぽかんとして、すぐにニヤリと笑う羽生。俺の体を引き倒して、シャツをぞんざいに引っ張ってきた。

「今日はノリノリじゃねえか。いーぜ、お望み通り、すぐにな」

するとすぐに奴の舌が口内に滑り込んできて、俺はそれにあわせて口を開けた。いつもよりずっと、タバコの味がするキスだった。






「んっ……羽生さん…! あっ、あ……」

俺はぽろぽろ涙を流しながら羽生の上に跨がり、下から突き上げられていた。もちろんこの涙は過剰演出だ。奴のがいくらデカくともさすがにもう慣れた。とはいってもやっぱり痛いので、泣くのは簡単だったりする。

「あっ、羽生さ……手っ……」

不安定に揺すられながら俺はのばされた手をしっかりと握る。どうしよう、気持ちいい。好きでも何でもない奴に無理矢理ヤられてんのに、俺は与えられた快感に狂っていた。だってもう、最初の時の様な痛いだけのセックスではない。羽生は痛め付けるのが趣味のドS野郎ではなかったのが唯一の救いだ。どうせ抗えないのなら、いつも通り楽しむより他にない。

奴が中で出して、ようやく1回目が終わる。いつも最低2回はするから、これで解放されるわけではない。でも昨日口で抜いてやったばっかりだし、なんとか一回で終わらせたい。

「……羽生さん」

「あ?」

「抱き締めて、もらってもいいですか」

「……」

「……。だめ、ですか。寂しくて、毎晩眠れないんです」

眠れないのは本当。理由は羽生の件をどうやって片付けるか毎晩悩んでいるから。せっかく奴のテリトリーにいるのだから弱味のひとつくらいゲットできなきゃここに来てノリノリでやってる意味がない。

「てめー、すっかり頭ぶっとんでんな。そんな気持ちよかったか?」

羽生はぎゅっと俺を抱き締めて、たくましい腕を枕にして俺を寝かせる。めずらしくご機嫌なその姿にサボってでも来た甲斐があったと俺はひそかにほくそ笑んでいた。


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あきゅろす。
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