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しあわせの唄がきこえる
男子校の洗礼



俺が桃吾の学校に通うこと決めた理由、それがまさにその男子校の特性にあった。

桃吾と話をする前、俺はまず弟に電話をかけていた。そしてお前と一緒の学校に行きたいと弟に申し出た時、彼は即刻こう言ったのだ。

『無理。お前みたいな弱っちょろい奴、一瞬でうちの奴らのカモ。良くてボコボコにリンチされた後有り金全部盗られて、一生パシり決定。悪くて死ぬ。諦めろ』

「………」


弟よ、お前はいったいどんな学校に通っているんだ。それはそもそもちゃんと学校なのか。お兄ちゃんはとても心配だ。

……いや、わかってはいたのだ。弟の男子校がワルの巣窟だってことは。そして弟がかなり強い不良だということは、とっくに。けれどそれでも弟と一緒に学園生活を送る夢を簡単には捨てられなかった。

しかし結局、弟の強い反対により俺の兄弟仲良し学生ライフの計画はもろくも崩れ去った。しかし強くなること、しかも短期間で弟以上にたくましくなることを目標としている俺には、武道を習うよりもそういう荒波に揉まれた方が良いのではないか。今まで通り普通の学校で普通の生活をしていても何も変わらない。そんなときに飛び込んできたのが桃吾の学校の話。しかしまさかあいつの学校まで弟と同じことになっているとは思わなかった。こう言ってはなんだが、弟と桃吾の学校では偏差値に天と地ほどの差があるし、とても不良で溢れかえっているイメージはない。だが男子校と不良は、やはり切っても切り離せない関係なのだろうか。






「とはいったものの…、普通の学校に見えるんだけどなぁ」

電車とバスを乗り継ぎようやく見えたその男子校は、とても不良に侵されているようには見えなかった。そればかりか俺が今まで通っていた学校よりも綺麗で広くて、いかにも私立校といった感じだ。
だがもしかすると校舎は綺麗でも生徒達を見れば柄の悪さが一目瞭然なのかもしれない。しかし残念ながら今は普通の登校時間ではないため他の生徒の姿はない。始業式があるため俺は少し遅れてきたのだ。きっと桃吾も含めた一般生徒は今頃体育館に集められているのだろう。

予定では学校の先生が校門近くで待っていてくれるはずだったのだが、人の気配がまるでなかった。仕方がないのでとりあえず職員室に行ってみようと足を踏み出した時、背後から足音が聞こえた。

「あ……」

振り向いた先にいたのは俺と同じ制服を着た男だった。顔は長い前髪と眼鏡のせいでよく見えないが、ここの生徒であることは間違いない。しかしなぜこの時間に登校しているのだろうか。確かこの時間は始業式では?

しばらくその男子生徒を凝視していた俺だが、彼は俺に一別もくれることはなく先に校門をくぐり校舎へと向かっていってしまう。

「あ、ちょっと待って!」

「……あ?」

意外とドスのきいた返事が返ってきた。自分でもなぜ呼び止めてしまったかわからないが、声をかけた以上何か言わなくては。

「えっと、今って始業式の時間じゃ……?」

「だから?」

「いや、今頃登校してきて大丈夫なのかなと思って」

「始業式とかかったるいもんに出てられるか。つか人のこと言えねぇだろ」

「俺は、今日転校してきたばっかだから」

「転校ぉ?」

「……っ」

長い前髪の下でも彼の眉間に皺がよっているのがわかる。確かにこの生徒の言うとおり、不良校の生徒が全員大人しく始業式に参加しているはずはなかった。いやしかし待てよ、それ以前にこの野暮ったい地味な感じの人は不良なのか? まったくそんな風に見えないし、むしろ不良にカモられるタイプじゃないのだろうか。それとももしかしてインテリヤクザならぬインテリ不良か。そんな不良が存在するのか疑問だが、現に始業式もサボっているのだから、見た目がどうであろうと素行不良には違いない。

「話がそれだけならもう行くぞ」

「ま、待って」

「なんだよ!」

「……職員室って、どこかわかる?」

「……。…昇降口入って右」

男は明らかに苛ついているようだったが、とりあえず職員室の場所は教えてもらえた。けれどありがとうとお礼を言おうとした時にはもう、彼はさっさと足早に歩いて行ってしまっていた。


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