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しあわせの唄がきこえる
002



大丈夫だから。
流生は確かにそう言った。
俺と仲良く肩を並べてたった1つのベッドに寝転んだ奴は、俺と微妙に距離をとって背を向けたまま眠る体勢に入ってしまった。いつ何をされてもいいように身構えていた俺は眠気もふっとぶほど唖然としてしまった。



[……]

それから数十分後、俺の隣からは規則正しい寝息が聞こえていた。手を出されるのはいつなのかと期待しまくっていただけに、肩透かしをくらった気分だ。ほんとは暁に触りたくて触りたくて仕方ねぇはずなのに、いったい何が奴を抑制しているというのか。まったく意味不明だ。こっちも寝ぼけているのを装って奴にちょっと引っ付いてみたりしたが、まるで効果なし。背中を向けたまま、こちらを見ようともしなかった。


つまらない、とてもつまらない。せっかく顔も身体も都合もいいセフレが見つかったと思ったのに、期待はずれもいいとこだ。こっちから襲ってやってもいいが、そんなこと暁は絶対にしないだろうし、できれば俺の正体がバレることは避けたい。誰の口から桃吾に漏れるかわからないからだ。

ひとしきりがっかりしてから、心の中でため息をつく。諦めるしかないと悟った俺はシーツを身体にまきつけて、ふてくされたまま眠りにつくことにした。








「んっ……」

眠ってから、どれくらいの時間がたったかわからない。ただ周囲はまだ真っ暗で、朝ではないことは確かだった。普段眠りはわりと深い方だが、無視できない上半身の違和感に目が覚めた。

「……っ!」

誰かにシャツの下から上半身をまさぐられている。明らかに“そういう”意図を持った動きをしている。そいつが誰か、なんて確かめなくてもわかる。遠藤流生、暁の寝込みを襲うとはなかなかやるじゃねえか。

そうとわかれば俺ができることはただ一つ、全力で寝たふりをすることだ。

「んんッ……」

たくしあげられたシャツの下で奴の舌が這いまわる。下着の中に手が滑り込み、小さく声が漏れた。普通ならばとっくに目が覚めているところだが、どうぞぱっくり食べちゃってくださいな俺はしっかりと目をつぶっていた。

「あき君、起きてるんでしょ」

「……っ!」

突然の流生の言葉に心臓がはねる。まさかバレていたなんて。観念して目を開けるか? いや、俺は最後まで狸寝入りを続けるぞ。

「でも、ごめんね、あき君。俺、もう我慢できない。ぜったい優しく、優しくするから……」

悲痛な声で俺に謝りながら俺の服をやや乱暴に脱がし始める流生。いい加減寝たふりをするのもつらかったが、とりあえずされるがままになっておく。ぶっちゃけ暁がどんな反応をするか俺には皆目検討もつかない。悲鳴をあげて逃げ出すか、怒って流生を罵るか、何にせよされるがままということはないだろう。

「あっ……!」

尻を揉まれてつい大きい声を出してしまう。しまった、と思う間もなく唇を舐められた。こいつ、従順そうな面して真性の変態だな。

「あき君、あき君……っ」

うわ言のように名前を呼び、追い詰められたような声を出しているくせに手はまったく止まらない。硬くなった奴のモノが押し当てられて、相手も相当限界にきているのが嫌でもわかる。もうほとんど脱がされているにも関わらず、あと一歩踏み込んでこないので俺は少し背中を押してやることにした。

「流生」

「……っ、あきくん!」

起きていたことはわかっていたはずなのに、目が覚めた俺にビビりまくる流生。俺はそのまま奴の首に手をまわし、寝ぼけ眼のまま誘い文句を口にした。

「流生ならいいよ、俺」

「……!」

「俺のこと、好きにしてくれていいよ」

俺の言葉にフリーズしてかっちかちに固まる流生。そうだろう、そうだろう。大好きな暁君がヤっちゃっていいよ宣言をしたのだ。もう辛抱たまらんだろう。

さあ思う存分やってくださいとしおらしい顔を貼り付けてスタンバっていた俺の耳に、突然この状況にそぐわない声が聞こえてきた。

「ははっ、はははははっ……」

「………流生?」

突然笑い出す流生にしおらしい演技も忘れてあっけにとられる俺。歓喜のあまり頭がおかしくなったのだろうか。いきなりサービスしすぎて奴には刺激が強すぎたのかもしれない。何にしろかなり不気味だ。

「いきなりなに? ……何で笑ってんの?」

さっさとその薄気味悪い笑い声を引っ込めろという意味も込めて問いかけると、奴は今にも泣きそうな顔で俺を見下ろした。そして悲しげな表情のまま、信じられない言葉をポツリと呟いた。


「やっぱり、あんた、あき君じゃないんだね」


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あきゅろす。
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