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しあわせの唄がきこえる
××フレンド




「お、お邪魔しまーす」

次の日の放課後、俺は寮にある流生の部屋へと通された。流生は俺が泊まると言ったときかなり驚いていた(自分から誘ったくせにおかしな話だ)が、大喜びで案内してくれた。

「その辺に座って、なにが飲みたい?」

「なんでも。ジュースあったらくれ」

「うん!」

流生に言われるまま居間でくつろぐ俺。寮の部屋は意外と広くて快適そうだった。男子寮といえばむさ苦しいイメージしかなかったが、さすが金持ち学校といったところか。1人部屋みたいだが、色々綺麗にしてあって俺の部屋の数倍整頓されている。

「どうぞ、あきくん」

「ん」

流生が運んできたオレンジジュースを口に運ぶ。奴はまるで自分の手作り料理を食べる恋人を見るかのような目で俺の飲む様を凝視していた。なんとなく息苦しい。

「どう? 美味しい?」

「普通。てかこれ俺の好きなヤツじゃねえ……」

そこまで言ってから気づいた。いま俺は、立川暁だ。尾藤忍ではない。自分の立場も忘れて偉そうに命令しようとしていたが、暁はこんな態度はとらないだろう。いくらこいつが奴隷にしてくれと言わんばかりに従順な姿勢を見せてきていたとしてもだ。

「や、ありがとう。お前は……飲まないのか?」

「いらない。喉渇いてないし」

「そ、そうか」

「あきくん、お腹すいてない? 何か、買ってこようか?」

「いや、別にいい」

こいつの暁に対する献身的な態度に改めて引いてしまう。いくら暁が好きだからって、いくらなんでもこれはちょっと行き過ぎなんじゃなかろうか。こいつ、いったい暁に何を求めているのか。尽くしてるだけで満足とかいう奇特なタイプか? 俺には理解できそうにない。というか、暁がいったいどういう距離感を持ってこいつと接していたのかも謎だ。あの鈍い暁だってここまでされたら気味悪く思いそうなものだが。

特に話すこともない俺達の間に、嫌な沈黙が流れた。普段こいつと暁はいったいどんな会話をしていたのか。どうにも思考回路がわかりにくい奴なだけに言葉選びにも慎重にならざるを得ない。

「あきくん! これ、見て」

無駄に緊張していた俺を他所に流生は、はしゃぎながら棚の奥からごそごそと何やら紙を取り出してきた。机に置かれたそれは何の変鉄もない旅行のパンフレットだった。

「冬休み、旅行いこうよ。二人で」

「……」

にこにこと微笑む流生は相変わらずの無邪気な瞳で俺を見つめていた。惜しげもなく向けられた純粋な好意に、俺はついつい気圧されてしまう。

「どこかいきたいとこ、ある? あきくんが選んでいいよ」

「や、俺は……」

とりあえず俺が行くのは決定事項なのか。暁が断るはずもないと思っているのか勝手にどんどん話を進めていってしまう。

「流生が決めていいよ」

「やだ、あきくんが決めて。俺、あきくんと一緒にいられるなら、どこでもいい」

「……!」

こいつら、ほんとは付き合ってんじやないだろうか、と思わずにはいられないセリフだった。だとすれば浮気か? もしかして暁のヤツ、こいつと付き合いたいからあの美形の先輩をふったんじゃないだろうな。

「俺も流生といられたら、どこだっていいよ」

少し間を置いて、柄にもないことを呟いてみる。俺も暁もなかなか口にしなさそうなセリフだ。狙いはもちろん、こいつと暁が恋人同士かどうか確かめたいと思ったからだ。

「……っ」

流生は少し目を見開いた後、嬉しそうにはにかんだ。幸せそのものの笑顔に疑いはさらに深まる。二人の超イケメンを手玉にとるとは、暁のヤツ俺以上のやり手だ。決めつけるのは早いが、これはもう黒といってもいいだろう。一度暁を問い詰めてみた方がいいかもしれない。



俺がリスクを背負ってまで、この遠藤流生の部屋に来たのには理由がある。もちろんこいつが無害だと判断したからでもあるが、ここでいう害というのはあくまでも俺にとっては、という意味だ。俺の貞操観念は、自分でいうのもなんだが恐ろしく低い。

つまるところ俺は単純に、こいつに下心を持っていた。
毎夜、とまではさすがにいかないが男の相手をしていた俺はここでの禁欲生活に耐えきれそうになかった。だからこちらで後腐れなさそうな都合のいい男をてきとうに見繕ってしまおうと思っていた俺にとっては、遠藤流生はとても都合が良かったのだ。面はいいし、従順だし、四六時中一緒にいるから、好きなときにヤれる。我ながらいいアイディアだ。


恋人同士ならすぐにでも押し倒してくれ、と思っていた俺だが、予想に反して流生はその後も何もしてこようとしなかった。旅行の話や学校の話をして終わり。夜ご飯は買ってきたものを二人で食べて、部屋についている意外と広い風呂に交代で入った。付き合ってるなら一緒に入浴してくれてもいいと思うのだが、お互いの髪を乾かしあって終わり。これはもう恐ろしくプラトニックな恋人関係なのか、行き過ぎた友情のどちらなのかわからない。よだれを垂らさんばかりに暁を見ていたから、てっきり手の早いものだとばかり思っていたが、予想が完全にはずれた。




「……同じベッド?」

そして夜中の二時をすぎた頃、ようやく寝ようと言い出した流生が通してくれたのはヤツのたったひとつしかないベッドの上だった。

「嫌?」

「嫌じゃねえけど……」

なんてわかりやすい誘い方なのか。この状況でのこのこ一緒のベッドで寝て、何かされても文句は言えない。

「そんな顔しないで、あきくん。大丈夫だから」

その流生の言葉にどんな意味があるのか、今の俺にはまったく判断がつかなかった。


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