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しあわせの唄がきこえる
立川暁の展望






強くならなければならない。それもかなりの短期間、かなりの急ぎめで。



そんな無謀な決意を胸に、両親の再婚という大変喜ばしい理由により母親と共に引っ越してきた俺は、今日より私立西槻学園に編入することとなった。この学園は男ばかりの男子校で、交通の便も悪いかなり悪条件の学校だ。俺がそんな学校を選んだのにはいくつかの訳があった。


まず1つ、ここには俺の幼なじみで親友の町森桃吾(マチモリトウゴ)がいること。彼は小学生までこの近くに住んでいた俺の一番の親友だった。引っ越ししてしまった後もこまめに連絡をとりあっていた数少ない友人の1人でもある。きっと彼と同じクラスにはなれないだろうが、1人でも気心の知れた友人がいれば心持ちも違ってくる。


そして、もう1つの理由にして最大の理由。
それは一月以上前、引っ越しが決まってから初めて桃吾に電話をした日に遡る。









『ええっ、お前の親再婚すんの?』

俺が両親の再婚を伝えたのは、友人の中では桃吾が一番だった。かなりびっくりしたらしい桃吾の大きな声が受話器から聞こえてくる。

『良かったじゃんか! 暁(アキラ)、またみんなで暮らしたいってずーっと言ってたもんな』

「うん。やっと念願が叶ったんだ。またそっちに戻るから、いつでも桃吾に会えるよ」

『うわぁー、楽しみだなぁ。で、いつ来るんだよ』

「夏休みまでに引っ越し先決めて、夏休み明けにはそっちで生活を始めるつもり」

『引っ越し先? それは親父さんとこだろ?』

「……いやー、実はまだ一緒には暮らさないんだ」

『なんで?』

聞かれると思った。そりゃ当然だ。でもそれは非情に複雑な問題なので、いま電話で話す気にはなれない。

「長くなるから、今度直接話すよ。どうせすぐに会えるだろうし」

『わかった、待ってる。こっちで暮らし始めたら毎日俺に会いに来いよ』

「毎日は無理だろ。俺じゃなくて、お前が」

桃吾はバスケのスポーツ推薦で私立の有名な学校に通っていて、しかも学校の隣にある寮住まいときている。俺の相手などしている暇はないだろう。

『つか暁、学校はどうするんだよ。こっちからじゃいくらなんでも通えないよな』

「もちろん転校するよ。こっちでの友達と別れるのは寂しいけど、やっと夢が叶ったんだから我慢するさ」

『どこ? やっぱレベル下げてでも公立?』

「いや、それはまだ決めてない。私立でも公立でも、好きなとこに行っていいって母さんは言ってくれてるけど…」

『なんだ、だったら俺の学校に来ればいいじゃん。そしたらもっとたくさん暁に会えるし。お前頭良いんだから、うちにだって来れるだろ』

「……」

電話口から聞こえる優しい幼なじみの言葉に俺は不覚にも泣きそうになってしまった。直で会っていたらみっともない姿を見せていたかもしれない。

『ありがとなぁ、桃吾。そんなこと言ってくれるのお前だけだよ』

「んな大袈裟な。別に普通だろ、普通」

「全然普通じゃないよ。今さっき、弟に『俺の学校には絶対来んな』っていわれたとこだし…」

『弟って、忍のこと?』

「当たり前だろ、他に弟がいるかよ」

弟の忍は親が離婚してから離れ離れに暮らしている俺のたった1人の兄弟だ。俺は母親、あいつは父親に引き取られてから兄らしいことはまるでしてやれなかった。そして離れて暮らすうちに、弟は昔の可愛い弟ではなくなっていた。

『ところで暁、俺の学校に来るのは大歓迎というかむしろ来てほしいぐらいなんだけどな、ちょっとした問題があるんだよ』

「問題?」

『うちって、男子校なんだよな』

「知ってるけど。別にいいよ、そんなこと。それを言うなら弟の学校も男子校だし」

『いや、問題はそこじゃないんだ。うちの学校には男子校特有の習慣というか特性というか、それが日常になっちまってるところがあって。むしろ“そういう生徒”が集まってる傾向があるんだよ。いや、俺のクラスはスポーツ推薦の奴らが集まってるから、全然そんなことないんだけど』

「男子校特有の習慣、特性、そういう生徒……?」

『あー、俺の口からは言いづらいな。1日でも体験入学すれば嫌でもわかるんだけど。やっぱ男子校って女子がいないじゃん? だからさぁ、ほら…』

言葉を濁すだけ濁しまくって、なかなか話そうとしない桃吾。しかしそんな彼の様子から、勘のいい俺はピンときてしまった。いや、男子校に通う弟のおかげともいえるが。

「大丈夫だ、桃吾。口にする必要はない。お前が言いたいことはわかった」

『えっ、ほんとに?』

「ああ。弟の男子校も似たようなものだからな」

『マジで!?』

なぜか俺の両親再婚よりも驚いているように聞こえる桃吾の声。すでに知っているものだと思っていたが、弟の学校はそこまで有名じゃないのだろうか。

「でも大丈夫大丈夫、俺別に気にしないから。自分の身さえ守れればいいんだろ」

「いや、そりゃそうだけど…」

「むしろ新鮮でいい刺激になっていいかも。よし、決めた。俺桃吾の学校行くわ」

「マジか! 誘っといてなんだけど、お前すごい度胸だなぁ。なんか見直したわ、うん」


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