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しあわせの唄がきこえる
親友と初恋



その後も母親は俺にまったく気づくことなく、お叱り半分世間話半分でその日は終わった。あまり干渉してくるタイプではないらしく、学校の様子などをしつこくきいてきたりはしなかった。これなら小言さえ我慢すればなんとか1ヶ月間我慢できそうだ。そして恐らく、母親は暁が嫌がらせをされていることを知らない。そのイジメの程度がどのくらいなのかは、学校に行ってみなければわからないが、暁があんな風に言うということは恐らくかなりあからさまなのだと思う。いったい俺の片割れが学校でどんな扱いを受けているのか、明日が少し楽しみでもあった。









次の日、俺は暁におしえられた道をなぞって西槻学園に登校した。家から高校まではかなり遠かったが、電車とバスの乗り換えさえ覚えていれば、迷うことなくたどり着けた。

私立丸出し、とでもいえばいいのか、西槻学園はうちの学校よりよっぽど豪華だった。寮生がほとんどというだけあって門をくぐるまでいなかった生徒たちが、敷地内に入ればたくさんいる。周囲をそれとなく窺いながら靴を履き替えそのまま暁のクラスに向かおうとした俺は、あることに気がついた。

廊下を歩いていてすれ違う生徒、いや遠目に見る生徒にすら“俺”は見られていた。けしてあからさまに凝視されているわけではない。だがどいつもこいつも、視線の端に暁をとらえている。浮いている、いじめられているというだけあってその視線には敵意、妬みがこめられている気がした。だが、それだけではない。その視線の半分には、明らかに暁に敵意とはまた別の思惑がこめられていた。


「……おいおい、マジかよ……」

男遊びを繰り返し、さんざん駆け引きをしてきた俺だからわかる。暁のことを疎ましく思う奴らと同じくらい、暁を性的な目で見ている奴らがいる。こんな危険地帯で、今までよく無事でいられたものだ。ある意味うちの学校より恐ろしい。

教室に入ってもその視線に変化はなく、わかりづらく悪目立ちをしているようでどうにも居心地が悪かった。話通り、クラスに親しい友人は皆無で話しかけてくる奴はいない。名前を覚える人数が少なくて俺としては楽だったが、兄弟がこんな腫れ物扱いなのは、なんとなく微妙な気分だ。



「あき君、おはよー」

ふて寝でもしようかと思っていた矢先、俺の前に1人の男が立って挨拶してきた。あき君呼びのクラスメートといえば、クラスで唯一の暁の友達、遠藤流生しかいない。

「おはよう、流生」

普段通りの立川暁として振る舞おうと、遠藤流生に笑顔で挨拶を返そうした。だがその“友達”を見た瞬間、俺は背筋が凍りついた。

「あき君、今日早いね。何かあるの?」

「や、別に、何も…」

な、な、なんだこいつ…! これがほんとに暁の親友か!?

「そっかぁ。予習してきてないなら、見せてあげようと思ったのに」

「……っ」

暁の隣の席に鞄を置き、そのまま笑顔で俺を優しく抱き込む。まさかの抱擁に俺は避けることもできずその場で硬直した。

「そうだ、あき君、俺の部屋に泊まること、お母さんに話してくれた?」

一通り抱き締めて満足したのか、満面の笑みでそんなことを口走り俺から離れる。平静を装うのに必死で、俺の取り繕った顔はひきつった笑みを浮かべていた。

「と、泊まり?」

「そう。前に言ったじゃん。忘れるなんて酷いよ……って、あき君? なんか、顔色悪いよ?」

「だ、大丈夫。悪い流生、ちょっとトイレ行ってくる」

「あき君?」

怪訝な顔をする流生を振り切って、教室から出ていく。いくら変に思われようとも、普通の顔を崩さずにこれ以上ここにはいられない。そのままトイレの個室に駆け込んだ俺は、壁に寄りかかりゆっくり息を吐いた。


「なんだよ、あれ……」


遠藤流生。長身金髪、生徒会役員、暁のクラスメート、暁の親友。俺はそう聞いていた。顔は崎谷一成と並びそうなぐらいの凄い美形だったが、そんなことはどうだっていい。

俺が気になったのは、俺を、暁を見るあの目だ。他の奴らなんかの比じゃない、捕食者の目。下手に二人きりにでもなろうものなら、すぐに食われてしまうだろう。

「……っ」

鈍い暁はもちろん気づいていないはずだ。いや、だからこそあの遠藤とやらも二の足を踏んで今まで無事だったかもしれない。俺が少しでも奴のことを変に警戒したり、意識する様な態度を見せたりしたら即アウトだろう。

遠藤は喧嘩が強いと暁が言っていた。まだ少し話をしただけだが、簡単にあしらえる相手ではないのは確かだ。つけこみやすそうで、まるで隙がない。暁のふりも忘れ、思わず敵意をむき出しにしてしまいそうになったぐらいだ。


「……さて、どうしようか…」

遠藤への対応を何度もシミュレーションしながら、とりあえず自分を落ち着かせる。奴をどうするにしても、俺が暁ではないとバレるわけにはいかない。どんな時にも平常心と何も気づかないふりを忘れないようにしようと決め、とりあえず俺は教室に戻ることにした。


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あきゅろす。
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