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しあわせの唄がきこえる
002




「崎谷せんぱーい!」

「げっ」

今日もまた、3年のクラスに行き日課となった先輩への追っかけを始めた俺。俺を見つけた彼は羽生誠とまったく同じ、いやそれ以上に嫌そうな顔をしていた。

「先輩っ、今日こそ俺のこと認めてください!」

「あっち行け、寄ってくんな!」

先輩はちょっと逃げ腰に睨み付けてくる。どれだけ冷たくしても諦めない俺にちょっと気味の悪いものを感じてる目だ。

「駄目って言われても、俺は諦めませんよ。先輩と一緒にいたいんです!」

「だーっ、もう! 俺はお前といたくない!」

「でも俺、先輩のこと好きなんです」

「んなこと知るか! 早くどっか行けよ!」





先輩は相変わらず俺を受け入れてはくれなかったが、俺は諦められなかった。俺が先輩にしつこくすればするほど、俺への嫌がらせ行為はエスカレートしていったが、そんなの羽生に殺されそうになった時と比べたら問題ではない。それに流生の存在にだいぶ救われた。流生は俺をとても気遣ってくれたし、取り巻きがいるためいつでもというわけにもいかなかったが、なるべく一緒にいてくれた。物を隠されたりすることが多かったので私物は常に持ち歩き、上履きも必ず家に持ち帰るようにした。それでも靴箱にゴミを入れられたりするのはつらかったが、犯人を探す気にもなれなかった。俺にはもっと大事なことがあったのだ。






そんなある日、俺は机においてあった手紙により呼び出された。文面には昼休みに体育館倉庫の裏に来いと端的に書かれていた。明らかに怪しいものだったが、俺は行くことにした。



念のため流生には30分たっても俺から連絡がなければ、教師を呼んで倉庫裏に来てくれと言ってある。桃吾にはただ一緒に昼食を取れなくなったとだけ伝えた。桃吾には何があっても絶対に言えない。スポーツ科の彼はやはり情報に疎いらしく、俺の現状はまだ耳に入っていないようだった。ならばバレるまでは無駄に心配させる必要はない。


流生には行かない方がいいと止められたが、この手紙の主はおそらく俺に嫌がらせをしている人間だろう。ならば今話をつけなければもうチャンスはないかもしれない。俺には彼らの考えていることを知る良い機会だし、俺のしていることを納得して欲しかった。


俺が体育館裏にやってきたとき、嫌がらせの犯人はすでにそこにいた。彼らは全員で3人。皆俺よりも小柄で、実際ゴツい不良が来たらどうしようと不安だった俺は内心ほっとした。

「よく来たな、立川暁」

「……」

彼らは俺に気づくと全員が親の敵でも見るみたいに睨み付けてくる。その中の1人が信じられない程冷たい声で一方的に話し始めた。

「単刀直入に言う。崎谷様には近づくな」

「崎谷、さま?」

彼らが先輩とどういう関係かは知らないが、様付けとは驚きだ。いや、理事長の孫というぐらいだから彼はお金持ちの坊っちゃんなのだろう。一般人の俺にはわからないま金持ち同士の上流階級事情があるのかもしれない。

「崎谷様はお前に大変迷惑していらっしゃる。あの方の優しさに甘えて、しつこく付きまとうな」

「……あの、あなた達は崎谷先輩とはどういう関係なんですか?」

「僕らは、崎谷様の親衛隊だ。今日は隊員達の代表としてお前と話をつけにきた」

親衛隊。そう言われてもあまりピンと来ないが、確か流生にもそんなものがあった。しかし先輩は確か1人で行動し、友人はいないのではなかったか。

「お前があの方から離れないのなら、こっちだって考えがある。今よりももっと酷い目にあわせてやるぞ」

「…やっぱり、あのゴミや落書きはあなた達だったんですね」

「あれは警告だよ。そしてこれが最後のな」

「……」

彼らはきっと、俺と同じように崎谷先輩を尊敬し慕っているのだろう。だからこそ先輩にしつこくまとわりつく俺に対して怒っているのだ。その怒りは当然だろうと思う。先輩を不快にさせないように身を引いている時に、新参者が好き勝手やっていたら誰だって腹が立つ。

「……崎谷先輩の迷惑になっていることは、俺もわかっているんです。先輩の優しさに甘えてるってことも。でも俺は、このまま引き下がりたくない」

「お前、なに自分勝手なことを…!」

「でもあなた達だって、このままでいいって思ってるわけじゃないでしょう!?」

「っ……」

彼に何があったのか俺は知らない。でもいくら崎谷先輩が孤独を望んでいたって、ずっと1人でいることがあの人のためになるなんて絶対に思わない。それは彼らだって同じはずだ。

「俺、どうしても諦めたくないんです。確かに俺は自分勝手な都合で先輩を困らせているかもしれません。でも俺が先輩が好きだという気持ちは本物です。だからどうか、俺のこと認めてください! お願いします!」

軽い気持ちなのではないのだとなんとかわかってほしくて、彼らに頭を下げる。最終的に先輩が受け入れてくれる保証がなくても、俺は出来る限り頑張りたい。

「…そ、そんなの、お前だけじゃない。僕らはずっと崎谷様を見てきたんだ。それを転校してきたばかりのお前にあの人をわたせるもんか」

「でも、それは…」

「うるさい! 僕らはお前なんか絶対に認めない。お前が崎谷様に近づく限り、徹底的に追い詰めてやるからな!」


彼らはそう言い残すと逃げるように走って行ってしまう。口を挟む隙も止める間もなかった。

けしてうまくいくとは思っていなかったが、やはりわかってもらえないことはつらかった。きっと嫌がらせはどうしたって止まらないし、もっと酷くなっていくかもしれない。けれど例えどんな目にあったとしても諦めたくない。俺は改めてそう決心していた。


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