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しあわせの唄がきこえる
003




その後、俺は不良のトップ3と共に食事をさせてもらっていたが、流生のあの視線のせいで俺は気も漫ろだった。羽生に自分をアピールするせっかく機会だというのに、黙々と食べ物を口に運ぶことしかできない。

「あっきー、何でさっきからチラチラ遠藤の方見てんの?」

「え」

どうやら俺の不自然な目の動きに戸上さんは気づいていたらしい。彼は割り箸を指でもてあそびながら俺に笑顔を向けてくる。

「まさかあっきー、遠藤と仲良くしてんじゃないよな?」

「え」

笑顔で訊いてくるのが逆に怖い。なぜ流生も戸上さんも俺の交遊関係に口を出してくるのか。どうして俺が二人の間で板挟みみたいになっているのか。

「戸上さん、何でそんなにる…遠藤を嫌うんですか」

「別に嫌いじゃないよ。俺はただ、あっきーを心配してるだけ。とにかく、もう遠藤と仲良くしないでね」

「でも遠藤は隣の席ですし」

「他の奴と話してりゃいーじゃん!」

「いや、俺クラスにあんまり親しい奴いなくて……」

自分で言っててかなり悲しいが本当のことだ。戸上さんの俺を見る目が心無しか同情的になった。

「まぁ、遠藤の獲物に先にちょっかいかけるような命知らず、2年にいねーだろうしな」

「へ?」

「仕方ないなぁ、あっきー。友達いないんなら俺達んとこに来ればいいよ。なー、諫早?」

「え!? いや、その……」

「何言ってんだテメェ。勝手に俺ら混ぜてんなよ」

そう言って戸上さんの座っている椅子を乱暴に蹴り飛ばす羽生誠。戸上さんはよろけながらも器用に体勢を整え不満げな声をあげた。

「えー、羽生優しくなーい。鬼、鬼畜。だからセフレにも逃げられんだよ」

「うっせぇ戸上! ぶっ殺すぞ!」

セ、セフレがいるのか羽生誠。いかにもいそうだしあんまり驚かないけど。
ちょっとした小競り合いになっている二人を見てビクビクする諫早さんと俺。何気なく時計を確認すると中々にいい時間だった。これ以上ここにいても心臓に悪いだけなので、俺はとっくに食べ終わっていたお盆を手に取り立ち上がった。

「すみません、もうすぐ昼休みが終わるので俺はこれで失礼させていただきます」

「あれっ、あっきーもう行っちゃうの?」

「はい、お昼、誘っていただいてありがとうございました」

頭を下げた俺は、ばいばーい、という戸上さんの声を背中に歩き出す。羽生さんと親しくなれなかったのは残念だったが、今の俺はそれどころではない。自分のでもどうしてそこまでと疑問に思うくらい、流生に責められるのが嫌だったのだ。


「なんか、立川君可哀想ですよね。いい子なのに友達ができないなんて……」

「ばぁか。あっきーは可哀想なのが可愛くていいんじゃん」

「……僕、ボロボロの立川くんを慰める役なんか絶対嫌ですよ」

結局羽生さんとの距離を縮めることはできなかったが、まずは時間をかけて慣れることから始めていこう。流生のことも含め考え事ばかりをしていた俺の耳には、戸上さんと諫早さんの会話が聞こえてくることはなかった。












「あきくん」

「……」

教室で1人、自分の席で俯いている俺に、食堂から戻ってきた流生が声をかけてくる。かなり前から身構えていた俺だが、名前を呼ばれてビクリと体を震わせてしまった。

「食堂で、また戸上といたよね」

「……」

「何で、俺のいうこと聞けないの? あいつは危険だって、こんなに言ってるのに」

流生が心配してくれているのだろうということはわかるのだが、俺にだって都合がある。リスクがあるのは百も承知だ。それに今の俺にとっては戸上さんよりも流生の方が怖い。

「何でなんにも言わないの。全部、あき君のためなんだよ?」

流生の手がそっと俺の顔にのばされ、自分の方に向けようとしてくる。俺は思わずその手を払いのけてしまった。

「……っ」

「あき君…?」

その時の流生の寂しそうな顔といったら、まるで俺が悪いことをしているような気分にさせられた。いや、実際にしているのか。とにかく、俺は自分の考えをはっきりと流生に伝えなければ。

「……ごめん。流生が心配してくれるのは嬉しいけど、俺はどうしても羽生さんと親しくなりたいんだ。そのためには、戸上さんを避けるわけにはいかなくて」

「どうして、羽生なんかと仲良くなりたいの? 羽生も危険だよ。駄目、絶対許さない」

羽生誠を呼び捨てにした流生にちょっとびっくり。いや、不良の先輩にいちいちビビっていたら不良なんかできないだろうが。

「許さないってなんだよ。流生の許可なんかいらない。お前には関係ないだろ」

「……」

あーあ。ついに言ってしまった。関係ないとか、思ってても言うべきじゃなかった。それでも流生に関係ないのはほんとだ。だいたい、隣の席ってだけで何でこんなに俺の行動に口を出してくるのか謎だ。

「そんなことない! 関係あるもん!」

珍しく声を荒げる流生にクラスメートの視線がこちらに集中する。ハーレムの皆さんにまで注目され、どうにもいたたまれない。

「どう関係あんだよ。これは俺と先輩達の問題で…」

「俺があき君のこと、心配するのは当然じゃん! だって、あき君は俺の友達なんだから!」

「……!」

流生の言葉に、ガツンと後頭部を殴られたような衝撃を受ける。流生は今にも泣きそうな膨れっ面で俺を睨み付けていた。

「流生、俺のこと友達だって思ってくれてるの?」

「……あき君は、違うの?」

「ち、違わない」

友達、という流生の言葉が嬉しすぎて今まで話がすべてふっ飛んでしまった。パシりでもハーレムの一員でもなく、友達。流生は俺のことずっとそう思ってくれていたのか。

「あき君、俺のこと嫌い? 友達やだ?」

「や、やだじゃない。俺、流生と友達でいたい」

「本当に? 嬉しい!」

流生はふわりと笑うと、そっと抱きついてくる。クラスメート全員が見ている中でとても恥ずかしかったが、それも関係なくなるぐらい俺は嬉しかった。流生は大きな図体に似合わずまるで小さな子供で、友人に抱擁されるなんて妙な状況になっているにも関わらず、流生なら仕方ないとも思えた。友達ができないことに悩んでいた俺だが、流生がいるなら別にいいかという気もする。そのくらい、俺はこの新しい友人の事が大好きになっていたのだった。


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あきゅろす。
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