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しあわせの唄がきこえる
005※



「んん、……ああっ、あああ!」

全部俺がおしえてやるから、お前は何も気にしなくていい。そう言って桃吾に手取り足取り指導するはずだった俺は、すでに奴の下で喘がされていた。はたして俺の裸で勃つのかという不安は杞憂だったらしい。奴は俺が丁寧にほぐした中に熱く昂った自分のものを挿入し、最初こそ怖々動いていたがこちらが感じているとわかると段々と律動を激しくしていった。

「忍、気持ち、いいか……?」

「あっ、うん。いい、いいからっ」

「良かった……」

すでに一度イってしまっているのに、俺のはまた勃ちあがり始めている。もちろん奴にテクニックなんてものはなかったが、桃吾が自分の中にいるというだけで俺は興奮していた。

「んん…っ」

桃吾のがずるりと抜かれて吐息が思わずもれる。気持ち的にはもっといれたままでいてほしかったが、もう体力的には限界だった。桃吾に抱かれたなんていまだに信じられない。

「忍? どうした?」

小さく笑う俺を桃吾が不安そうに見ていた。胸が一杯でまともに話せない俺はかすれた声で小さく呟いた。

「なんでもない。ただ、嬉しくて……」

もし今まともに身体が動くなら俺は奴に抱きついていただろう。桃吾が心も身体も俺を求めてくれたのだ。俺みたいな奴がこんなに幸せになっていいのだろうか。

「…ありがとう、桃吾」

「忍」

この幸せの余韻に浸ろうと目を閉じていたが、再び中に異物が押し入ってくる感覚に俺は情けない悲鳴をあげた。見るともう元気になったらしい桃吾が、また俺の中に挿入していて、さすがの俺もこれには抵抗した。

「や、いやだ。もう無理だって!」

「俺を煽る忍が悪い。もっと忍の中にいたっていいだろ」

「嘘、お前。嫌、ん、んあっ」

力の入らない身体を揺さぶられ掠れた声で喘ぐ。主導権は俺のはずなのに、いつの間にか童貞相手にすっかり翻弄されている。

「あっ、桃吾……」

名前を呼ぶと桃吾が俺にキスをしてくれる。ただそれだけで、俺には今がこれまで生きてきた中で一番幸せな時間だと思えた。









「何でアンタまだいんの?!」

先にシャワーを浴びて出てくると、リビングの方から叫び声が聞こえた。タオルで髪を拭きながら顔を出すと、ソファーでふんぞり返る藤貴を指差しながら震えている桃吾がいた。

「桃吾、どうした?」

「どーもこーもない! 何でさっきの男が普通にここにいるんだよ!」

一瞬桃吾が何をそんなに怒っているのかわからなかったが、すぐに藤貴との仲を誤解されたままだと思い出した。奴もすぐに弁解するなりすればいいのに、呑気にテレビを見ながらシュークリームを頬張っている。

「まあまあ、桃吾くん。茶でも飲んで落ち着けよ」

「あ、どうも……ってそうじゃないだろ!」

藤貴は自分の家のように慣れた様子でお茶を注ぐ。桃吾が拒否したのでそれは俺がありがたく頂戴した。

「だいたいそれ俺が買ってきたやつじゃん! 何で勝手に食べてんの!?」

「廊下に落ちてたからもったいないと思って。うまかったよ、ありがとう」

「あんたに買ってきたんじゃないから!!」

怒りながらも律儀に突っ込む桃吾を横目に、藤貴に渡された形の崩れたシュークリームを食べる。美味しい。幸せのあまり浮かれた俺は怒っている桃吾を見ても格好いいとしか思わなかった。

「忍もなんとか言えよっ」

「実はこいつ、俺のセフレでも何でもないんだ」

「ええ!?」

「桃吾に諦めてもらおうと思って芝居を頼んだ、ただの友達。桃吾も仲良くなれると思うぜ。藤貴、いい奴だから」

「えええ……?」

「よろしくー」

にこやかに握手をしてくる俺の友人に呆然とする桃吾。俺がシャワーを使うように言うと腑に落ちない顔をしながらものろのろとリビングを出ていく。まだ頭の整理がつかないらしい恋人を俺はバスタオルと共に風呂場へと押し込んだのだった。








「……よかったな。忍」

「え? なんだよ藤貴、テレビの音うるさすぎて声聞こえねーよ」

「忍がいつもの三倍くらいデカい声あげてたからだろうが。ここまで丸聞こえなんだよ、気が散るだろ」

「…………お前、それ桃吾の前で言ったらコロス」




おしまい
2015/5/15

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