しあわせの唄がきこえる
004
そのままベッドに横にされた俺は何が起こったのかわからず暫くの間、ただ硬直していた。
「ん……?」
何やら思い詰めた顔で俺に覆い被さってきた桃吾にそのままキスされて、頭の中が真っ白になった。思わず身をよじって逃げようとしたが、奴の手で腕を押さえつけられて動けなくなった。
「なに、嫌だっ……やめろ桃吾!」
「やめない」
せっかくしめたボタンをいちいち丁寧にはずされて、俺はもう憤死してしまいそうだった。本気で抵抗すれば止められたのに、惚けていた俺は何もできなかった。無抵抗なのを了承のサインととったのか桃吾は俺の首筋に吸い付いてくる。
「ん…ッ!」
普段の俺ならこの程度なんともない。だが桃吾が自分の身体に触れているというだけで、身体が震えて素直に感じてしまう。女みたいな声を出してしまうのが嫌で必死に耐えていると、真っ赤な顔した桃吾が口を開いた。
「忍は俺が、男とできないって思ってんだろ。でも俺は忍が相手なら何でもできるよ」
「な、何でもって?」
「……できたら、抱かせてもらえたら嬉しいけど」
その瞬間、桃吾が何を言いたいのかがわかって今度は俺の方が真っ赤になった。こいつがここまで真剣に、というか具体的に考えていたとは思わなかった。
「でも俺、男はもちろんだけど、女ともしたことないから…痛かったりしたら遠慮なく言って欲しい」
「えっ、桃吾童貞?」
「……悪いかよ。バスケしかしてこなかったんだから、仕方ねぇだろ」
思わず臆面もなく聞き返してしまった俺を恥ずかしそうに睨み付ける桃吾。この男は俺の想像なんかよりもずっと純情だったらしい。
「まず、彼女ができたことないし」
「はあ!? 何でだよ、言い寄ってくる女なんかたくさんいただろ。お前こんなに…」
格好いいのに、と続けそうになり慌てて口を閉じる。こいつにそれを言うのは癪だ。桃吾に疑いの眼差しを向けると、困ったような顔をされた。
「告白してくれた子はいたけど、どうしても付き合う気にはなれなくて……」
「何で? 好みじゃなかったのか?」
「……」
「?」
俺を押し倒してるくせに、見てるこっちが恥ずかしくなるくらい照れてしまう桃吾。いつもの堂々とした姿はどこへやら、消えそうな震える声でこう言った。
「忍より好きだって思える人が、いなかったから」
「な……」
「昔、忍を傷つけたこと忘れられなかった。忍に謝りたいって思ってたけど、実際に会ったら離れたくなくなったから、どうしようって思ってたんだ」
「やめろよ、そんなこと言うの」
「なんで?」
「お前は俺を殺す気か……」
桃吾の言葉が嬉しすぎて顔を手で覆い隠す。ずっと好きだった初恋の相手が、俺のせいで誰の身体も知らないのだ。これは夢なんじゃないだろうかと頬をつねってみた。痛かった。
「……俺の負けだ、桃吾。今まで逃げたりしてごめん。俺も、お前が好きだ。」
「ほんとに? ほんとに俺と付き合ってくれるのか?」
「ああ。お前の方こそ、もう逃げられると思うなよ」
緊張のせいかガチガチに固まっている桃吾の首に手を回し口づける。俺の方も心臓が自分の一部とは思えないくらい激しく高鳴っていた。
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