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しあわせの唄がきこえる
003



「出ていくのはあんただよ。俺はここに残りたい」

「……はあ?」

まるで喧嘩でも売っているかのように、藤貴を睨み付ける桃吾。いつもの優しそうな顔はどこかへ消えていて、俺も藤貴も動揺していた。

「あんたに忍と本気で付き合う気はないんだろ。なら忍は俺がもらうことにする」

「いや、もらうって。忍の意思はどーなんだよ」

「そんなの関係ない。こいつは俺と一緒にいた方がいいんだ。だからあんたはもう二度と忍に関わらないでくれると、俺としてはすごく助かる」

「……っ」

恐ろしいことに桃吾の顔は本気だ。ドン引きどころかとんでもないことになってきた。どうするつもりだと藤貴をちらりと盗み見ると、驚いたことに奴は笑っていた。

「じゃあお前は本気で忍と付き合うってのかよ。こいつは好みなら誰とでも簡単に寝る軽い男だぜ。人をたらしこむことにかけては天才的だ。なに言われたか知らねぇけど、お前も騙されてんだよ」

桃吾を諦めさせるためか知らんが人のこと悪し様に言い過ぎだろう。こいつ親友面して人のことなんだと思ってるんだ。

「そんなことは関係ない。俺の忍が好きな気持ちに変わりはないし。あと忍の事を悪く言うのはやめろ」

い、いま俺のこと好きって言った!? 一瞬すぎてあんまり聞いてなかったけど、確かに言ったよな??

「もうすっかり彼氏気取りかよ。どんな理由があっても、俺がお前の命令を聞く義理なんかないんだけどな」

「少なくとも忍は、あんたの方に出ていってもらいたいと思ってるはずだけど」

「? …何で?」

「それはもちろん、忍は俺の事が好きだからだよ。あんたよりもずっと」

「……」

あまりに自信満々に言い放つ桃吾に藤貴の顔が変な方向に曲がる。俺は俺で奴のとんでもない発言に口をパクパクさせていた。

「はははっ、桃吾くんってすげー面白いんだな。忍がおかしくなるくらいだから、まともじゃないんだろーなとは予想してたけど」

「? 別に普通だと思うけど……」

「どうだかな。とりあえず、俺は今日のところは出てくよ。後は当人同士で解決してくれ」

「え……おい、藤貴!」

「じゃ、ごゆっくり」

この裏切り者! と叫ぶ間もなく部屋を出ていってしまう。いくら作戦が失敗したからといって今こいつと二人きりにはしないでくれ。俺はこのあとどうすればいいんだ。

「忍、あいつの事はもう忘れたらいい。これからは俺がいるから」

「……お前、何言っちゃってんの?」

「え……。だから、俺と真剣に付き合おうって話なんだけど」

「ひええ」

モウヤメテ! と両耳を塞ぎ悶える俺。コレ以上言われるといけないとわかっていてもほだされそうだ。

「今の藤貴の話、聞いてなかったのか? アイツが言ってたことは全部本当だ。俺がどんな人間かわかっただろ。もう昔の俺じゃないんだよ」

引いてくれるはずがこんなにアッサリ受け入れられてしまうなんて。この男が考えていることがまったくわからない。

「確かに今まではそうだったのかもしれないけど、これからは違うだろ。俺がいるんだから」

問題ないとでも言うように無邪気な笑顔を見せる桃吾に俺の方が引いてしまう。こいつのこの自信はいったいどこからくるんだ。

「俺の言ってることなんて、信用できねぇだろ。お前が好きとかいうのも全部嘘なのかもしれねぇのに」

「忍はそんな嘘つかない。それに何が本当だろうと俺の気持ちは変わらないから」

桃吾の告白よりも熱い言葉に目眩がする。これって、俺が好きだって告白してるんだよな。

「お前、この前どっちでもいいって言ってたじゃねーか」

「? この前?」

「友達でも恋人でも、どっちでもいいって…」

「どっちでもいいなんて言ってない。忍が俺と今は付き合いたくないって言うから、待ってたんだ」

そんなこと言ったっけ? と俺は数秒間考え込む。いやいやそういう話ではなかったはずだ。駄目だ、流されてはいけない。

「俺は、お前の言葉が信じられない。本気で言ってるつもりかもしれねえけど、ノーマルな桃吾に俺と付き合うなんてできないんだよ」

藤貴の指示ではずしていたボタンをとめなおし、視線をそらす。桃吾にみっともない姿をさらしてしまった事を恥ずかしく思っていると、いきなり桃吾が俺の身体を押し倒した。


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