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しあわせの唄がきこえる
終わらない初恋


相馬と宮地の二人と一応関係を切ることができて安堵していた俺だが、目下の問題がまだ残されていた。最近の悩みの種は怒濤のメール攻撃で俺を苦しめていた。

「桃吾がマジでうざい」

「……」

俺の部屋でベッドに寝転んでいた藤貴は漫画雑誌から視線をそらし、やつれた俺を一瞥する。その瞬間にも桃吾から返信催促のメールが届き頭を抱えた。

「お前が無視するからだろ。さっさと返事してやれって」

「だって桃吾またすぐ返信してくるし。きりがないんだよ」

もともとメールなんかまめにするタイプではないのだ。最初は桃吾からメールが来るたびドキドキしていたが、今はまた来たのかとしか思えない。暁もたいがいウザいが最近は崎谷に分散されるだけまだマシだ。

「しかもまた内容が、俺に会いたいってそればっか」

「会えば良いだろ。大好きな桃吾くんなんだから」

「会ったら投げ捨てて奥深くまで埋めたはずの感情がよみがえってくるから嫌なんだよ!!」

今でさえ桃吾の影がちらついて好みの男と遊ぶこともできない状態なのだ。このまま友達関係を続けても辛いだけだろう。

「俺としては桃吾と縁を切って新しい出会いを探したい! あいつを忘れられるなら本命を作ったって良い!」

「えーー、じゃあ別に桃吾くんと付き合ったらいいじゃん。本人にもそう言われたんだろ?」

横になった藤貴が漫画から目を話すことなくいい加減な事を言う。何にもわかってない奴に俺はキレた。

「あいつは男と付き合うってのがどういうことかわかってない! 友達の延長線上としか思ってねえんだよ! どうせダメになるのがわかってんだから付き合うなんてあり得ない」

「んー、まあそれは否定しきれないな」

「だろ!?」

軽い気持ちで付き合うだの友達でいたいだのと言う桃吾の言葉をいちいちまともに取り合うつもりはない。何より、後からやっぱり無理だと言われて傷つきたくない。あんな思いをするのはもうごめんだ。

「かといって正直に話したところで素直に引いてくれるわけねぇし。もうどうすれば……」

「俺が何とかしてやろうか」

「え」

藤貴がようやく漫画雑誌を投げ出し身体を起こす。奴の胡散臭い笑顔に思わず疑いの眼差しを向けてしまう。

「お前が自分からそんなこと言うなんて珍しい」

「代わりに俺の頼みも聞いてくれるなら、だけどな」

「あ、やっぱり」

言われたことはきっちりするが、基本面倒くさがりなのが藤貴だ。なぜか暁の世話は焼きたがっているが、基本的に自分からは動かない。何か俺に頼みがあるということ事態珍しいのだ。

「言ってみろよ。俺にできることならするけど」

「ほんとに?」

笑顔の藤貴が俺の手をとって前のめりになった。奴の黒縁眼鏡がキラリと光った。

「忍、高校卒業したら、俺と二人で住んでくれ」

「藤貴……」

俺の手を握りまっすぐ見つめてくる藤貴。奴の必死な目に俺はため息をついた。

「お前、まだ親と喧嘩してんのかよ」

「喧嘩じゃねーし! あいつらとは一生わかりあえねぇんだもん!」

ベッドに顔を埋めて足をバタつかせる藤貴。俺の手を握る力が強くて微妙に痛い。

「だってさ、お前らもうすぐ家族四人で住むんだろ? 暁だけならまだしもおふくろさんがいる家に泊まり続けられねぇじゃん。俺どこに帰ればいいんだよ」

「実家に帰れば?」

「俺と親の仲の悪さ知ってるくせに何でそん冷たいこと言えんの? 鬼?」

昔から藤貴と両親の中は険悪で、とにかく神経質でまめな親とテキトーな藤貴はよくぶつかっていた。奴がランクを下げて底辺高校に入ったことで亀裂が決定的になってからは俺の家にほぼ住んでいる状態だ。その恩返しのつもりなのか奴は俺の頼みはまず断らず、今の関係が定着してしまった。時々藤貴の両親から生存確認の連絡が来るから、見捨てられてるわけではないのだろうが、不良息子は電話で話すのも拒否していた。

「別にいいよ、ってか俺も早く家出たいし。暁と母親と四六時中一緒にいんのはキツいわ」

「忍……!」

ぶんぶんと俺の手を勢いよく何度も振ってくる。どんだけ家に帰りたくないんだこいつ。

「で、具体的にはどーするわけ? 言ったからには何か良い方法があるんだろうな」

「もちろん。桃吾くんを呼んでくれたら俺が全部うまいことやってやるよ」

あまりにも自信たっぷりに言うので、俺は不安に思いつつも奴にすべて任せることにした。
こうしてずっと逃げ続けていた桃吾に連絡を取り、俺は奴を自宅に呼び出したのだった。


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あきゅろす。
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