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しあわせの唄がきこえる
005


あくる日の夜、俺は人通りの少ない公園のベンチに相馬を呼び出していた。奴と二人きりになるのは危険だと宮路の一件で身に染みてわかったが、かといって人目の多い場所で話せるような事でもない。色々と考えた末無難に外、尚且つすぐ近くに藤貴を待機させての話し合いとなった。


「よっ」

「……」

待ち合わせ時刻10分前にも関わらず相馬は指定したベンチに座っていた。声をかけても殆ど反応がないのはいつものことだが、今日はなんだかいつもよりさらに暗い。嫌な予感がする。

「こんな所にいきなり呼び出して悪かったな。誰にも見られない場所で話したかったからさ」

「……お前の家じゃ駄目なのか?」

「いや、俺の家は今ちょっとアレで」

お前がキレて逆上した時俺と藤貴では止められないかもしれないからとは言えない。というかこいつ家に入れた瞬間襲ってきそうで怖い。

「で、話って?」

相馬は俺に座るよう視線で促したが、俺は首を振った。警戒心丸出しの俺を見て奴は目を細めた。

「俺、好きな奴ができた」

「……」

宮路に話したときはただの理由付けだったが、アイツに襲われたとき、俺はもう好きでもない男とは寝られないのだとわかった。そんなことをして桃吾と付き合えるわけでもないのに馬鹿な話だ。

「だからお前らとはもう会わない。宮路にはもう言った。アイツとはちょっともめたけど、お前にはわかってもらいたい」

ちらっと奴の顔を窺うが、無表情のままこちらを見ようともしない。怒っているのだろうかと沈黙にドキドキしていると、すくっと奴が立ち上がった。思わず固まっていると腕を勢い良く引かれ、そのまま抱き締められた。

「うわっ、な、なに」

「逃げるな。何もしない」

「えっ」

逃げるなと言われても腕の力が強すぎて俺でも動けそうにない。いったいこれは何なのかとただただ硬直するしかない。もういい加減離してくれとお願いしそうになるくらい長く抱き締められていた俺は、解放されたとき肩で息をしていた。

「わかった。お前がそう言うなら従う」

「えっ、いいの?!」

「ああ。元々そういう約束だろ」

「……」

散々身構えていただけにあっさり了承されて言葉もない。もっともめると思っていたのは俺の考えすぎだったか。もともと相馬は誰かに執着したりしないタイプだ。俺などに固執する理由はない。

「ごめんな。俺の都合で振り回して」

「別にいい。俺もおかげでしばらく平穏だったからな。こっちも楽させてもらった」

「……」

出会った当初のドライな相馬を思い出して、こいつと体の関係があったことが信じられなくなってきた。宮路があんなことを言うからもめるかと思っていたが、ただのあいつのでまかせだったのだろう。

「お前が惚れた相手にはちょっと興味あるな。とっかえひっかえだったお前がそこまで一途になるほどの相手なんだろ」

「……」

そう言われると桃吾にそこまでの魅力があるのかは謎だ。暁相手にはあんなに良い奴だったのに、どうして俺には自分勝手で思いやりのない男になってしまうのか。それでも嫌いになれないのだから完全に俺の負けだ。

「……本当は、俺がそう思わせてやりたかったけど…俺じゃ無理だからな」

「え?」

聞こえるか聞こえないかくらいの声でぼそりと呟いた相馬は、俺の頭をぐしゃぐしゃにして小さく笑う。

「お前とあんな取り引きした時、諦めたんだ。今更気になんかしねぇよ」

訳がわからず顔をしかめる俺から手を離し、ひらひらと振る。そしてそのまま踵を返して歩いていってしまった。

「次会うときは敵同士だ。じゃあな、忍」

何も言えずに呆然とする俺を残して去っていく相馬。告白みたいなことをされた気がするが、奴の真意はよくわからない。ただ俺が相馬を傷つけてしまったということだけは理解できたし、その事をひどく後悔している自分に驚いていた。


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