しあわせの唄がきこえる
真夜中の訪問者
夜、リビングでテレビと電気をつけたまま眠ってしまっていた俺は、インターホンの音で目が覚めた。とっさに時計を見ると12時ちょうど。窓の外が真っ暗なので深夜12時だ。
こんな時間にお客とは、夜勤帰りの父親が鍵でもなくしてしまったのだろうかと、俺は半分眠ったまま立ち上がり玄関へと向かう。この時の俺は完全に警戒心がどこかへいってしまっていた。
「はいはいそんな押さなくっても今開けるって」
鳴り続けるベルの音にイラつきながらもドアを開ける。けれどそこに立っていたのは父親ではなかった。
「お、前……」
「尾藤」
一瞬、不審者かと思ったが目の前の大男の顔をよく見るとよく見知った顔だ。俺が一ヶ月前、縁を切ったつもりでいた奴だった。
「相馬! 何で…っ、ええっ!?」
うちと敵対する高校のボス、相馬にそのままぎゅっと強く抱き締められ呆然とする俺。いま何が起こっているのかまるでわからない。
「今日でやっと一ヶ月だろ」
「一ヶ月?」
そうだ、暁の学校にいく前、俺はこいつと宮路に一ヶ月は会いに来るなと言っていた。こいつらの学校の連中をおとなしくさせるため二人をずっと利用していたが、一月も開けば俺の事などどうでもよくなっているだろうと連絡がくるまでは無視するつもりだったのだ。それでまた抗争が始まってもそれはそれで仕方ないと思っていたのに、まさかわざわざ家にまで来るなんて。
「お前ちょっとは時間とか考えろよ。連絡もよこさず来て、親父が帰ってきたらどーすんだ。てか離せ、今すぐ離せ」
「忍うるせーよ、何やってんの」
後ろから声をかけてきたのは同じく寝ぼけ眼のままの藤貴だ。リビングで一緒に眠りこけてしまっていたが、俺が大声を出したので目が覚めたらしい。この時ばかりは奴が泊まっていてくれた事に感謝した。
「藤貴、いいところに! 助けてくれ!」
「ん……? 誰かと思ったら相馬さんじゃん。いちゃつくのはいいけど時間考えろよな」
「いちゃついてねぇ!」
「忍、俺ベッド借りるから。ごゆっくり〜」
「おい! 助けろよ! 藤貴!」
こいつに助けを求めたのが間違いだ。まさか親友のピンチにも寝ぼけた藤貴は気づかず、俺の部屋へと引っ込んでしまう。奴を慌てて追いかけようとしたが、相馬がけして俺を離さなかった。
「ずっと待ってたんだ。会えて嬉しい」
「……」
相馬の扱いには気を付けろ、という宮路の言葉を思い出す。俺としてはこいつとはもう縁を切ってただの敵同士としてやっていきたいが、奴がそれを望んでいないことは今日わかった。しかし俺が奴に本気でない事など当然知っていると思っていたが、それすら自信がなくなってきた。これ以上下手なことは言わない方がいい。
「尾藤、入っていいか?」
「良いわけねぇだろ。こっちの都合考えろっつってんだよ、馬鹿」
仮に俺がその気になっていたとしても、今日は父親が帰ってくる予定の日なのでうちにあげることはできない。まさか俺とゆっくりお茶でも飲むために家に来たわけでもあるまい。
その後俺は30分近くかけて奴を説得、今日は駄目だということをようやくわかってもらった。けれど奴を帰した後も個人的に会うつもりはもうない事をどうやって伝えるべきか、悩みに悩んだ俺はその日まともに眠ることができなかった。
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