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しあわせの唄がきこえる
家庭の事情




遠藤…もとい流生はその後、緊張する俺に何度か話しかけてくれた。彼の第一印象はよくにこにこと笑う気さくな男。だが同じくらいの身長の男なのに、なぜか年下相手のような気分になってくるから不思議だ。


「あきくん、もっとこっちおいで。机くっつけようよ」

「……いや、俺達だけくっつけてたらおかしいだろ」

「俺の教科書見せてあげる」

「教科書なら、もう持ってるから。でもありがと」

俺が断ると流生は目に見えて不満そうな顔をした。懐かれているのか何なのかはわからないが、こんなに早く不良の友達ができるなんて、これはかなり幸先のいいスタートかもしれない。しかも相手は芸能人みたいなイケメンだ。

「あきくん、部屋どこ? 今日行く」

「俺、自宅通学だから」

「えー」

今度はもっとあからさまに嫌そうな顔をした流生。自宅通学なんてあり得ない、と顔に書いてあった。確かにあの長い距離を通学するのはちょっと大変だが、いつか家族全員で住むことを考えればちっとも苦ではなかった。しかし流生の反応を見る限り、ここの生徒の大半は寮生活なのだろうか。

その日の昼休み、流生はにこにこと機嫌良さそうに微笑みながらしながら俺の腕を掴んだ。

「あきくん、一緒にご飯食べよ」

「え、あ…」

流生のお誘いは嬉しかったが、実は俺にはもう先約があった。しかし転校生に気を使って誘ってくれた流生の優しさになかなかはっきり断れずにいると、流生の周りにわらわらと人が集まってきた。

「流生君! 今日はどこでご飯食べる?」

「購買でジュース買ってくるよ、何がいい?」

「流生君のためにクッキー作ってきたんだ。良かったら食べて」

昼休み開始と同時に甲斐甲斐しく流生の世話を焼こうと寄ってきた生徒達。その異様な光景に俺は度肝を抜かれた。しかし流生はいつものことなのか、特に何も言わず男達に指示をしている。

「……っ」

これはどう考えても絶対にただの友達関係ではない。身も蓋も無い表現をするなら、ただの使いっぱしりだ。パシられ側が乗り気なことを除けば、ここにいる全員立派な流生の駒使いだろう。
あまりにも気さくなので忘れかけていたが、流生は不良なのだ。そりゃパシりの5人や10人いて当たり前。彼らの様子から察するに脅されているわけではなく、むしろ率先して使われているようだ。どうにもか細く弱そうな男達ばかりだから、もしかするとパシられる代わりに他の不良達から守ってもらっているのかもしれない。
そんな想像をしながら立ち尽くしていた俺を、囲まれていた流生が手招きして呼んだ。

「あきくんも、早く混ざりなよ」

「えっ」

混ざるって、この団体にか。俺は結構流生と友達になった気分でいたのだが、まさか新たなパシりの一員に加えられていただけ? 地味にショックだが、この際強い男の庇護下に入れてもらった方がいいかもしれない。そうすれば俺も安全な学生ライフが……いやいや違うだろ俺。安全にぬくぬくと学生やっててどうする。俺はここに強くなりに来たんだから。この学園最強の不良、羽生誠に会う前に自分のボスを決めてしまうわけにはいかない。

「お、俺はまだいいです! ごめんなさい!」

「…まだ?」

せっかくの向こうからの誘いを断ってしまうなんて、もったいないとは思うが仕方ない。頭を下げて丁重にお断りした俺は、不思議そうに首を傾げる流生をおいて自分の弁当を持ち教室から逃げ出した。











蒼井君の忠告通り、人のいるところを選びながら俺は中庭までやってきていた。お目当てはもちろん、俺の親友、町森桃吾に会うためだ。

「桃吾ー!」

懐かしい姿を見つけた俺は、手を大きく振りながらかけよっていく。桃吾は俺を見つけると笑顔で歩み寄ってきた。

「ひっさしぶり! 桃吾元気にしてたかー?」

「元気に決まってんだろ! てか夏休みに会ったし!」

会ってすぐに桃吾と謎のハイタッチ。俺達のノリは自分でもよくわからないが、きっと小学生の時別れたきりだからお互いの関係が幼いままなのだろう。

「実際来てみてどうよ、この学校は」

「いや、まあ来て早々大変な目にあったけど、意外と普通な感じ。パッと見は」

率直な意見を言うと桃吾はおかしそうにけらけらと笑った。ただでさえ垂れ気味な目尻がさらに下がっている。

「確かに、パッと見はな。俺も最初しばらくは異常に気づかなかったし」

「あ、でも俺のクラスに金髪のすげー取り巻き連れてる奴いるよ。あれは異様だった」

「それって遠藤流生だろ。こっちでも結構有名だぜ、そいつ。ヤバいから」

「へぇー…」

やはりあの流生という男、ただ者ではないのか。誘いを断ったから明日から目をつけられたりしないだろうか、と一瞬考えたが彼はなんとなくそういったことはしない気がした。まだまともに関わってもいない相手におかしな話だが。

「そんなことはまあ、置いといて。よく来たな、暁。お前がきてくれてすっげぇ嬉しいよ。また昔みたいにたくさん遊ぼうな!」

「と、桃吾…」

俺は飛び付きたくなる衝動をおさえ、太陽みたいに笑う友人を見つめる。色々不安はあるがここに転校してきて良かった。昔とちっとも変わらない幼なじみの優しさに俺は1人感激していた。


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