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しあわせの唄がきこえる
004


「よっ、今ちょっといいか?」

俺はその日の放課後、帰ろうとしていた遠藤に声をかけた。隣に連れ立っていた男達に目で合図をすると、さっと全員その場から離れた。よく躾られているものだ。

「俺も、しー君と話したかった。羽生と、随分仲良いみたいだから」

「あ、あれは悪かったよ。でも別に問題ないから」

誰もいなくなった教室で、俺は後ろのロッカーに座って足をぶらぶらさせていた。遠藤は自分の机に鞄を置いて腕を組みながら俺を見ていた。

「そんなことより、お前に聞きたいことがあってさ。そんな時間とらせねえから」

「? なに?」

「俺、暁の襲った野郎の正体がわかったんだよ」

「……余計なことするなって、俺言ったよね」

「そんなに怒るなって。3年の戸上だろ。あんな奴、すぐに片付けてやったよ。あいつが入院してるって聞いてねぇ?」

「あれ、しー君がやったの?」

「そう。俺が暁じゃないってバラしたらあいつ、ずっと自分はやってないって言い張っててさ。マジでウザかった」

ずっと遠藤の反応を窺っていたが、奴は顔色ひとつ変えず不自然なくらいの無表情だった。

「で、あの男、よりにもよってお前が真犯人だとか抜かすんだよ。お前らって仲悪いわけ?」

「…」

「念のためにきくけどさ、そんなのありえねぇよな? 遠藤」

「当たり前だろ。聞くまでもない」

間髪いれずに答えた遠藤はまるで敵でも見るような目をこちらに向けていた。怒っているのだろうが、それはこっちも同じだ。

「あいつさぁ、お前に脅されてるって言うんだよ。宇津見っていうお前のトモダチ使ってさ。どう思う?」

「そんなの、アイツが、適当なこと言ってるだけじゃん」

「でも脅してるのはほんとだよな? 宇津見に訊いた」

「陽と話したの? …信じらんない」

宇津見の名前は陽というらしい。俺があいつに接触したと知って遠藤は明らかに激昂していた。奴の拳は震えていて、いつ殴りかかってきてもおかしくないくらいだ。

「問題はそこじゃねえ。お前がそいつを使って戸上を脅してるのが事実なら、奴の言うことにも真実味が出てくる。暁も、ずっと目隠しされてたって言ってたしな」

「あき君にまできいたの!? なんてことを…」

攻撃されてはたまらないのでロッカーからおりていつでも反撃できる体勢をとる。そしてドア側を背にして退路を塞いだ。

「…俺のこと、疑ってるならそう言えば? 心外だし、どうかしてると思うけど」

「あ、やっぱわかっちゃう? お前より戸上を信用しちゃってるなんて変だよな。俺も困ってるんだけどさ」

あんな軽薄な奴の言葉を鵜呑みにするなんてどうかしてるが、俺にはこっちがしっくりくるのだ。他人なんて元々信用できるものじゃない。ならば自分の直感を信じるべきだろう。

「証拠は、あるの? 俺が、あいつを脅してたのは本当だけど、それがあき君を襲った事にはならない」

「確かに証拠はねぇ。ただ俺がお前だと確信してるだけだ。でも警察につき出すわけじゃねえんだから、それで十分だろ」

「思い込みで疑われて、あき君に嘘を吹聴されるのは困る」

思い込みとは心外だ。遠藤の主張は筋が通っておらず、納得できないだけのこと。戸上を脅していることを認めた時点で、こいつの黒は俺の中で確定していた。

「なら訊くが、お前が奴を脅してるなら、どうしてお前は戸上を退学にしない? 奴は約束を破ってお前の友人を襲った。これはルール違反だろ。罰する必要がある。いくら暁が大事になるのを嫌がっていたって気にする必要なんかない。だって被害者になるのは宇津見で、暁には影響がないんだから。本当に暁が大事ならそうするはずだ」

俺の指摘にさすがの遠藤も言葉に詰まっていた。何か後ろめたいことがある奴の表情だ。反論があるなら言ってみろという俺の挑発に、奴は項垂れながら話し始めた。

「…白状するよ。俺も、ずっとそうしなきゃって、思ってたんだ。でも、あいつがいると、あき君が俺を頼ってくれる。それが嬉しくて、奴をずっと放っておいた。…こんなの、友達失格だって、わかってる。疑われても無理はない」

遠藤が頭を下げながら震える声で俺に謝る。奴のその真剣な言葉に、俺は思わず笑ってしまった。

「違うだろ、遠藤。俺がそれで納得すると、まさか本気で思ってるのか?」


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