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しあわせの唄がきこえる
暴く



「……というわけだから、後はよろしくな」

『はいはい了解しました。お任せください』

とある寮の一室にて、俺は藤貴に電話をかけてこれからの事について説明していた。俺が何を言っても基本的に強くは反対せず、最終的には好きにしろスタンスな藤貴は、今回も俺のやることを否定したりはしなかった。

『にしてもまさかお前がここまでやるとはな。俺、完全に騙されてたわ』

「はあ? 何が?」

『お前って、本当は暁の事好きだったんだろ。俺は本気で嫌ってると思ってたから、びっくりしたよ』

「今だって普通に嫌いだ。変な勘違いするな」

『今更何を言っても無駄だって。いい加減素直になれよ』

「いや、だから俺は…」

『あー、暁が呼んでるからもう切るわ。また折り返して連絡する。気を付けろよ忍、お前に何かあれば大事な暁が泣くからな』

「藤貴!」

勝手なことを言うだけ言ってさっさと電話を切る藤貴。かけ直してその勘違いを徹底的に正してやろうかと思ったが、タイミングよく邪魔が入った。この部屋の住人が帰ってきたのだ。


「お前……っ」

「よっ」

他人の部屋でくつろぐ俺を見て、さすがの羽生も開いた口が塞がらない様子だった。部屋で待っているとは言ったが、まさか俺が不法侵入した上にベッドで寝転がっているとは思わなかったのだろう。

「…どうやって中に入った?」

「前来た時スペアキー拝借しといた。駄目だろ、あんなわかりやすい場所に置いといたら」

「てめぇ何勝手なこと──」

「そろそろ合鍵もらえる頃かなーっと思ってさ」

「……っ」

今にも殴りかかってきそうなくらいお怒りの羽生の首に腕を回し深く口づける。別に俺が羽生といちゃつきたいわけじゃない。奴をフリーズさせて怒りを静めてもらうのが狙いだ。

「羽生サンのために、崎谷に見せつけてやったんだからもっと感謝してよ」

「……は?」

「崎谷先輩、食堂にいただろ。あれはなんだって問い詰められたからアンタと付き合ってるって言っといた」

「はあ!? ふざけんなよてめぇ」

「え、何で怒んの」

せっかく言う通りにしてやったのに羽生はなぜかご立腹だ。わざわざおしえに来てやったというのに、そんな態度じゃ俺の方がキレるぞ。

「忍とか言ったか。お前、俺に喧嘩売ってただで済むと思ってんのかよ」

「喧嘩って、まさか水かけたこと? だって仕方ないだろ。あれがなかったら崎谷も俺があんたに脅されてるって思うだけだし」

「誰があんなことしろっつったよ。うぜぇ野郎だな。その生意気な舌引っこ抜いてやりてぇ…」

本気で俺を殺しかねない形相の羽生から少し距離をとる。暁じゃないとわかった途端、こいつは俺に対していっさい遠慮がなくなった。暁と瓜二つだからかまだ手を出されていないが、いつ強制的に黙らされてもおかしくない。

「お前、俺と喧嘩するつもりか? 暁に俺との事がバレてもいいってのかよ」

「俺は戸上を約束通り大人しくさせた。それでもお前が言うっつうならどうしようもねぇな」

羽生が暁に惚れてるとわかってから、こいつの弱味は握ったものと信じていた。だが羽生誠という男は、俺が縛って操れるほど理性的ではなかったらしい。これは誤算だ。短気でキレると手がつけられない男だとは聞いていたが、まさかここまで酷いとは。

「俺が暁と同じだと思うなよ。簡単にお前の好きにはさせない。後悔するぞ」

「よく言う。俺のもの突っ込まれて泣き喚いてたのは暁じゃねぇ、お前だろ」

バキッと派手な音をたてて、床にあった灰皿を叩き割る。物を壊すことで、奴に殴りかかりそうになったのをすんでのところで堪えた。衝動的に喧嘩をふっかけずに済んで良かった。一度始まれば俺だって怪我はさけられないだろう。

「まさか、また俺を犯したいのか。暁じゃなくてもいい…いや、暁じゃないからこそいいのか……」

「てめぇだって殴られるよりマシだろ。俺をコケにしたお前を、このまま無傷で帰す気はない。絶対にな」


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あきゅろす。
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