[携帯モード] [URL送信]

しあわせの唄がきこえる
010


「なんだよこれ…」

そこには誰もいない教室で遠藤とキスをする暁が映っていた。しかも無理矢理されているのではなく自ら遠藤に顔を近づけてキスしている。浮気現場としかいいようのない姿に俺は本気で驚いていた。

「……何で、暁がこんなことを」

「それは本人に訊いてみないとわからない。だけどこの動画は本物だよ。あっきーがヤられる前に出回って、それで崎谷と仲が拗れてたみたいだけど」

何か理由はあるのだろうが、好きな恋人がいるのにこんなことする奴だとは思わなかった。崎谷が怒るのも無理はないだろう。暁に対して色々言ってやりたい気持ちはあるが、今はその事を気にしている場合じゃない。

「で、この動画を録ったのは誰だ」

「あ、やっぱそこ気になる? 残念ながら出所はわかってないんだよね。まあ、だいたいの目星はついてんだけど」

お前もだろ? とばかりに視線を向けられて思わず奴を睨みつける。こいつの言うことなんて何一つ信じられないが、こんな動画が出回ってたのなら疑わしい人間は一人しかいない。

「日頃からあの二人が浮気してたわけでもあるまいし、こんな動画たまたま撮れるもんじゃない。となるとここに映ってる奴が手引きしたって考えるのが普通だろ」

「あっきーと違って話が早いなぁ。そうだよ、それに遠藤には命令すれば何でもする手駒がたくさんいるしね」

それはいつもあいつの周りにわらわらいる取り巻き達の事か。顔のいい連中を揃えてあんな風に侍らせるなんて、いったいどんな手を使っているのやら。

「あの遠藤の周りにいる奴らはいったい何なんだ。奴のファンなのはわかるが、こんな別の男とのキスシーン撮らされて何とも思わないのか」

「あそこまで心酔させるのにどんな手使ってんのか、俺の方が知りたいよ。でもまあ多分、あの取り巻きのポジションですら普通の奴には手に入らないから、それを守ろうと必死なんじゃないの」

「……どういう意味だよ、それ」

「遠藤は自分が興味ある相手以外には超辛辣、っていうかマジで存在すら認めないから。自分は特別だって思いが取り巻き達にはあるんだよ」

「……」

それにしたって奴らの気持ちは理解できないが、今の話がないとは言い切れない。
この男に言い負かされているようで悔しいが、確かにそう考えると一応筋は通る。

「まぁでも、この動画を撮ったのがお前だって可能性もなくはないけどな。お前も顔だけみればなかなか整ってるし、実は遠藤の隠れた取り巻きの一人なんじゃねえの」

「おっえ、お前キモいこと言うなよ!! 俺は脅されてんだって言ってんじゃん!!」

「具体的にどう脅されたのかおしえるまで、お前の事は信じない」

「……」

その理由に説得力がなければこいつはただ嘘をついていることになる。こんなにも遠藤を嫌っている男がなぜ奴の手駒になっているのか。それを知らなければ何も始まらない。

「奴に脅されたのはこれが初めてって訳じゃない。前からずっと脅されてんだよ。蒼井颯介の事でさ」

「は? 蒼井?」

そいつは確か遠藤の友達で生徒会の男だ。暁とも多少関わりはあるみたいだが、なぜいまこいつの名前がここで出てくるのか。

「そー。俺、あいつの事ずっと狙ってたんだけど、それを知った遠藤がさ、ずっと前に俺がまあちょっと手出した奴がいたんだけど、そいつをそそのかして俺のこと退学にさせようとしたわけ。もし俺が蒼井に手ぇ出したら、そいつにチクって俺を学校に訴えるって言うんだよ。酷いと思わねぇ?」

「……いや、全面的にお前が悪いとしか思えねぇんだけど」

「俺はさぁ、ヤられても後々ギャーギャー喚かない大人しい子をちゃんと選んでたんだぜ? あいつだって遠藤に何か言われなきゃちゃんと泣き寝入りしてたってのに、ほんと余計なことしてくれたよなぁ」

「……」

こいつ、指折るくらいじゃまだまだ甘かった気がする。肋骨も何本か折ってついでに下半身も使い物にならないようにしておこうか。

「取り巻き達にさえ手ぇ出さなかったら後はどうでもいいみたいだったから、死ねとは思ってたけどたいして気にしてなかったわけ。そしたらあいつ、あっきー閉じ込めんのに協力しろって言ってきてさぁ、いや俺はもちろん断ったよ? でもやらなきゃ俺を今度こそ退学にさせるって。これは遠藤が悪くない? 約束通り、蒼井君にも他のオトモダチにも何もしなかったのに」

「お前はそれにハイハイ従ったってのかよ。馬鹿じゃねぇの。完全にナメられてんじゃねぇか」

「いやいや俺だってね、あいつの弱味握るチャンスだと思って倉庫にこっそりカメラ仕込んでたんだよ。証拠の動画がバッチリ映ってるはずだったのに、取りに行ったらバキバキに壊されてんだもん。親戚から借りた小型カメラ、弁償するはめになっちまった。何で気づかれたんだろなぁ…」

「……」

作り話にしてはよくできた話だ。もしかすると奴の言ってることは本当かもしれないと俺に思わせる程には。

「だからお前に見せられるような証拠は何もないんだけど……これじゃダメ?」

「いや、おかげで奴が白か黒か、はっきりさせる方法思い付いたぜ。お前の事はそれまで保留にしてやるよ」

「マジで? 何だよお前結構話のわかる奴じゃん!」

あくまで保留だと言ってるのにヘラヘラと笑う戸上を見て、馬鹿なのかとは思ったがこれで奴が嘘をついている可能性はまた低くなった。奴が黒なら調べれば必ずボロが出る。こいつはここの生徒である限りどこにも逃げられない。それでこの余裕とは、演技だとすれば大層なものだ。
とはいえ今、戸上に言ったことはけしてハッタリなどではない。本当に遠藤流生が暁を襲ったのか確かめて、さっさと決着をつけてやる。


[*前へ][次へ#]
[戻る]


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
無料HPエムペ!