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しあわせの唄がきこえる
009


「…遠藤流生だよ。あいつが全部やったんだ」

「………はあ? なんだって?」

遠藤流生、その名を聞いて俺は思わず聞き返す。本当に聞き違いか、奴が嘘をついたと思ったのだ。

「何バカなこと言ってんだ。流生が暁を襲ったりするわけねぇだろ。あいつは暁の事が好きなんだから」

「だからこそだろ! あのクソ野郎が簡単に諦めるとでも思ってんの? ないない! 力ずくで自分のものにするに決まってんじゃん」

「……」

確かに、俺は奴を初めて見たとき確かに危険だと感じた。それなのに今ではすっかり奴は暁の味方なのだと信じきっている。奴が暁を傷つけるようなことをするはずがないと思い込んでいた。つまり俺もまた奴に騙されていたということなのか。もし本当に流生がやったのだとしたらあいつはとんだ食わせ者だ。暁が襲われた話をした時のあいつの悲壮な表情が演技だなんて信じられない。……いや、まだ戸上の言うことを鵜呑みにするには早すぎる。

「そんなに言うなら、流生がやったっていう証拠を見せろ。話はそれからだ」

「おい」

俺の言葉を羽生が無理矢理遮る。まずい、こいつのことをすっかり忘れていた。

「今のはどういうことだ? わかるように説明しろ」

「……」

羽生には俺の正体は知られたくないが、もう誤魔化しがきく段階でもない。何から説明しようかと悩んでいると戸上が先に口を開いた。

「だから、そいつは暁じゃないんだって。暁の双子の兄弟の尾藤忍、ずっと暁に成り済ましてたんだよ」

「双子だあ?」

俺にかわって洗いざらいぶちまけてくれやがった戸上に殺意のこもった視線を送る。この男、せっかく素材はいいのにチャラチャラしやがってまったく俺の好みじゃない上に中身もいただけない。情状酌量の余地がない。

「じゃあお前…本当に暁じゃないのか? 一体いつから…?」

「てめーが俺を無理矢理犯した時からだボケ」

苛立つあまりつい口が悪くなった俺に羽生が目を見張る。戸上もなんて命知らずなと言わんばかりに口をあんぐり開けていた。

「あー、えーと、忍……だっけ? 悪いことは言わねーからさっさと謝った方が……ってあれ」

正直俺も2、3発殴られてもおかしくないと思っていたが、羽生は俺に何もせず、そして何も言うことなくその場で呆然としていた。そして俺と目を合わせることなく踵を返して歩いていってしまう。攻撃された時のため身構えていたのに、奴は俺など無視して行ってしまった。

「あーあ、やっちゃった。だから言ったのに」

「やっちゃったって何だよ。あいつどこ行ったんだ?」

「気になるんなら、さっさと追いかけて羽生に訊きなよ。すぐにおしえてくれるから」

戸上の不用意な発言に思わず笑みが溢れる。……こいつ、俺をまだ見くびってやがる。もう何発かお見舞いしてやる必要があるな。

「お前との話はまだ終わってないし、俺にとってはこっちが大事だ。遠藤が犯人だっていう証拠を見せろ」

「ええ? あるわけないじゃん。あいつがそんなもん残すわけないし」

こいつ本気で俺にさっきされたことを忘れてるんじゃないだろうか。もう一度痛い目にあわせてやろうかと拳をならす俺に戸上が早口でペラペラ話し始めた。

「じゃあ逆に聞くけど、何であいつが犯人じゃないと思うわけ? そんな簡単に信用できるような誠実な男じゃねぇだろ? 単純なあっきーは完全に騙されてたけど。あんなに忠告してやったのにさぁ」

「……」

奴が信頼に足る人物か、と問われると確かに即答できないが、目の前の男はもっと信じられない。遠藤が暁を欲しがっているのは本当だろうが、それは身体だけではないはずだ。奴が負うリスクを考えたら、こんな油断ならない奴を使って暁を襲おうなんて馬鹿なことは考えない。

「そんなことをしたって、暁が崎谷と別れるとは限らないだろ。奴にもっと依存する可能性だってある」

結果的には暁は崎谷と別れて、遠藤にとっては都合のいい展開になったのかもしれない。でもそれはたまたま上手くいっただけで、他人の気持ちを自由に操れるわけがない。

「あんた、ひょっとして知らないのか? あっきーは襲われる前から、崎谷とはうまくいってなかった。すでに別れていたって言ってもいい」

「……なんだって?」

そんなことは初耳だ。暁の奴、やっぱり崎谷とのことは全部話しているわけじゃなかったか。

「とりあえず、この動画を見てよ」

奴が携帯を操作して俺に渡してくる。そこに映っていたものに、俺は目を見張った。


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あきゅろす。
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