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しあわせの唄がきこえる
008

「暁!」

思ったよりもずっと早く羽生誠は現れた。走ってきたのか奴のいやに目立つ赤色の髪の毛が少し乱れている。羽生は戸上の存在に気づき目を細めた。

「何でお前がいるんだ」

「羽生っ、や、これはその」

「暁、どういうことか説明しろ」

俺は自分の今の居場所と共に羽生にSOSのメールを送ったのだ。その場に戸上がいれば自然とこいつが犯人かと疑ってくれるだろう。

「俺、戸上さんに襲われて、それで……っ」

「違う違う! そんなことしてないって!」

必死に否定する戸上に、余計なことが言えないようにもっと痛めつけてやれば良かったと後悔する。俺はさも怯えていますという風に身体を震わせ羽生にすがりついた。

「羽生さん助けて……」

「戸上、てめぇは俺が今さっき言ったことも守れねぇのか? そんなにぶっ殺されてぇのか?」

下手な芝居に簡単に騙されてくれた奴は、俺を庇いながら戸上を睨み付ける。その鬼の形相の表情を見た戸上は可哀想なくらい顔をひきつらせた。

「そいつの言うこと信じちゃ駄目だって! こいつ俺の指折ったんだぞ! ほら! 見て!」

「暁がそんなことするわけねぇだろ。もっとまともな嘘つけよ」

「羽生は騙されてんだ! こいつと俺、どっちを信じるんだよ!?」

その言葉を聞き俺を一瞥して、再び戸上に視線を戻す羽生。そして口角を釣り上げぞっとするような笑みを浮かべた。

「そうだなぁ、お前とはすげー長い付き合いだし、俺もお前のことはよーく知ってる」

「そうそう、俺達何だかんだで仲良いんだから、もちろん俺の方を信じてくれるだろ…?」

「ああ、俺はお前が自分好みの奴をうまいこと騙して、無理矢理犯すのが大好きな奴だってよーくわかってるぜ。俺の忠告を無視する奴はぶっ殺す、って長い付き合いのお前ならわかるだろ?」

羽生に何を言っても無駄だと悟ったのか、戸上がすがるような目で俺を見てくる。暁ならば羽生を止めたのかもしれないが、あいにく俺はそんなに甘くない。事実がどうであろうと戸上はもっと痛め付けられればいいと思っているくらいだ。

「確かに俺はそういう人間かもしれねぇけど、今回はそいつが嘘ついてんだよ! 俺は何もしてないんだから!」

「暁がそんな嘘つくわけねぇだろ。テキトーなこと言ってるとぶっ殺すぞ」

「だからそいつは暁じゃないの! 偽物なんだって!」

「……はあ? 戸上、お前頭やられてんのか?」

自分の舎弟が本気でおかしくなったと思ったらしい羽生は戸上の首根っこを掴んで揺さぶっていた。人間扱いしていないのがわかる乱暴な扱いにさすがの俺も顔をしかめる。
羽生がヤバい男なのは知っていたが、もしかすると俺が思っている以上にこいつは危険な男なのかもしれない。

「頼む羽生、俺の話を聞いてくれ! ちゃんと説明するから…っ」

「言い訳は後でたっぷり聞いてやるよ。その時まともに口がきけるかはわかんねぇけどな」

戸上にとってそれは死刑宣告に近かったのだろう。奴は抵抗するのをやめて羽生ではなく俺を見て項垂れた。

「……ああ、ああ。わかった俺の負けだ。全部話すよ尾藤。だから羽生を止めてくれ」

ここで終わってしまうのは残念だったが、ようやく戸上が話す気になってくれたのだ。奴の気が変わらないうちにさっさと全部吐かせなければと、俺は戸上の頭をひっぱたこうとしていた羽生の手を掴んで止める。怪訝そうにこちらを見る視線は無視して、俺はすっかりしおらしくなった戸上を睨み付けていた。

「名前を言え。今すぐに」

「……俺が話したこと、言わないでくれる?」

「お前が正直に白状すればな」

戸上はここまできてもまだ躊躇っているようだった。奴をここまでビビらせるなんて一体どんな手を使ったのか。これ以上黙ってるなら羽生をけしかけてやろうかと思っていたが、奴がゆっくりと重い口を開いた。


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あきゅろす。
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