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しあわせの唄がきこえる
006※


その後も戸上は俺とまったく目を合わせようとはせず、用事があると言ってさっさとたむろする不良達の中から出て行ってしまった。暁の話によれば戸上は羽生の右腕的存在みたいだが、まるでそんな風には見えない。存在にすら今の今まで気づかなかった程だ。
俺は羽生に授業に遅れるからと断って、先に教室に戻らせてもらった。そしてこっそり一人出ていった戸上を追いかけた。





「おい」

どうやら自分のクラスに向かっているらしい戸上を、3年の教室にたどり着く前に呼び止める。予想通り奴は心底驚いた様子で、その場に立つ俺を愕然と見ていた。そりゃ強姦してきた相手に平気で声をかけるなんてかなりおかしい奴だが、この反応で戸上が犯人だという可能性がぐっと高まった。

「…なん、で……」

「話があるから、顔かせよ」

もう暁になりきるための役作りなどする気もなかった。俺を見るこいつの目をとらえるまで確信を持てなかったが、今はわかる。やったのは間違いなくこの男だ。そう考えると押さえきれない怒りが沸々と込み上げてきた。

「あっきー……何考えてんの……。どんな神経で俺に話しかけてる訳? 用って何」

「んなもんお前が一番わかってるんじゃねぇのかよ」

戸上が逃げようかと一瞬迷う仕草を見せたので、俺はすぐに間を詰めて奴の腕を掴み逃げられないようにした。そしてそのまま怒りに任せて拳を振り上げたがギリギリのところでかわされる。こいつ、見た目の割りにかなり強そうだ。羽生に次いでのナンバー2というのも本当だろう。

「うわっ、やめろって! 何、いきなり何なんだよ!」

「いきなりも何もねぇだろ。身に覚えがあるだろうが。…俺は絶対お前を許さねぇ」

「あっきー……人格変わってるんだけど……」

「うるせぇ!」

そのまま戸上の胸ぐらを掴み上げ壁に押し付ける。こいつにどうすれば最大限の苦痛を与えられるか、そればかり考えていた。

「暁にあんな酷いことしやがって…! 絶対に許さねぇ……っ」

「あ、あっきー……?」

「何であんなことしたんだよ! 何で、何で……」

人が変わったような暁の憔悴っぷりを思い出し、何故か涙が出てきた。あんな姿の暁をもう見たくない。でも俺が今こいつをどうしたって、昔の暁は戻ってこないのだ。

「俺があっきーにしたこと、許してもらうつもりはないよ。俺はもう二度とあっきーに近づかないし、襲ったりしない。信じられないだろうけど、あっきーの気が済むなら殴ってもらってもいい」

「……!」

一瞬こいつが何を言っているのかわからなくなった。殴ってもいいなんて、反省してるのかふりなのか、どちらにせよ尚更頭にくる。俺に殴られたくらいではこいつにダメージを与えられないということか。

「ふざけんな、殴るだけで済ませてたまるか」

「……?」

「羽生に言ってやる。お前にされたこと、あいつに全部」

その瞬間、戸上の顔色が変わった。余程奴が怖いのか血の気がなくなって目が泳いでいる。

「う、嘘だよなあっきー……さっきの羽生の話聞いたろ? 俺マジで殺されるから。だって付き合う前の話なんだからしょーがねーじゃん。な? 頼むよ、俺何でもするからさ」

「なら死ね。羽生がやるまでもなく俺が殺してやる」

そのまま鳩尾に数発くらわせてやると、奴は呻いてその場に倒れ込んだ。そのまま手加減なしで力一杯蹴り上げて横たわる奴の腕を踏みつけた。

「いってぇ!……待っ…!」

「お前が何でもするって言ったんだろうが。だったら大人しく我慢してろ」

「いっ……うああああ!」

腕を踏みつけたまま奴の小指をあらぬ方向に一気に曲げてやる。折れたのを確認すると次は薬指に手をかけた。

「安心しろ。一本ずつゆっくり折ってやるからな」

「……ま…き、じゃ……な」

「あ?」

唇を噛みしめながら声を絞り出す戸上の髪の毛を掴み、容赦なく引っ張る。何か口にしているが、余程苦しいのか声が小さくて聞こえない。

「なんだよ。言えよ」

「……お前……あっきーじゃ……ないだろ……」

「……ははっ」

俺の正体に気づいた戸上に渇いた笑みが溢れた。しかしこいつ、何されてもまともに反撃しないのがまた笑える。我慢してれば俺が本気で羽生にバラさないと思っているのだろうか。

「だったら何? お前が暁にやったことに変わりはねぇだろ」

「誰だよ……お前……」

「誰でもいい、てめぇに復讐できんならな」

俺が薬指に手をかけると、奴が俺の腕を掴んで制した。その力があまりに強かったので一発ぶん殴ってやろうかと思ったが、戸上がさらに強く声を絞り出した。

「お前が暁じゃないなら…言うよ……」

「?」

「暁を犯したのは…俺じゃない…お前も暁も、騙されてる……」

「…………はあ?」

動揺した俺が指を離した瞬間、奴の力が抜ける。そしてそのまま眠るように気を失ってしまう戸上を、言葉の意味を計りかねた俺は憮然と見ていた。


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あきゅろす。
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