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しあわせの唄がきこえる
005


暁を襲った犯人、それは調べるまでもなくすでに暁本人がおしえてくれていた。少し考えればわかることだ。暁はここで関わった生徒のことを事細かに紙に詳しく書き俺にわたしていた。そこには羽生誠のような危険人物も含まれている。すべては暁が俺を心配してのことだが、そんな暁が自分を襲った男のことを俺に警告しないわけがない。つまり俺がすでに名前を知っている中で、暁から近づくなと警告されてる相手が犯人だ。


「……こいつか」

羽生に次ぐ要注意人物として、暁が名前をあげていた男。こいつ以外に条件の当てはまる奴はいない。けれど羽生の手下と書いてある割には、その名前にはまったく見覚えがなかった。

「戸上悧輝って、誰だ……?」








次の日、俺は羽生に呼び出されて休み時間に奴らの溜まり場に来ていた。学校で呼び出されてもいつもなら大抵二人きりで、やることだけやったらすぐにサヨナラなのだが、今日はいつもと少し違った。奴は手下全員の前に俺を引きずり出し、堂々ととんでもないことを宣言したのだ。

「こいつ、俺と付き合うことになったから、許可なく手ぇ出すなよ」

「ぅえっ……!?」

突然の宣言に一番驚いたのは不良達ではなく俺の方だった。俺が奴の性欲処理に利用されてるセフレだというのは皆承知の上だが、触れずにいるのが暗黙のルールだったはずなのに。これはいったい何の公開処刑か。

「俺の目を盗んで暁を犯す様な奴がいたら、ぶっ殺してうちから追い出す。覚えとけ」

「……」

「返事」

「「は、はい!!」」

羽生の馬鹿げた命令に大きな声で返事をする不良達。わざわざそんなことを言わずともこいつらの中に暁を狙っている奴などいない。少なくとも俺にはそう見える。たまたまホモがいないのか羽生が相当怖いのか。ボス(俺)をまったく恐れないうちの連中とは大違いだ。
だがそんなことは羽生もわかっているだろうに、奴がわざわざそんなことを言い出したのはおそらく暁のためだろう。昨日の話を聞いてわざわざ牽制してくれたのだ。崎谷のこともあれから何も言ってこないし、羽生って実は相当優しいんじゃないだろうか。自分のセフレ限定で。

動揺する不良達の目が痛かったので俺はそそくさと羽生の横に隠れるようにひっ付いた。周りを牽制してくれるのは助かるがここで言っても一般生徒には意味がないし、噂が広まったらそれはそれで桃吾に知られると面倒だ。

「あの…羽生さん。何で、あんなこと言ったんですか?」

「…あ?」

「いや、もしかして俺が昨日あんなこと言ったから…」

「お前、アホだな。崎谷に俺とのこと言ったって、あいつはどうせお前が脅されてるとしか思わねぇぜ。だったら俺達付き合ってるってこいつらが広めてくれる方が信憑性があるだろーが」

「な、なるほど…」

やっぱり崎谷には言うつもりなのか。ちょっと感謝して損したが、そもそもこの人が俺のために何かするわけがない。

「あいつらが騒ぎだしたら、あっという間に広まるだろうよ。崎谷の耳にだってすぐ入る」

そんなことしたら崎谷だけじゃなく桃吾にまでバレて余計に面倒なことになるからやめてほしい。とかいっても聞いてくれないんだろうな。あー、どうしよう。どうやって言い訳しよう。

「た、立川君!」

羽生に引っ付きながら一人悩んでいると、お人好しの諫早瑞季がやってきて俺に話しかけてきた。いったいどういうことなんだ、と口にせずとも顔に書いている。

「ちょっと! こっち! 来てください!」

俺は諫早に腕を掴まれ羽生から引き離された。こいつは他の不良達の代表なのか周りが聞き耳をたてているのがわかった。

「あの羽生さんが誰かと付き合うだなんて…! いったいどうなってるんですか!」

「…いや、どうもこうもそういうことなんですけど…」

「羽生さんはセフレはいても、本命は絶対につくらないんですよ。面倒だから! つまり立川君が初めての恋人なんです。わああ、まさか羽生さんがここまで立川君に本気だとは…」

「いやいや違うって。羽生さんはただ俺と付き合ってることにして崎谷先輩に勝ちたいだけなんだから」

「崎谷君…? でも、立川君は彼と別れたんです、よね?」

「そうだけど、羽生さんはまだ崎谷先輩が俺のこと好きだと思ってるんだよ」

あいつの崎谷一成に対する敵対心はいったい何なのか。過去にどんな嫌がらせをしたらあそこまでねちっこく恨まれるのか知りたい。

あの二人に何があったのかこのどんくさそうな羽生の手下から聞き出したいが、今はもっと大事なことがある。俺は諫早の首根っこを掴まえて小声で耳打ちした。

「あのさ、戸上悧輝ってどこにいんの?」

「え、戸上さん? あの人ならあそこですけど…って立川君なんか今日慣れ慣れしくないですか」

諫早が指差した方向を見ると、これまたこの場にそぐわぬなかなかのイケメンがいた。八重歯が特徴的な不良っぽくない爽やかな面だ。暁がおしえてくれた特徴と一致するし、まず奴が戸上悧輝で間違いないが、この俺が今の今までこんなイケメンに気づかないなんて。

「…あんな人いたっけ?」

「なっ、何言ってるんですか! 戸上さんが一番立川君に絡んできてたじゃないですか。最近はなぜか近寄っても来ないですが…。どうせ羽生さんに釘刺されたんでしょうけど」

「ふーん…」

ということはあいつ、もともとは暁と親しかったのだろうか。だが今は俺の方をちらりとも見ようとしないし、暁という存在を無理矢理消そうとしているようにも見える。レイプしたことに罪悪感でも感じているのだとしたら馬鹿な奴だ。今さらそんな態度をとったって許してなんかやらないのに。


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