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日がな一日
003



次の日、瀬田は約束通り弘也を迎えに彼の部屋まで足を運んだ。ドアを叩いても応答がなかったので何度も電話をかけてようやく弘也は扉を開けてくれた。しかし当然のように彼は寝起きで、不機嫌な弘也をなんとか急かして遅刻せずに登校することができた。



そしてその日の二時間目が終わったところで、機嫌がなおった弘也が瀬田の袖を引っ張って立つように促した。

「おい、今から生徒会室行くぞ」

「へ? 何で…?」

「いーから」

携帯をさわりながら歩いていってしまう弘也に瀬田は慌てて後を追う。質問は一切受け付けず、彼は生徒会室まで来るとその扉を勢いよく開けた。

「失礼しまっす」

瀬田が恐る恐る部屋を覗き込むと電気はつけられていなかったが中にはすでに人がいた。奥のいつもの席に険しい表情の生徒会長、椿礼人。そしてすぐ横には夏目正路が壁にもたれながら腕を組みこちらを見ていた。

「おはよう、二人とも。早くドアを閉めてくれ」

椿に指示されて瀬田は慌てて扉を閉める。薄暗い部屋がさらに暗くなってしまったが、誰も何も言わなかった。

「杵島くんから話は聞いた。瀬田くん、君は軽音楽部から劇に出るなと脅されたらしいな」

「えーー! 弘也何で言っちゃってんの!?」

「うるせー」

背中を優しく小突かれてよろける瀬田。しかしこちらも弘也を信用して話したのだ。それなのにこうも簡単にバラされてしまうとは。

「だって誰にも言うなって言われたのに……」

「アホか。こういうのはな、正直に話した方が面倒がなくて済むんだよ。それにお前を脅した時点でこっちも向こうの弱味を握ったも同然なんだからな」

「そ、そうなの?」

「柊二…!」

横にいた夏目に名前を呼ばれ視線を向けると彼が深々と頭を下げていた。ぎょっとする瀬田に顔をあげた夏目が申し訳なさそうに謝った。

「ほんとにごめん! 俺が柊二を誘って、しかも周りに宣伝しまくってたからこんなことになっちゃって。もうちょっと考えてから行動するべきだった」

「そ、そんなの夏目くんのせいじゃないよ。謝らないで」

「そーそー、てか元凶の夏目には何にも言わねぇで瀬田に言う辺り、その露木って奴も小者だよな」

机にあぐらをかいて座った弘也はとても育ちがいいとは思えない態度だったが、注意する人間はいなかった。彼はおろおろする瀬田を見ながら話を続けた。

「こいつらも聞かなかったことにしてくれるからお前は心配すんな。それに案外威勢がいいのは口だけで、実際は何もしてこないかもしれねぇし」

「いや、それは……」

椿が会話に入ってきて、瀬田達の視線が集まる。彼は少し躊躇いがちに口を開いた。

「演劇部の藤村一絵と軽音部の露木隼人は親の会社がライバル同士ということもあって、以前から確執があったようだ。しかし成績は藤村の方が良く、生徒の目撃情報によると露木の方が彼に一方的に難癖を付けている事が殆どらしい。今回の文化祭では負けられないと奴は必死なんだろう。露木は以前からいい噂は聞かないし…」

椿が一瞬言い淀み、部屋に静寂に包まれる。険しい表情の椿の顔にこっそり見とれていた瀬田は、彼と目があって弛緩していた顔を再び引き締めた。

「…これは証拠があるわけではないから大きな声では言えないが、演劇部の塩谷に怪我させたのも彼の仕業なのでは、という声もある」

「えっ」

「もちろん、単なる噂の域を出ない話だ。こんなことを僕が不用意に口にしてはいけないのもわかっている。ただ瀬田くんには十分気を付けてほしい。露木隼人……いや、軽音部には近づくな」

「う、うん」

元々近づく気などなかった瀬田だが今の話を聞いてさらに警戒心を強めた。椿の言う通り噂を鵜呑みにするのは良くないが、今は被害妄想になるくらいが丁度いいかもしれない。何度も頷く瀬田の肩に手を置き、もたれかかりながら弘也が訊ねた。

「てか会長、お前やけに詳しいな。俺がチクったのついさっきだせ? まさかそれから調べたのか?」

「殆どは元々持っていた情報だ。生徒会長という立場上、生徒の噂話や相談事を聞く機会が多いからな」

「へぇ、じゃあ今回の事も俺がチクるまでもなかったかもな」

「いや、そういうトラブルはすぐに言ってくれた方がいい。隠されると対策が立てづらいし、後々のフォローが遅れるからな。先日も中村さんが1年の文化祭実行委員ともめてるらしいという話を聞いたが、彼女にそれとなーく訊いても問題ないの一点ばりだ。……そうだ、瀬田くんは中村さんと仲が良いようだし、今度聞いてみてくれないか」

「え!? 仲全然良くないよ!?」

「よく二人で楽しそうに話しているじゃないか。僕が近くにいるのにいつまでも二人でコソコソコソコソと……」

「何の話!?」

椿の話がそれかけてきたので焦る瀬田。真結美との会話の内容の殆どは椿の事なので聞かれたら終わりだ。

「おーい、みんな。とりあえず俺達これからどうすんだよ。それをまず決めなきゃだろ」

脱線していく瀬田と椿に呆れたように声をかける夏目。彼の表情からは珍しく笑顔が消えて真剣な表。表情をしていた。

「まあ許可さえもらえれば俺がすぐにでも話つけにいくけど、それだと柊二が困るんだろ」

「向こうの情報が少ないうちは下手に刺激するのはやめるべきだ。もちろん、この話は僕達までで止めておこう」

椿の言葉と同時に予鈴のチャイムが鳴り響く。時間切れだ。

「僕の方でも対策を考えておく。何か有効な解決策が見つかるまでは、僕達3人が警戒して、瀬田くんをなるべく一人にしないように注意しよう」

生徒会長の言葉に全員が頷く。まだ不安はあるものの、弘也を始めとした3人が自分の味方になってくれたことで瀬田は気持ちが楽になっていた。瀬田は全員にお礼を言って、四人の密談はお開きとなった。


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