日がな一日
002※
試すと言った孝太の言葉に目を見開く。その言葉の意味を理解するより先に、瀬田は口を開いた。
「試すって……いい。よくわかんないけど、いらない。遠慮する」
「こうでもしねぇとお前、ずっと椿のこと好きだとか思い込んだままじゃねーか」
「だから思い込んでるとかじゃな……っ!?」
そのまま孝太に押し倒されて、瀬田は背中を打ち付ける。下はカーペットで痛みは少なかったが、孝太の威圧感に心臓の鼓動がどんどん速くなっていった。
「孝ちゃん、どいて。何かすごい怖い……うあっ」
ジャージ姿だった瀬田はあっさりと服の中に手を入れられ、さすがに抵抗をせざるを得なかった。孝太の肩を押し返そうとするも上をとられているせいで、まったく力が入らなかった。
「マジでやめてってば! 俺本気で言ってんだけど!」
「嫌なら抵抗しろよ」
「してる! すごいしてるよさっきから!」
「は? これで?」
「してるんだって!」
瀬田は昔からスポーツが苦手であると同時に自分でも自覚があるくらい非力だった。瞬発力も体力も力もない、見かけ倒しだと何度言われたことか。孝太は何か考え込んだ後、慌てる瀬田を見下ろし口を開いた。
「そういやお前……体力テストでもたくましい女子レベルだったよな。腕相撲でもいっつも秒殺されてたし」
「そーだよ、孝ちゃん知ってるくせに酷いよ」
「こんなひ弱なお前を椿は無理矢理……」
「えっ、いやそーじゃな……ひっ!」
孝太の背中に回った手が冷たくて小さく悲鳴をあげる。あっという間に服を殆ど脱がされ、椿の上を行く手際の良さに瀬田は為す術もなかった。
「多少荒療治になるけど、お前が椿を好きじゃねえってちゃんと証明してやるから」
「いやいや、何言ってんの。嫌だっ、どけって」
「大丈夫、痛くしねぇよ。俺の方が絶対うまいし」
「そういう問題じゃ……って孝ちゃん、それ、何……」
孝太の中心はすでに臨戦態勢をとっており、瀬田にはそれが凶器か何かにしか見えなかった。顔面蒼白の瀬田とは対照的に、孝太は笑っていた。
「ははっ……やべーわ、お前。脱がせただけでこんなになるとか、あー…あり得ねぇ」
「孝ちゃん、俺男だよ。男相手にこんなのおかしいって、わかるよね」
ホモなんて気持ち悪いと散々瀬田に言っていたのは他でもない孝太なのだ。いつもの、以前までの孝太に早く戻ってほしくて瀬田は必死だった。
「相手が椿のクソ野郎だから気持ち悪かっただけだって、今わかったわ。お前、何でこんな綺麗な身体してんの」
脱がされたズボンをまた穿こうとして問答無用でまた脱がされる。じわじわと足を開かれ耳元に熱っぽい声で話しかけられた。
「おまけにいい匂いまでする……なんで?」
「それは単に風呂上りだからっ……孝ちゃん、顔近い…」
椿の時は緊張でどうにかなりそうだったが、孝太も何度も見ても飽きないほど整った顔をしている。けれどそれ以上にずっと友達として近くにいた孝太と、こんな濫りがわしい事をしている事実が瀬田を追い詰めていた。
瀬田がぐるぐる考えていると、孝太は瀬田から身体を離して立ち上がった。
「立って」
「え」
孝太に腕を引っ張られ、下着だけ履き直しながら立ち上がる。ようやくこの馬鹿げた行為をやめてくれたとホッとしていると、孝太は瀬田の腕を引いてそのままベッドに向かって突き飛ばした。
「わっ、な……」
高そうなふかふかのベッドに身体を沈め、瀬田は孝太を見上げる。その上に跨がった孝太は手に瀬田には見慣れないものを持っていた。
「……なにそれ」
「ローションとか、色々。普段はあんま使わねぇけど、お前にはいるだろ」
その言葉に怯んだ瀬田が逃げ出す前に、肌に冷たい感触が広がった。シーツが汚れるのも構わず大胆に濡らした指を瀬田の入り口に添わせていく。
「いあっ……あ、そんな……」
椿は瀬田にキスをしたり触ってイかせてくれたりしたのに、孝太は何もかもすっ飛ばして入れようとしている。突然の急展開に頭がついていかず、あっさり侵入してきた孝太の指に身をのけぞらせることしかできなかった。
「んっ、んっ……ううん……」
たった一度、椿に入れられただけの瀬田には慣れているとはとてもいえない行為だ。にも拘わらず固く閉ざされた入り口に入ってきた孝太の指を、なぜかあっという間に受け入れてしまっている。指の数が少しずつ増やされていくのがわかり、その度に身体が小さく震えた。違和感はあっても痛くはない。たまに中の指が瀬田のいいところを掠め、そのたびに身体が震えたら。比べる相手が椿しかいないが孝太は手慣れたものだった。
「後ろって締めつけすごいんだな。中熱いし、入れたらすげー狭そう。こうすると痛いか?」
「……っ」
中を掻き回される感触に瀬田は首を振るのがやっとで、孝太のとんでもない言動に反応できなかった。口を開けばみっともない声が出ると思い、必死に唇を閉じていた。
「このままだと裂ける、かもだし。もうちょっと拡げて……痛かったら言えよ」
「い、たぁっ、くない……っ、ん……」
「そーか」
「でも、もうやだ…っ、頼むから、やめて……っ」
友人の前で股を開いて後ろの穴を拡張されるなんて、まともな人間ならとても我慢できる行為じゃない。涙ながらに懇願する瀬田に孝太は舌打ちした。
「椿は良くて俺は嫌だって? そんなのおかしいだろ、瀬田。お前はずっと俺のもんだったのに」
ローションをたっぷり使ってしばらく中をほぐすことに集中していた孝太だったが、いったん指を引き抜くと再びごそごそと何かを始めた。恐る恐る覗き込むと、孝太が自分のモノにゴムをつけていた。
「コンドーム、つけてるの…?」
「なに、生でいれてほしいわけ?」
「違う違う! ただ、子供できる訳じゃないのに…」
「いや、つけねーと後始末とか、病気とか……ってお前まさか、椿に生でさせたんじゃ……」
「……」
孝太の言葉に瀬田はすぐ頷きかけたが、孝太のキレる一歩手前の顔を見て思いとどまる。それに正直、あの時の事はあまり覚えていなかった。
「く、暗かったからよくわかんなくて…あ、でも最後中洗ったから…つけてなかった……?」
「あのクソ野郎! ぜってー殺す!」
「ひぃっ」
孝太の恐ろしい台詞に思わず悲鳴をあげる。ここまで怒り狂っている孝太を見るのは初めてだった。
「お前もそのままいれさせるとかアホか! もう二度とあいつに……いや誰にもやらせんじゃねぇぞ。わかったか」
「は、はい」
あまりの気迫にただ頷くことしかできしかない瀬田。孝太は椿に対してぶつぶつと悪態をつきながらも、自身を散々解した瀬田の開口部に押し当てた。
「うそ、待っ……あああ!」
瀬田の制止は間に合わず、中に入ってくるその感触に悲鳴をあげる。怒りも悲しみも感じない。ただ椿に同じようにされたことがフラッシュバックして、それ以上の質量に瀬田は泣き叫ぶことしかできなかった。
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