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日がな一日
005



中村真結美は、拍子抜けするほどあっさりと見つかった。一年三組の彼女の教室にまだ残っていたのだ。しかし真結美はクラスメイトらしき数人の女子に囲まれており、遠目からもわかるくらい激しく言い争っていた。

「だから、このクラスだけ特別扱いはできないって言ってんの。予算は全部のクラスに均等にわけられてんだから」

「それが足りないから真結美に頼んでんじゃん。何のために生徒会入ってるわけ?」

瀬田はギリギリ会話が聞こえるところまで近寄って、話が終わるまで待つことにした。しかし彼女たちの言い争う声はさらにヒートアップしていく。

「まゆにそんな権限あるわけないし。だいたい仮装喫茶の衣装なんか、予算内で作れるでしょ」

「今から作るんじゃショボいもんしかできないじゃん! だからネットで買おうと思って……」

「準備期間はあったのに遊んでたそっちの責任なんだから、まゆに言わないでよ。実行委員のくせにそんな計画性もないなんて呆れるけど、みんなに謝って許してもらうしかないんじゃない」

余分な予算がないのは確かだが、真結美の言い方があまりにとげとげしいので喧嘩になるのではないかと瀬田はヒヤヒヤしていた。案の定、相手の女子達はかなり怒っていた。

「生徒会だからって全然こっち手伝わないあんたに、何でそんな偉そうに言われなきゃなんないわけ!? 真結美ちょっと調子のりすぎなんじゃない?」

「椿会長に近づくためだけに入って、ろくに仕事だってしてないくせに。こういう時くらい役に立ってよね」

その言葉に、真結美が心底キレているのが顔を見なくとも手に取るようにわかった。彼女はこんなことを言われて黙っているような性格ではない。彼女たちの溝が修復不可能になる前に、と瀬田は飛び出した。

「中村さん! 探したよ!」

いかにも今来ました、という風に明るく声をかける瀬田。瀬田の苦手な派手な化粧をした女子達の視線がいっせいに集まり緊張したが、ポーカーフェイスを装った。

「せ、瀬田先輩…?」

「立脇さんが心配してたよ。連絡しても返事ないって」

「うそっ、もうこんな時間!? どーしよ電源切ったままだった…」

「まあ、クラスの方も大事だもんね」

場の空気を和ませようと女子達に微笑みかける。悪目立ちしている瀬田のことは一応知っているようで、お前は誰なのかと聞かれたりはしなかった。

「中村さんの友達…だよね。忙しいと思うんだけど中村さんもらっていっていいかな。俺、生徒会補佐なんだけどあんまり役に立たなくて、中村さんがいないと仕事がなかなか進まないんだ。一年生なのに、すごくしっかりしてるから頼りっぱなしで恥ずかしいんだけど」

「わ、私たちは別に……」

「もう話はすんだので、別にいいです」

「そっか、ありがとう」

怖い顔をしたままの彼女の腕を引いて教室から連れ出す。うまくピンチを切り抜けることができた俺は、内心ほっとしながら真結美と歩いていた。本当は関係ないからすっこんでろと言われるかとかなり不安だったのだ。

「……先輩、手離してください」

「離してもちゃんと自分で歩いてくれる?」

「歩きますよ! だいたい、先輩は何であそこにいたんですか」

俺の手を振り払い怒りをはっさんさせるように早足で前に進みながら真結美が尋ねてきた。怒っているというよりは拗ねているような声だ。

「えっと、中村さんが心配だったから迎えに来たんだ」

「心配って、まゆは全然平気です。それから今日の事は、絶対誰にも言わないで下さいね」

「どうして?」

「それは……自分のクラスもまとめられないような無能だとは思われたくないんです。特に椿先輩には」

「でも、クラスの子と何かあるなら、椿くんに言った方がいいと思うよ。というか俺、中村さんが実行委員ともめてるらしいって椿くんから聞いたから」

「ええ!? 何で椿先輩が!?」

「さあ…でも噂話はよく耳に入ってくるんだって」

「嘘……どーしよ……」

可哀想なくらい落ち込んでしまった真結美に何と声をかけるべきか迷う。俯いて泣きそうになっている彼女に通りすがりの生徒達の視線が集まってきたので、瀬田は慌てて慰めた。

「俺もそうなんだけど、椿くんに相談したら力になってくれると思う。話しかけるチャンスにもなるし」

「そうやって、瀬田先輩は椿先輩に取り入ろうとしたんですか」

「え!? 違うよ!? 俺はそんなつもりなかったよ!」

疑いの眼差しを向けられ慌てて弁明する。椿に話してしまったのは自分ではなく弘也なのだからこれは嘘ではない。

「また嘘をつくんですか。自分の気持ちに素直になれない人に、会長のポスターをあげていいものか悩みますねぇ」

「えっ、まさかもうできたの!?」

「ええ、まゆの部屋に先輩の分も取り置きしてありますので、跪いて感謝してもらっても結構ですよ」

「嘘ー! 見たい見たい! どんなの!?」

「見本は見せたでしょう。実物は見てのお楽しみです」

「えー!」

「いつでもお渡しできますけど、今日持ってきましょうか?」

「いや、待って」

椿礼人の写真ならどんなものだって欲しいし、ポスターならばいくらでもお金を出して部屋に飾っていたい。しかし椿と親しくなった今、勝手にそんなことをしていいのかと瀬田の中にある良識が訴えていた。

「また考えて連絡するよ。ちょっと今は……」

「今は?」

「今っていうか、色々ちゃんとしてからの方がいいかと思って……」

「色々ちゃんと…? もしかして、先輩あの書き込み見ちゃいましたか」

「書き込みって?」

「あれ、違う? じゃあいいです、忘れてください」

真結美の焦った様子に一生懸命考えたが思い当たるものがない。話をそらそうとする彼女に瀬田は詰め寄った。

「そんなこと言われたら余計気になるよ! 何を隠してるのか正直に言って」

「……」

真結美はしまったという顔をして少しの間何やら考え込んでいたが、瀬田の必死な訴えに本当の事を話す気になってくれたのか、渋々ながらも口を開いた。


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あきゅろす。
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