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日がな一日
004


その後変わらず瀬田は演劇の練習を続けていたが、軽音部から何かされることもなく、また何かを言われたりすることもなかった。
弘也の言う通りあれは単なる脅しだったのか、それともまだ様子を見ているのか。学校では弘也、放課後は夏目が側にいてくれるので向こうも何もできないのかもしれない。最初は軽音部どころか誰相手にもビクビクしていた瀬田だったが、彼にはテスト返却という一大事が待っていた。




「赤点、なかった……!」

すべての答案用紙が返却され、ギリギリではあったものの追試を免れた瀬田は泣いて喜んでいた。苦手だった数学は今までで一番いい点をとっている。瀬田は喜んで弘也にテスト用紙を見せに行った。

「見て見て弘也、俺、こんなに点数良かったの初めてだよ!」

「そうか、良かったな」

「そうだよ〜〜今回はもう駄目かと思ってたからさぁ」

一応、生徒会補佐としてはあまりにも無様な点数は取れない。生徒会役員としてはまだまだ足りない点数だったが、自分としては上出来だった。

「そういえば弘也はどうだった!?」

「俺?」

弘也の点数は自分よりもよっぽど心配だった。普段オセロしかしていないのだから、赤点だらけでもおかしくない。
しかし渡された彼の答案用紙に書かれた点数を見て、瀬田は卒倒しそうになった。

「な、な、なにこれ……!」

赤点どころか、弘也の点数はすべてが90点以上の高得点だった。自分の目が信じられず何度も見返したが、答案用紙は本物で点数にも間違いはなかった。

「弘也これ不正しただろ!!」

「でけぇ声でとんでもない言いがかりつけてんじゃねぇぞ。そんなもんしてねぇよ」

「嘘だ! だってあんなに全然勉強してなかったのに! 裏口入学なのにっ」

「だからでけぇ声で暴露すんじゃねぇって言ってんだよ! それに、今回はちょっと真面目にやったんだからな! 教科書も読んだし、ノートもお前の写したし」

「それは勉強してるって言わないから!」

「別にそれだけすりゃ十分だろ」

「……っ」

裏口入学を簡単に話してきた男だ。ズルをしたのなら正直に話すだろう。しかし弘也の目は本気だったし、解答用紙に書かれた文字はすべて弘也の字だった。つまり彼は間違いなく、自力で高得点を出したということになる。

「弘也って頭良かったの……?」

「知らねーけど、悪い点はとったことねぇ」

よくよく考えてみれば確かに、頭の悪い男が頭脳を使うオセロでそれほど強くなれるわけがない。あの叔父も弘也ならば試験を受けさせるまでもないと思いそのまま入学させたのだろう。

「なんだよー! それならそうと早く言えよ! 無駄に心配しちゃったじゃんか」

「だって、もっと難しいもんだとばっか思ってたからさ。意外と簡単だったな」

「そんなんなら勉強おしえてもらえば良かったよー! 弘也のアホー!」

自分の赤点回避など忘れて瀬田は弘也にすがりつき嘆いていた。生徒会に入るために必須である学力を彼が持っていて一安心のはずが、瀬田は落ちこぼれ仲間がいなくなったことに少しがっかりしていた。






文化祭が間近に迫り、生徒会の仕事も忙しさを増していた。瀬田は演劇部の練習もあるのでかなり仕事を減らしていてくれたが、脇役で言い出しっぺの夏目には容赦なく仕事が振り分けられていた。


「柊二くん、一年生どうしたか知らない?」

生徒会室で眠そうに作業する弘也をなんとか起こしていると、困った様子の詩音に声をかけられた。この時期になると各クラスの実行委員会との調整もあって生徒会室から出払っている役員も多い。現に今は詩音とゆり子、そして弘也に瀬田の四人しかいなかった。

「居場所はわからないけど、二人に用事?」

「二人っていうか、真結美ちゃんにね。一応私達一緒に行動しないといけないし。正路くんも遅れてるなら、一年の方で何かあったのかなと思って」

「そういえば、夏目くんは一年の実行委員と近所の人達に挨拶回りしてくるって言ってたよ。文化祭当日は騒音とかで迷惑かけるからって」

正直、瀬田がその話を聞いたときは人当たりはいいが敬語が使えない夏目を行かせるのはどうかと思っていた。同行している実行委員がなんとかしてくれるだろうと特に引き止めたりはしなかったが。

「だったら、中村さんも実行委員と一緒にいるんじゃない。携帯持ってないの? あの子」

「何度も連絡してるんだけど返事がないんだよ〜〜どうしよ〜」

ゆり子の言葉に再び携帯を見る詩音。困った顔が小動物のように可愛いと瀬田は場違いなことを考えていた。

「中村さんって物品の仕入れと予算担当でしょ。校外に出てっちゃったんじゃない?」

「えー、外出は許可いるし、私に連絡もしないで行っちゃう子じゃないよ〜。こんなこと自体初めてだもん」

その時、瀬田は椿が一年の文化祭実行委員と真結美がもめているらしいと言っていたことを思い出した。そう考えると無性に心配になってきたので、彼女を探しに行こうと瀬田は立ち上がった。

「俺、ちょっと様子見てくるよ」

「えっ、柊二くんが?」

「うん、俺がここにいてもできること少ないし。弘也……は寝てるか」

むやみに一人になるなと言われていたので弘也も連れていこうとしたが、彼は机に突っ伏して爆睡していた。恐らくあまり寝ていないのだろう。疲れているところを無理に起こすのも悪いので、瀬田は一人で行くことにした。

「ごめんね〜助かる! 一年の校舎にいなかったら帰ってきていいから」

「うん、わかった」

今は文化祭の準備で校内に残っている生徒がたくさんいる。さすがに軽音部も人前で何かしてきたりしないだろうと、瀬田は一人で生徒会室を出ていった。


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