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日がな一日
005


瀬田が抵抗しようとした時、キスされながら下半身を触られる。服脱がされそうになり身をよじって顔を背け、腰が抜けそうになりながらも孝太から距離をとった。

「な、な、何すんだよ……! 孝ちゃん!」

「別にいいだろ、今更」

「今更!? さっきは謝ってたくせに!」

酷い言い種に瀬田は本気で怒った。もめているうちに瀬田は孝太に押し倒される。これはいよいよ危険だと涙目になっていると、誰も来ないはずの部屋の扉が勢いよく開いた。

「はいストーップ!」

「!」

「ひ、弘也ぁ」

入り口のところに立っていたのは瀬田の救いの手、杵島弘也だった。盛大に舌打ちした孝太に弘也は息を切らしながら近づいてきた。

「萩岡、うちの瀬田くん返してくれ」

「誰がお前のだよ。何で鍵かけてたのに入ってこれたんだテメェ」

「鍵が一個しかないわけないだろ。瀬田、大丈夫か?」

「大丈夫じゃなかった!」

瀬田は素早く孝太から離れ救世主に飛び付く。そして孝太を指差して叫んだ。

「酷いんだよこの人! 猛獣、猛獣だから!」

「誰が猛獣だよ。こっち来い瀬田、二度とそんな口きけなくしてやる」

「い、いやだ」

「はいはい落ち着け瀬田。ほら、早く帰るぞ」

「もう孝ちゃんは信用しないから!」

弘也の後ろに隠れながら孝太を睨み付ける瀬田。孝太はまだ何か言いたげな顔つきで悔しそうにこちらを見ているが、さすがに追いかけてはこなかい。弘也はため息をつきながら瀬田の背中を押して外に出るように促した。






「ありがとう、本気で来てくれてありがとう…!」

逃げるように部屋から出た瀬田は弘也の腕を掴みながら半泣きでお礼を言った。端から見るとホモカップルにしか見えない光景だったが、そんなことを気にする余裕はなかった。

「でも何で俺の場所がわかったの?」

「お前が萩岡に頼まれてるの聞こえてたからな。戻るの遅いからもしやと思って、鍵かけられてるの見越して職員室から借りてきた。こんなに走ったのはマジで久しぶりだわ……」

「ほんとにありがとう弘也。走らせてごめんね」

「いや、一人になるなって言わなかった俺が悪い。あの時マジで眠くて…。お前の掃除が終わる前に迎えに行こうと思ってたんだけど、運悪く担任に捕まってさぁ」

「今まで大丈夫だったから俺も油断してた。もっと危機感持たなきゃ駄目だってことだよな…」

瀬田の呑気な発言に呆れられるかと思いきや、弘也の表情は険しいままだ。今の事件に何故か責任を感じているらしい。

「最近は瀬田の横にずっと夏目がいたからな。俺もお前が萩岡と椿とは二人きりにならないように目を光らせてたし」

「そ、そんなことしてくれてたの? 気づかなかった…」

「夏目がいるからと思って気が抜けてたんだよ。テスト期間中は部活ないの忘れてた……」

途中で弘也が何かに気をとられて会話が止まる。彼の視線の先にはこちらに向かって手を振る笑顔の男がいた。

「柊二〜! 弘也〜!」

「夏目くん?」

人目も憚らず大声で名前を呼んでくる夏目の姿は間違えようがない。テストがすべて終わったかのような爽やかな笑顔を振り撒く彼は、瀬田の地雷を踏んだ。

「二人ともテストどうだった? 柊二は数学できたか?」

「やめろ、こいつに数学の話をしてやるな」

「日本史は結構できたよ!」

「そりゃ良かった。弘也はどうだった?」

「呼び捨てにしてんなよ、後輩」

「いーじゃん別に。俺と弘也の仲だろ?」

「仲なんか良くねーから。たいたいお前、何でここにいんだよ」

「二人とも食堂行くだろーから、一緒に食べようかと思って」

「あー…、なら瀬田の事任せるわ。俺死ぬほど眠いから、飯より先に部屋で爆睡する。瀬田、悪いけどこれも返しといて」

資料室の鍵を瀬田に渡して、今にもくっつきそうな目を擦りながら弘也が昇降口の方へ向かう。早く帰りたいのに瀬田に付き合ってくれようとしたのだろう。その後ろ姿に向かって瀬田は叫んだ。

「弘也ー! 後で何か持っていこうかー?」

「部屋に食うものあるからいい。じゃーな」

瀬田の言葉に力なく手を振りながら歩いていく疲労しきった様子の弘也。隣の夏目はフランクにお大事に〜と手を振り返していた。

「弘也、大丈夫かな…」

「心配なら夜にでも様子見に行こうぜ。弘也の奴、よっぽど勉強頑張ってるんだな〜」

「いやー……どうかな」

「さっさと飯食って俺たちもやるぞ。そんでさっさと寝る!」

瀬田の背中を押して歩くように促す夏目に、鍵を返すために職員室に寄ることを伝え一緒に来てもらった。もちろん資料室に何の用事があったのかは伏せて誤魔化した。

「あ、なっつん!」

職員室まで来たとき、見知らぬ女子二人に声をかけられる。もちろん瀬田ではなく、隣の夏目にだ。

「なっつん何やってんの?」

「てか今日のテストできた?」

明るい女子二人にあっという間に囲まれる夏目。瀬田は邪魔にならないように気配を消して側に立っていた。

「ここに来たのは柊二の付き添い。この後一緒に食堂行くから」

「あ、例の柊二先輩?」

「生徒会の?」

二人の視線がこちらに向き、この間に鍵を返そうとしていた瀬田の足は止まる。好奇心の塊のような目で見られて愛想笑いを返すしかなかった。

「なっつんから話聞いてます! 演劇部の劇に出るんですよね」

「絶対見に行くんで頑張って下さい!」

「あ、ありがとう…」

知らない人から応援され嬉しいよりも先に恐縮してしまう。そんな瀬田を見てプレッシャーになると思ったのか夏目が間に割って入った。

「二人ともやめろって。柊二に絡むなよ」

「え〜、別に絡んでないもん」

「柊二、鍵返しに行ってもいいから」

「あ、うん」

瀬田は夏目に言われ職員室へと入る。近くにいた教師に訊ねて鍵を保管場所に戻す。職員室を出ると女子達と一緒にいると思っていた夏目は、今度は別の知らない男子生徒と話していた。

「瀬田先輩帰ってきたよ、夏目」

「あ、柊二。鍵返し終わった?」

夏目の友達らしい生徒は瀬田をやけにキラキラした目で見てくる。少し疑問に思いながらもあまりに視線を感じるので頭を下げて挨拶した。

「こんにちは、夏目くんのクラスメート?」

「いや、隣のクラスの友達」

「こんにちは瀬田先輩!」

元気のいい挨拶の彼があまりに笑顔なので、顔見知りだっただろうかと思ったが一年に真結美と夏目以外の知り合いはいない。その生徒は笑顔のまま話し続けた。

「夏目があんまり瀬田先輩のこと話すから会ってみたかったんです。間近で見るとオーラすごいですね!」

「オーラ…?」

「いや、変な意味じゃなくて。文化祭の劇に主役で出るって聞きました。今からすげー楽しみにしてます」

「厳密には主役、とはいえないんだけど……ありがとう。頑張るよ」

瀬田の言葉にその生徒は嬉しそうに顔を綻ばせる。夏目の友達の間では瀬田はちょっとした有名人らしかった。

「俺はこれで失礼します。夏目も練習頑張ってな」

「おう、ありがと」

彼と別れた後、夏目と一緒に食堂へ向かうと一年と思われる生徒は殆ど夏目に挨拶してきた。前から顔の広い男だと思っていたが、予想以上に夏目の友人は多かった。
そしてその全員が瀬田に友好的で、劇に出ることを応援してくれた。恐らく普段から夏目が大々的に宣伝しているのだろう。
瀬田は改めて夏目の人気を知り尊敬の眼差しを向けつつも、自分を事をそんなにもたくさんの友達に話してくれていることに驚いてた。


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