日がな一日 002 幼稚園からの長い付き合いで、小学校では6年間同じクラスだった腐れ縁ともいえる女子、その名も大園律花(りつか)。彼女は同じマンションに住む同級生で幼馴染みでもある。親ぐるみの付き合いをずっと続けていて気心の知れた仲ではあるが、瀬田にとって彼女はそれだけの存在ではなかった。 「瀬田、お前面会が来るならちゃんと申請出さないと駄目だぞ」 「面会……?」 律花の横に立つ教師、小林に叱咤され訳がわからず首を捻る。今日は律花との面会予定などなかっのだから、届け出など出せるはずがない。どういうことだと律花の方を見ると、彼女はこちらを凄い勢いで睨み付けていた。迫力のある表情に瀬田は何も言い返せず頭を下げた。 「……すみません。忘れてました」 「ったく、寮の規則を破ったんだ。罰としてトイレ掃除1週間、お前の担当にする。二度目はこんなもんじゃすまないからな」 「はい、すみませんでした」 素直に頭を下げる瀬田に、小林もそれ以上は何も言わず律花に二言三言告げてから立ち去っていく。姿が見えなくなってから、瀬田は律花に訊ねた。 「…りっちゃん、いきなりどうしたの。何かあった?」 瀬田が恐る恐る声をかけると律花にギロリと睨み付けられる。アイメイクばっちりの目に圧倒されて瀬田は怯んでいた。 「何かって、柊二が全っ然返事返してくれないからこんなとこまで来てるんでしょーが。携帯見てないの??」 「……あ、ごめん。ここ最近ずっと忙しくて」 「もー! 柊二のアホ!」 「ごめん……」 律花を怒らせると恐ろしいことになると瀬田はわかっていたので、とにかく謝っていた。一方的に怒る外部の女子は周りの視線を集めていたので、瀬田はここから離れなければと思った。 「りっちゃん、荷物持つよ。とにかくここを出よう」 「もーうち超疲れた〜。柊二の部屋に連れてってよ」 「いや、寮は生徒しか入れない……っていうかそもそも男子寮に女子は駄目だから」 「えー、嘘ー!」 律花のやけに大きな荷物を持ってこの場を離れようとしたとき、椿との言い争いをやめたらしい孝太が声をかけてきた。椿もその後ろから興味津々そうに律花を見ている。 「瀬田、そいつ誰」 「えっと……」 「はじめまして、大園律花です。柊二の彼女でーす!」 「はあ?!」 孝太だけでなく、椿や周りの生徒全員が凍りついた。腕に絡んでくる律花を振り払い瀬田は思いきり首を振った。 「彼女じゃない! 彼女じゃないから!」 「ちょっと柊二、なに公衆の面前で恥かかせてくれてんの!」 そのまま腕をげんこつで殴られ、呻きながら俯く瀬田。律花はそんな瀬田を気にする事もなく、仁王立ちになりながら怒っていた。 「女を気づかえない男はサイテーだって、いっつも言ってるっしょ! ちょっとうちがいなかっただけで、もう忘れたわけ?」 「わ、忘れてないよ。でもりっちゃんが嘘ついたりするから」 「嘘じゃないし! 約束したじゃん。中学までに彼女できなかったら、うちと付き合ってくれるって」 「りっちゃんが一方的に言ってただけだろ〜」 律花にびくびくしながらも反抗するのは忘れない。やりとりを見ていた孝太がここにいる全員の代表だと言わんばかりに訊ねてきた。 「瀬田、この自称彼女は誰だ」 「同じマンションに住んでた幼馴染み……」 「ああ? 同じマンションって同棲かよ」 「いや部屋はもちろん別々だよ?!」 中学を卒業するまで、瀬田は幼馴染みの律花の奴隷だった。奴隷は少し言い過ぎだが、幼い頃から律花の尻に敷かれていた瀬田は習性のように彼女の命令はなんでもきいてきた。律花に対して恐怖心を持っていたからこそだが、さすがに恋人になれと言われたときは土下座して辞退した。結局気になる子がいても告白する勇気がなかった瀬田は恋人を作れず、このままでは一生一人だと呪いのような宣告をしてきた律花に迫られていた。 「へー、律花ちゃんってこんなヘタレのこと好きなのかよ」 「……誰? 柊二の友達?」 女たらしを発揮して話しかけてきた孝太の事を、律花が瀬田に訊ねる。とりあえず頷いていると律花は愛想の良い笑顔を見せた。 「ドーモはじめまして、うちの柊二がお世話になってます」 「律花ちゃんって、瀬田とは結構タイプ違うよなぁ。こいつとつき合ってもあんまり合わねぇと思うけど?」 やけに律花に近づきながら、瀬田との間に割り込む孝太。律花は笑顔を貼りつけたまま孝太を見上げた。 「何で初対面の奴にそんなこと言われなきゃなんないわけ? うちはあんたみたいなチャラそうな奴が一番嫌なんだけど」 「……っ」 律花の辛辣な言葉に瀬田は目を丸くして固まる。孝太相手にこんな強気に出る女子がいるなんて。突然敵意を向けられて、基本女子には好かれている孝太は何を言われたか理解できず、唖然としてしまっている。 「柊二の友達だかなんだか知らないけど、あんたこそ柊二に相応しくないんじゃないの? うちの柊二に悪い遊びなんかおしえたらただじゃおかないから」 「はあ? てめーこそそんな馬鹿っぽい面してふざけんじゃねえよ。女だからって俺が何もしねーとでも思ってんのか? つーかお前の事なんか瀬田から一度も聞いたことねえし、ほんとに瀬田の友達かどうかも怪しいもんだな」 「それはあんたが信用されてないからなんじゃない? こんなヤバそうな男に女子を紹介するほど柊二は馬鹿じゃないから」 自称瀬田の保護者だった孝太と律花は初対面にも関わらずまさに水と油の関係で、場所も考えず言い争いを始めた。何とか止めなければと彼らの間に割って入ろうとしたとき、後ろから手をぐっと捕まれ引っ張られた。 [*前へ][次へ#] [戻る] |