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日がな一日
004



「柊二! 一緒に部室行こうぜ!」

次の日の放課後、夏目が教室まで迎えに来た。1年の生徒会役員が現れてクラスは一瞬騒然となったが、夏目は臆することなく柊二に近づいてくる。

「夏目くん、こっちまで来てくれたんだ。ありがとう」

「いやまあ俺が巻き込んだようなものだし。演劇部の場所よくわからないかなーと思って。弘也、悪いけど柊二借りてくな」

「おー。頑張れよおまえら〜」

瀬田の隣にいた弘也は夏目に声をかけられ、軽い返事を返してそのまま歩いていく。しかし代わりに瀬田達の前に立ちふさがった人物がいた。

「演劇部なんか生徒会の仕事終わらせてからでいいだろ。こいつは俺の手伝いするからお前一人で行け」

「えーー、それ困る! とりあえず初日はちゃんと行くって部長に言ってるし! 頼むよ〜〜」

「いやだから瀬田は……」

「今日だけ! 今日だけだから!」

夏目は孝太の前で手を合わせて頭を下げたかと思うと、瀬田の腕を掴んで走り出した。

「おい夏目! 待て!」

「会長にはもう言ってあるからさ! 今は見逃して!」

訳のわからないうちに引きずられ、瀬田は夏目に引っ張られるまま教室を出る。幸い孝太もしつこく追いかけてきたりはしなかったので、夏目はしばらくして足を止めた。

「ごめん、なんか無理矢理連れてきちゃって」

「えっ、いや、そんなの全然」

「やーでも俺が巻き込んだし。柊二嫌がってたのに悪かったなと思って」

申し訳なさそうな夏目の言葉に慌てて首を振る。拒否していた理由は嫌だったというよりも、自分が出ても客など集まらないと思ったからだ。夏目には色々と借りもある。迷惑だとは少しも思っていなかった。

「あの、夏目くん……手、いいの?」

夏目は接触恐怖症だと聞いていたが、今も瀬田の手を掴んだままだ。手を握ったまま夏目は笑顔で答えた。

「ああ、うん。なんか……柊二は結構平気かも。慣れたからかなぁ。いきなり触られんのとかは駄目だけど、俺から触るのはできる」

そういえば昨日も肩を組まれたりしていたか。夏目の言葉は自分に懐いてくれたようで嬉しかった。

「柊二のクラス、文化祭で何すんの」

「俺のとこは校門のゲート作り……って言っても俺一応生徒会だから、そっちを優先させていいって言われてるけど」

「あー、いいじゃん。ゲート作り。この学校の文化祭って凝ってるから有名なんだろ。ゲートなんか特に気合い入ってんじゃねぇ?」

「うん、計画表見たけど結構すごかった。うちは生徒会役員3人もいるから申し訳ないんだけどさ。夏目くんのクラスは?」

「クラス展示! 集めたゴミだけでデカい城作る予定」

「えっ、すごい。そっちのが面白そう」

「やー、これがなかなか大変そうでさ。俺がまとめる予定だったんだけど、キャパオーバーしそうだから委員長に任せた」

社交的な夏目は、人見知りの瀬田でも話しやすく、まるで昔からの友人と会話しているような気分だった。前々から一人でいる瀬田を気にしてくれていた彼だが、以前までの瀬田は迷惑をかけるのが嫌で自分から親しくなろうとはしなかった。しかし今ならば素直になって夏目の好意を受け入れられるような気がする。

「そういえば立脇さんから聞いたんだけど、夏目くんの地元って井南川なの? 俺、井南川中学だったんだよ」

驚く姿を期待して言った言葉に、夏目は突然足を止める。彼は笑顔のまま瀬田の方を見た。

「そうなんだ、知らなかった」

「俺もビックリでさ〜。井南川駅にあるパン屋知ってる? あそこのメロンパンが美味しいって、結構有名で……」

「あー、あったかもなぁ」

予想に反して夏目の反応は意外と薄い。もっと盛り上がるかと思っていただけに少し拍子抜けだったが、よくよく考えてみればそれほど面白い話もない気がしてきた。

「柊二、昨日あの後嵐志から何か言われたか?」

「嵐志くん? いや、特に何も」

突然佐々木嵐志の名前が出て、瀬田は昨日のことを思い返す。せっかく話せる機会だったのに、瀬田は緊張して目もあわせられなかった。

「嵐志さ、劇やりたがってたろ。スケジュール的にどう考えたって無理なのに。理由は多分アイツが役者になりたいからだと思うんだよ」

「えっ、そうなの?」

瀬田は公式サイトを毎日チェックするくらいのファンだが、嵐志といえば歌とダンスが上手いことで有名でドラマでその姿を見たことはない。逆に嵐志の相棒の目黒凪は俳優としえ映画やドラマによく出演している。

「文化祭の劇に出たくらいでドラマのオファーくるとは思えないけど、アイツは元々俳優志望だったからそういうのが好きなんだと思う。それで昨日もちょっと不機嫌だったろ。悪い奴じゃねーんだけど、自分にそういう仕事がまわってこないからイラついてるみたいでさ」

「夏目くん、何か詳しいね」

「本人が前に言ってたからな」

「え、嵐志君とそんな話するの」

「同じクラスだからな。あんま学校来てねぇけど、いたら話すよ」

「へぇー!」

大ファンの佐々木嵐志の話題に瀬田はすでに興味津々である。質問攻めにしてはいけないと思いつつも、つい彼について訊ねたくなってしまう。

「クラスでは、嵐志君ってどんな感じ?」

「どんなって、別に普通だけど……。えーなんだよ柊二、ひょっとして嵐志のファン?」

「いや、そうじゃないよ! ただちょっと気になっただけで」

「俺あいつの番号とか知ってるけど」

「え!?」

羨ましい、と顔に書いてあったのだろう。夏目は瀬田を見ながら可笑しそうに吹き出した。

「柊二って意外とミーハーだよな〜。俺が紹介してやろっか?」

「……いい! そんなのいらないから!」

「ウソウソ、もう言わねぇから怒んなよ」

恥ずかしさのあまり強い口調で突っぱねる瀬田に夏目が謝る。そうこうしているうちに二人は目的の演劇部の練習場である多目的室にたどり着いた。


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あきゅろす。
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