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日がな一日
思春期の恋煩い



四季ヶ丘学園の生徒にして、才色兼備の生徒会副会長である田中ゆり子は怒っていた。彼女には以前よりある悩みがあり、ただでさえ短気な性格がそのせいでいっそう酷くなって苛立ち募る日々を送っていた。


「萩岡が、瀬田くんと付き合うとかふざけたこと言ってるって聞いたんだけど、一体どうなってんの」

学園に広まる噂話を聞いて、ゆり子は自分の部屋に親友の立脇詩音を呼び寄せ問いつめた。怒るゆり子とは対照的に詩音はいつも通りのほほんとして出されたお菓子を食べていた。

「んーとね、何か好きみたいなんだよね。柊二くんのこと」

「は? 何それ、アイツ散々瀬田くんをいじめてたくせに今更なんなわけ?」

「孝太くんの考えてることってよくわかんないよね〜」

「言ってる場合か!」

ゆり子は苛立ちを抑えきれず、机を乱暴に叩き怒鳴る。へらへらしている詩音自身にもゆり子は怒っていた。

「詩音はそれで良いの? 仮にもあんた達恋人同士なのに」

「んー、まあ仕方ないかなって。最初からそういう約束だったわけだしさ」

ゆり子は詩音と孝太が偽物の恋人関係だということを知る唯一の女子だった。男嫌いのゆり子が孝太の浮気をとやかく言わなかったのは、詩音からすべてを聞かされていたからだ。

「でも私孝太くんにお願いして、まだ恋人のふりをしてもらうことになったの」

「……どういうこと?」

「孝太くんが男子に言い寄っても、みんな本気にしてないし。瀬田くんには本当のこと言っちゃったらしいけど、今のところ擬装カップルやってても問題ないから」

「……」

あっけらかんと言う詩音にゆり子は深いため息をつく。詩音のことは一番の友人だと思っているが、その思考回路と男の趣味はまったくもって理解できなかった。

「詩音、やっぱり萩岡には本当のこと言うべきだと思う。私は」

「本当のこと?」

「だって彼氏役なんてただの口実で、詩音本当は萩岡が好きなんじゃない。私にはまっったく理解できないけど」

ゆり子の言葉に饒舌だった詩音が口を閉ざす。唇を尖らせてゆり子を恨みがましい目で睨んできた。

「ええっ、孝太くん格好良いじゃん。どうせ彼氏役頼むなら、誰だって自分の好みを選ぶでしょ」

ゆり子以外は知らないことだが、詩音が孝太に彼氏役を頼んだのは単に恋人が欲しかったからではない。純粋に孝太に近づきたかったからだ。
もちろん孝太に言った話はすべて本当だで詩音はいつか親の決めた相手と結婚することになっている。だから高校生でいる間だけでも好きな相手と付き合いたかったのだ。

「だからそれが理解できない。詩音が好きならとやかく言いたくないけど、アイツは男の中でも最悪の部類じゃない。詩音といい瀬田くんといい、なんでアイツと仲良くできるわけ?」

「ゆり子ちゃんとは好みが違うだけだよー。あのちょっと悪っぽいところがいいんじゃん。本当は超几帳面なところも好き」

「神経質としか思えないけど。性格がねじ曲がってるのが顔に出てるし」

「ゆり子ちゃんて本当に孝太くんが嫌いだよね」

「萩岡だけじゃなくて男子全般だし。だって男なんて基本的に嫌な奴ばっかりじゃん」

「でもゆり子ちゃんの持ってる本、男ばっかり出てくるよね」

恐ろしい形相のゆり子が再び机を叩く。その話は二度としない、忘れるという約束だったはずだと詩音を睨み付けた。

「ご、ごめん〜〜、今のナシ、許してゆり子ちゃん」

「可愛く言ってもダメ」

「む…」

詩音が頬を膨らましてそっぽ向いてしまう。そういうあざといポーズは男にやれとゆり子は呆れて肩を落とした。

「……瀬田くんは、萩岡と付き合ったりしないよね。だったらまだ会長の方がマシなんだけど」

「あれ、気になる? 気になるのゆり子ちゃん」

「別に」

素っ気なくしていてもゆり子の本音を詩音はわかっていた。ゆり子は足を組んだまま眼鏡をかけ直すふりをして視線をそらす。詩音の幼い顔はそんな彼女を見て微笑んでいた。

「ゆり子ちゃん、瀬田くんのこと好きだもんね〜〜。孝太くんにとられるんじゃないかって心配なんだよね」

「……別に」

「告白すれば良いのに! 孝太くんにとられる前にさ〜」

「いい。女の私が告白したって無駄だもん」

田中ゆり子、才色兼備の副会長である彼女には悩みがあった。それは女は好みの範疇外の瀬田柊二に、ずっと前から叶わない片想いをしていることだった。


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