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日がな一日
006


その日の週末、生徒会役員総出で学校近くの大きな川に架かる橋の下に集まっていた。今日、瀬田達は生徒会の一員として地域の清掃活動に駆り出されていたのだ。全員参加のボランティアで川沿いのゴミ拾いをすることになり、休日が潰れた弘也は当然ご立腹だった。

「何でこんな朝っぱらからゴミ拾わなきゃならないんだよ。だいたい全員とかいって、あのアイドル野郎来てねーじゃん」

「嵐志は仕事が入っちゃったんだって。仕方ないよ」

「仕事だぁ? 俺だって休日はやることがある!」

「そこ二人、静かに」

生徒会顧問の倉橋に注意されて瀬田と弘也は慌てて口を噤んだ。こんなところで心証を悪くしては生徒会に入れてもらえないかもしれない。

「一般の人の迷惑にならないよう、生徒会役員である自覚をもって取り組むように。何かあればすぐ先生か椿に言うこと」

生徒会顧問は普段はあまり顔を出さず、大事な会議や今日のような校外活動の時にのみ出てきてくれる。それがこの学校の方針らしく、参加しない代わりにこちらが出した提案を却下することも殆どない。生徒会長の椿が教師と連携をとって実行可能な案しか提出していないからでもあるわけだが。

「ゴミ袋は二人に1枚配布するから、二人ずつ別れてゴミを集めてくれ。田中と杵島は上流に、立脇と中村は下流に向かって、椿と夏目、萩岡と瀬田は対岸をそれぞれ頼む」

倉橋に組分けを決められゴミ袋を渡される瀬田。孝太とは生徒会室で一緒に仕事していても殆ど話す機会がないため、もちろん仲直りなどできていない。そんな孝太と二人きりは大変だが、弘也と二人きりにさせるよりはマシだと思い直した。

「皆12時までにここに戻ってくることー。以上、皆グループに別れて始めてくれ」

先生の声と共に皆バラバラに移動し始める。やる気がまるでない弘也が動こうとしないので、体操着姿のゆり子にキツい口調で呼ばれていた。彼女と一緒にゴミ拾いなんて、瀬田にとってはひたすら羨ましい。

「あーダルい。瀬田ぁ、何かあったらすぐ連絡寄越せよ」

「うん、ありがとう弘也」

「じゃーな」

ゆり子に小言を言われながらも自ら軍手をはめゴミを集めていく弘也。彼に気をとられるあまり、孝太一人で行ってしまったことに気づくのが遅れた。

「あれ……孝ちゃん? 孝ちゃん!?」

二人一組での行動を指示されているはずなのに、孝太は瀬田など無視して一人歩いていってしまう。慌てて追いかけるも、彼はギロリと瀬田を睨み付け威嚇していた。

「おい、その呼び方やめろって言ったろ」

「え、嫌だ」

「は?」

「…ゴメンナサイ」

仲直りがしたい、という意味で言った言葉は孝太の鋭い眼光に遮られる。早くも挫けそうになった瀬田だが、気を取り直して孝太の横にならんだ。

「俺、このまま孝ちゃんに嫌われたままなのは嫌だ、から、許してもらいたくて」

「許す許さないの問題じゃねぇのがわかんねぇのか。お前はいつからそんなウザい奴になったんだよ。俺には近づくなっつったろ。今日だってバラバラに行動したって別にバレねーからあっちいってろ」

「でもゴミ袋は俺が持ってるし……」

「……」

その言葉に孝太は無言で袋をひったくり一人早足で歩いていく。諦めず彼に話しかけたかったが、このまま喧嘩になってはゴミ拾いどころではなくなる。瀬田はいったん怒りが冷めるのをしばらく待ってから再び声をかけることにした。

「にしても、結構ゴミがあるな」

ゴミ拾いのボランティアは瀬田にとって初めての経験で、生徒会にでも入らなければすることもなかっただろう。この川の近くを何度も通ったことはあるが、ゴミが多いなどと思ったことはない。けれど実際にこうやってゴミを探しているとその辺りにペットボトルや空きビンがゴロゴロしている。先生の話では年に一回はゴミ拾いをしているはずなのに、ここまで汚れているとは。

ゴミ拾いに熱中していた瀬田は、孝太の姿が見えなくなったことに暫くたってからようやく気づいた。袋がないのでゴミを一ヶ所に集めていたが、そろそろ限界だ。

「孝ちゃん、どこいっちゃったんだ……」

「瀬田くん」

突然名前を呼ばれ、慌てて振り返るとそこにはジャージ姿の椿礼人が立っていた。

「つ、椿くん! 何で…!?」

「ゴミは僕のに入れていいぞ。孝太といい夏目くんといい、単独行動が好きな奴らが多くて困る」

学校の体操着を着て軍手をはめた椿は、何度見ても見惚れるくらい格好良い。美形は何をしても絵になるのだと感心していたくらいだ。しかし瀬田と反対側を歩いていたはずなのになぜここにいるのか。

「どうしてこっちに…」

「僕がいたら迷惑なのか?」

「ええ?? いや別にそんなんじゃ…」

「わかってる、冗談だ。僕は瀬田くんに訊きたいこと、いや、言いたいことがあって来た」

椿の声は低く、何となく怒っているような気がして瀬田は萎縮した。空き缶を持つ手が無意識のうちに震える。

「いくらクラスメイトとはいえ、どうして君は杵島くんとばかりいるんだ。納得がいかない」

「……はい?」

「生徒達の間では、瀬田くんと杵島くんがキスしてたなんて馬鹿げた噂まで流れている。にもかかわらず君たち二人は人目も憚らずベタベタして、何を考えてる」

キスしたのは噂ではなく事実だが、ベタベタした覚えはない。けれど椿の事を拒否して弘也と堂々と仲良くしているのは事実だ。返すべき言葉に迷っていると、椿は目を伏せて呟くように言った。

「……どうしてなんだ。瀬田くんには、僕がいるのに」

「!!」

拗ねたような椿の声と表情に瀬田はたまらなくなる。椿への思いを断ち切ると弘也に約束した。けれどいざ目の前の椿を見ると、どうしようもない気持ちになった。

「ああ、どうしよう、今すぐ抱き締めたい…!」

「瀬田くん、声に出てるよ」

「はっ」

軍手をはずした椿はそのまま瀬田の手をとる。瀬田の手から空き缶が転がり落ちた。

「僕達がどうして我慢なんかしなきゃいけないんだ。人目を気にするのはもうやめよう」

「いやいや、椿くんここ外! 外だから!」

ここは野外で河原で、一般のボランティアの人達がたくさんいて、とてもこんな話をしていい場所じゃない。それでも椿に手を握られただけで、その目に見つめられただけで何の抵抗もできなくなった。

「僕達がこんな風にお互い避け続けなければならないなんて馬鹿げてる。いい加減自分に素直になった方がいいって、瀬田くんも思うだろう」

「でも、俺はもう……っ!」

椿と瀬田が手を繋ぎながら言い争っていると、視界の端に知った顔が見えて思わず椿の手を振り払った。

「孝ちゃん!」

「……」

戻ってきてくれていた孝太に喜ぶと同時に、椿と一緒のところを見られて気まずくなる。険しい表情の孝太は無言で袋を投げ捨てると、回れ右をして歩いていってしまった。

「待って!」

「瀬田くんっ」

孝太を追いかけようとして椿に手を掴まれ止められる。その手を迷わず振り払い、瀬田は孝太を追いかけた。

「ごめん椿くん! 俺、孝ちゃんと話したいから!」

足場は悪かったが、そんなことは気にせず急いで孝太を追う。今の瀬田には椿を気遣う余裕はなく、行ってしまった孝太のことしか頭になかった。


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