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日がな一日
004



「今日は瀬田も一緒に行くって行ったら、叔父さん俺の部屋に来るって言い出したんだけど」

「えっ、どういうこと?!」

その日の夜、瀬田は弘也と一緒に叔父の家にお邪魔させてもらうはずだったが、放課後弘也に予定変更を伝えられた。

「瀬田を来させたら、ぜったい寮の門限破らせちゃうから駄目だって。だから代わりに叔父さんの方が来るらしい」

甥っ子には毎回破らせているのに、とも思うが確かに理事長として他人の子供に規則を破らせるわけにはいかないだろう。だったら中止でも良いのだが、わざわざ理事長は瀬田のために会いに来てくれるという。最早申し訳ないという気持ちしかない。

「ということで人目があんまりない遅い時間に来るっていってるから、また夜に連絡するわ」

「おっけー…」

軽い返事とは裏腹に気は重い。今更ながらに緊張してしまい、だんだんと胃が痛くなってきた。








そして夜、10時前になってようやく弘也から連絡が来た。数少ないよそ行きの服を着て、緊張しながらもこっそり弘也の部屋へ行くも、そこにはまだ叔父の姿はなかった。

「よー、瀬田。叔父さんもう着くと思うから、ちょっと待ってて」

「お邪魔します」

入った瞬間からインコの鳴き声が聞こえてくる。鳥かごからピーピー鳴いている姿を見ると、どうやら瀬田が来たことで小屋に入れられてしまったらしい。

「ごめんなー、マリ。しゅーちゃん来てるから今日はもう寝ような」

「しゅーちゃんって何? もしかして俺?!」

「マリにはしゅーちゃんでおしえてんだよ。気にすんな。なーマリ丸ー?」

瀬田に対する声とはまるで違う優しい声で呼び掛ける弘也。鳥かごの隙間から指を入れてマリ丸を撫でてあげている。その姿に興味をもった瀬田はインコにそろそろと近づいていった。

「瀬田も撫でるか?」

「えっ、いいの? 噛まない?」

「大丈夫、多分」

弘也の若干自信なさげな言葉に不安になったが、気持ちいいのか弘也にされるがままになっているインコは可愛かった。そろそろと指を入れて嘴の横辺りを撫でてやる。

「わぁふわふわだ…」

「なでるのは顔まわりだけな。尻尾と足は怒るからダメ」

特に鳥に興味のなかった瀬田だが、弘也がマリ丸と一緒にいたい気持ちが少しわかった気がした。弘也と一緒になってしばらくインコと遊んでいると、外から扉を叩く音がした。

「あっ、叔父さん来た」

ようやく瀬田もここにいる当初の目的を思い出し、慌てて居住まいを正す。鍵を開けに行った弘也の後を慌てて追いかけ、自らも理事長を迎えに玄関へと向かった。

「あっ、こんにちはー。君が友達の瀬田くん? はじめまして」

一瞬、なぜ清掃員の人が? と思ったがキャップをはずすと何度か遠目で見たことのある顔がそこにあった。瀬田の訝しげな視線に気づいたのか理事長が照れくさそうに服を引っ張った。

「これは弘也がバレないように来いっていうから、頼んで貸してもらったんだ。好きでこんな格好してるわけじゃないから」

「だって理事長の甥ってバレるだけならまだしも、仲良いとか思われたら叔父さんが困るだろ」

理事長は瀬田が記憶の中で想像していたよりずっと若く見えた。大学生の息子がいるようには見えないし、どちらかというと格好良い方だとすら思う。

「ああ、せめてハゲたデブのおじさんだったら…」

「瀬田?」

有り得ないだろハハハと笑い飛ばせるくらいオジサン丸出しだったら鼻で笑い飛ばせたのに。もしかすると有り得てしまうかもしれないと勘繰れる程度には小綺麗な叔父だった事にショックを受けていた。

「す、すみません。はじめまして瀬田柊二です。弘也くんにはお世話になってます」

「いえいえこちらこそ! なんだ、弘也。お前の友達とは思えないくらい良い子だなぁ、イケメンだし。どこで捕まえてきたんだよこいつ〜〜」

「うるせぇし。さっさと入れよ」

意外と茶目っ気たっぷりの理事長に辛辣な態度の弘也。困惑する瀬田を残して理事長は部屋の中へと入っていく。彼ら二人は本当に仲が良さそうだ。

「お! マリちゃん久しぶり〜元気にしてたかー?」

理事長が鳥と戯れる中、弘也は叔父の分のお茶を用意する。なんとなく座る気にもなれず瀬田はその場で立っていた。お茶を持ってきた弘也は机の上を軽く整理して、なぜかいつも置いてあるオセロ盤とマグカップだけになった。

「さて、始めるか」

「な、なにを…?」

「なにってオセロだろ」

「えっ、ほんとにオセロやんの?!」

まさか本当に叔父と甥が夜中にオセロゲームを始めるなんて。自分の酷い妄想から遠ざかってるような近づいていっているような。よくわからない状況だ。

「瀬田もやる?」

「えっ、おれ?」

「ほら、そこ座れって」

せっかく来てくれた叔父を差し置いて瀬田とオセロをしようとする弘也。気を使った瀬田が理事長の方を見ると、すでに彼の方は観戦ムードになっていた。これはもう弘也の言われるがままやるしかないと、よくわからない状況の中、瀬田は彼とオセロをすることになった。


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