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日がな一日
002


「え? 今夜? ムリムリ。俺用事あるから」


夏目から誘われたことを弘也に告げると、彼はあろうことかアッサリ断ってきた。瀬田も今まで夏目に声をかけられても、気を使わせているのが申し訳なくて丁重に断っていた。けれど弘也という友人を得て、彼と一緒なら気後れすることなく夏目と仲良くできると思った。しかし弘也はまるで興味なかったらしく、はっきりと断られてしまった。

「なんで!? あの夏目くんだよ! 次期生徒会会長と名高い夏目くんからのお誘いだよ?」

「いや俺別に興味ないし…女子ならまだしも男とか……」

「弘也が来てくれないと困るんだけど! 俺一人で夏目くんと何話せばいいんだよ」

「知るか」

会話がなくなったらどうしよう。つまらない男だと思われたらどうしよう。夏目の前で失敗したらと思うと、とても瀬田には二人きりで食事する気にはなれなかった。

「だいたいそんな夜中に何の用事がある訳!? この近く何も娯楽ないよ??」

「叔父さんの家に行くんだよ」

「……お、叔父さん?」

弘也の叔父といえばこの学校の理事長で、弘也にとっては裏口入学させてくれた恩人だ。以前、拝見したはずの顔を顔を思い出そうとしたが、わりと若い外見だった記憶しかない。

「そっかぁ、叔父さんか。なら仕方ないな。夏目くんには悪いけど、別の日にしてもらおうか」

「俺ほぼ毎日叔父さんの家に行ってるから。夏目とはお前一人で会えよ」

「え、毎日…? なんで???」

毎日っていったいどういうことだと、瀬田は眉間に皺をよせながらながら訊ねる。

「叔父さん俺のこと気に入ってるって言ったろ。毎晩会いたがるんだよ」

「はあ?」

喧嘩売ってるのかと言われてもおかしくない程の声が思わず飛び出した。いくら仲が良くても毎日会いたがるっておかしくないか。実は血が繋がってる隠し子でもない限り納得できない。

「理事長ここに住んでるの?」

「いや車で迎えにくるんだよ。毎晩よくやるよな。おかげでマリとの時間が減ってしゃーねぇっつうの」

「へーー……そーなんだー……」

それってもう仲が良いとかいうレベルを軽く超えているのではないか。親ならまだ理解できるが、毎晩叔父と何をするのだろう。変な関係だなとは思ったが何となく立ち入ってはいけないような気がして、それ以上深く訊くことはできなかった。







「というわけで、弘也は来ません。せっかく誘ってくれたのに、ごめんね……」

食堂入り口で待ち合わせしていた瀬田は、すでに自分を待ってくれていた夏目に謝った。多くは語らず、あくまで理事長である叔父に呼び出されたと説明した。

「柊二が謝る必要ねぇって。俺こそ急に誘ってごめんな」

「いやいやいや! いつでも誘ってくれていいから!」

背の高い有名人二人が並んで歩くとそれなりに目立ったが、浮かれていた瀬田は注目されていることに気づかなかった。食券を買って、定食を頼んだ瀬田は少しドキドキしながら生徒会専用の席につく。

「俺、ほんとにここにいていいかな? 大丈夫かな」

「いいから座れって。俺が許可する!」

ふはははとふざけて高代官のように笑う夏目に、瀬田もつられて笑いながら席につく。話が途切れたらどうしようという不安は、夏目の明るい性格で払拭された。

「そういや夏目くん達一年生って、第一食堂は出禁だったんじゃ……」

「夜はいーのいーの。2年と食べる時間被らないようにしてるし」

「そうなんだ」

それはいいと言うには語弊があるような気がする。夏目の怖いもの知らずな軽い性格が瀬田は羨ましかった。

「なんかここに座ると、自分が特別になった気分になる……」

「だよなぁ。俺も初めはそう思ったわ。悲しいことに3日で慣れるけど」

夏目の爽やかな笑顔に、瀬田は格好良いを内心10回くらいくらい繰り返していた。美形は3日で飽きる的な格言があるが、正直夏目ほどのイケメンならば永遠に見つめていたい。

「生徒会どう? もう慣れた?」

「まあ、ぼちぼち……」

孝太は相変わらず辛辣だが、他の役員たちは好意的に見える。真結美に時々絡まれる以外は平和に過ごしている。

「今日、来てくれて良かった。正直断られるかと思ってたから」

「何で? そんなもったいないことしないよ!」

「だって現に今までずっとフラれてたし〜〜」

「ふ、フラれ……」

確かに瀬田が夏目からの誘いを断ってきたのは事実だ。けれどそれは瀬田の本意ではなかった。
夏目正路は入学時からの有名人で、そのルックスと頭の良さ、そして誰とでも仲良くなる社交性。あの完璧超人、椿礼人にもひけをとらないといわれていた。
それにひきかえ、瀬田柊二は悪い意味で目立っている。椿礼人に惚れているミーハーなホモなど瀬田以外にはいない。当然周りからは引かれて、ぼっちの自分に夏目が声をかけてくれるなど、気を使われているとしか思えなかった。

「俺、別に柊二に同情で声かけたりしてねぇよ」

「え」

「ずっと勘違いしてただろー。柊二ってそういうとこあるよな」

瀬田の心を見透かした夏目の言葉に、気まずくなって視線を泳がせる。まるで年上のような風貌と広い心を持つ夏目は、気にした様子もなく笑顔を見せた。

「俺が柊二と仲良くなりたいから誘ったんだよ。もしただの同情なら、弘也っていう友達ができた時点で誘うのやめてるだろ」

「た、確かに」

「な? だから改めて俺と仲良くしようぜ! また一緒に飯食おー」

例え自分より人生経験豊富そうに見えたとしても、人懐っこい夏目には先輩心が擽られた。そもそもなぜ自分と友達になりたかったのかはわからずじまいだったが、そんなこと気にならないくらい夏目の気持ちが瀬田は嬉しかった。


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