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日がな一日
合法的ストーカー



瀬田が生徒会補佐になって、多少なりともいいことがあった。
個人的にすごく嬉しかったのは風呂だ。入浴時間は学年によって決められているが、瀬田はいつもなんとなく居心地の悪い思いをしていた。これは瀬田がホモだという噂がたっている事が理由だ。瀬田自身は椿以外の男の裸を見たところでなんとも思わないが、やはり男が好きな野郎と裸の付き合いなど誰もしたくないだろう。周りからじろじろとら見られていても仕方ないのはわかるが、やはり毎日のことなのでつらかった。

しかし生徒会補佐になったことで、部屋はそのままだが生徒会専用の風呂場を使う許可がおりた。大勢の生徒が入る大浴場と比べるともちろん狭いが、現在の生徒会役員である四人の男しか入れないので殆ど貸切状態の風呂である。補佐である二人に唯一与えられた特権だったが、瀬田はそれだけで生徒会に入って良かったと心の底から思った。


「これでもう人目を気にしなくていいんだ…最高……」

「やっぱお前の喜ぶポイント謎だなー」

友人となった杵島弘也と初めて一緒に登校した瀬田は、彼の隣を歩きながら上機嫌だった。ここまでくるのに色々あったが今は彼と仲良くなれたことが嬉しい。瀬田は勇気を出して隣の友人の名前を呼んでみた。

「あの、ひ、ろやくん…、俺さ…」

「弘也でいいって、君いらねーって言ったろ」

「じゃあ、弘也」

付き合いたてのカップルか何かかと誤解されそうな会話をして照れまくりの瀬田。名前呼びにはまだなれなかったが、瀬田はすっかり浮き足立っていた。

「…何だ、うるせぇな。あれ何の騒ぎだ」

学校に着くまでの道のり、前方で女子達の黄色い声が聞こえ思わず足を止める。

「まさかまた生徒会の誰かが…」

「弘也、俺たちも行こう!」

「は? マジで?」

瀬田にはこの騒ぎの中心が誰かすでにわかっていた。ここまで女子達が色めき立つ男は生徒会でも一人しかいない。

「見て弘也! 嵐志くんが来てる!」

「あ? アラシくん? って誰だよ」

瀬田が指し示す方向にいたのは、弘也にとっては初対面であるはずの男だった。

「久しぶりに見た〜〜! 四季山高校幻の幽霊生徒! 佐々木嵐志!」

「いや幽霊部員じゃねぇんだから…。すげーキラキラしてるけど、まさかあれも生徒会か」

「えっ弘也、嵐志くん知らないの!?」

「転校してきたばっかなんだから知ってるわけねーだろ」

「そーじゃなくて! あの佐々木嵐志! Remixってアイドルグループ知らない!?」

Remixは若者なら誰もが一度は聞いたことがある有名な二人組のアイドル歌手だ。芸能人に疎い弘也でもなんとなく顔と名前は知っていた。

「あー…なんか聞いたことあるよーな……?」

「今すごい流行ってるんだよ! 現役高校生アイドルって注目されてるのに」

「そういや芸能人がいるって叔父さんが言ってたかも」

普段あまりテレビを見ない自分が知っているくらいなのだ。相当な有名人なのだろうと弘也は思った。それなら既視感の正体にも納得がいく。

「やばいやばいっ、嵐志が朝から見れるなんてラッキー! 嵐志ー! 嵐志ーー!」

「はっ、アイドルとか言う割に無愛想じゃねぇ? あんなんじゃいくら顔がよくても…」

「嵐志ー! 嵐志こっち見て嵐志ーー!!」

「うるっせぇぇええ!!」

女子の声援に混じってはっちゃけながら手を振る瀬田にビンタをくらわせる。突然殴られた瀬間は訳がわからず茫然と茫然しながら弘也を見ていた。

「弘也…なんで……」

「なんでじゃねーよ! 男の野太い声で叫ばれたらうるせーんだよ! お前そんなんだからホモとか言われてんじゃねーの? 今までイケメン目の前にしても大人しくしてたのに急にどうした!?」

弘也の言葉に瀬田は悲しげに目を伏せる。叩かれた頬をさすりながらぼそぼそと呟いた。

「だって一人で騒いでたらさすがに不審者じゃん……。Remixの嵐志見てはしゃげるのは友達がいる特権だし」

「てめーそんなことに俺を利用しようなんていい度胸だな。あんなに会長が好きとか言っといてもう浮気か?」

「ちがっ、嵐志はそんなんじゃなくて、俺はただのいちファンで! 恋愛感情なんかないし、誰だってアイドル見たらテンションあがるだろーーって嵐志は!?」

二人で言い合いしているうちに、アイドルの佐々木嵐志は無表情のまま歩いていってしまった。彼は1年なので自分たちとは校舎が違う。さすがに教室まで追いかけるわけにもいかず、瀬田は指をくわえて見ていることしかできなかった。

「あーあ、弘也が横でごちゃごちゃ言うから嵐志いっちゃった」

「同じ学校だったらこれから見放題だろーが。この節操なしの浮気野郎」

「節操なしってなに!? 好きなアイドル応援するののどこが駄目なの?!」

だったらせめて女にしろよ、という言葉は飲み込んで弘也は騒ぐ瀬田を無視して教室へ向かう。想像以上にミーハーな瀬田に辟易しつつも、友人として気持ち悪いと一蹴してとどめを刺すのはやめておいた。


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