[携帯モード] [URL送信]

日がな一日
007


次の日、瀬田は杵島と連れだって生徒会室で役員たちの前に立っていた。昨日のうちに杵島から瀬田と一緒に生徒会補佐として手助けしたい旨を伝えると、放課後には役員達の前で椿によって紹介されていたのだ。

「…と、いうことでしばらくの間、二人に仕事を手助けしてもらうことになった。瀬田くん杵島くん、これからよろしく」

椿からの紹介に昨日は大見得切っていた瀬田も緊張のあまり吐きそうになっていた。今日は前回と違って椿だけでなく、殆どの役員が揃っている。キラキラしたオーラを発する集団に注目されて、小心者の瀬田は杵島の後ろに隠れようとして小突かれた。

「これから文化祭の準備で忙しくなるだろうから、二人が入ってくれると助かる。杵島くんだけでなく瀬田くんまで来てくれるなんて。生徒会長として君達を歓迎するよ」

「おい、なに勝手なことを言ってんだ。俺は認めてない。何でこいつらを入れなきゃなんねぇんだよ」

椿の言葉に水を差す一言を発したのは、奥のパイプ椅子に座っていた萩岡だ。瀬田達を威嚇しながら抗議するために立ち上がった彼だが、椿は笑顔で反撃した。

「孝太以外は了承してることだ。多数決で決めたことには従うのが決まりだぞ」

「そーだよ孝太くん。とりあえず落ち着こ?」

「うるせー、何で詩音が椿の肩持つんだ」

「まあまあまあ」

詩音になだめられて再びパイプ椅子に座らされる萩岡。彼は納得していないのかあれこれ言っていたが、詩音がそれにかぶせてくるように瀬田達に話しかけてきた。

「二人とも生徒会にようこそ。孝太くんはああ言ってるけど、私たちは大歓迎だから。ね、ゆり子ちゃん」

「何で二人も…ただでさえ狭苦しいってのに…」

「ね! そうだよね正路くん!!」

ゆり子が明らかに歓迎ムードではなかったので、詩音は慌てて夏目に話を振った。夏目は期待を裏切らない笑顔を瀬田達に向けてくる。

「ああ、柊二達が来てくれるなんて嬉しいよ。困ったことがあったら、いつでも俺にきけよな」

「夏目くん…」

生徒会で唯一の味方ともいえる男の笑顔に瀬田は目を輝かせる。隣にいたはずの杵島はすでにあいているソファーに腰を下ろし、我が家のようにくつろいでいた。

「ちょっと! まゆは先輩方の決定に従っただけで、納得してませんからっ。生徒会に入ったからっていい気にならないでくださいね、瀬田せんぱい」

夏目との間に割り込んだ真結美が瀬田に指を突きつけてくる。彼女の事は苦手だが、萩岡や椿を相手にこれからやることを思えば何て事はない気がした。

「これからよろしくね、中村さん」

「むっ…」

平常心を装って真結美に向かって微笑む瀬田。喧嘩腰だった真結美もいつもとは違う瀬田に警戒してか大きな瞳で瀬田を睨み付けていた。

もちろん生徒会補佐になっただけで杵島も瀬田も満足などしていない。補佐では生徒会の特権は与えられないし、ここで役員全員に杵島の事を認めさせなければ意味がないのだ。そして、瀬田は瀬田で椿と萩岡との関係を修復するという目的があった。

「今日はあくまで見学の日。僕らの仕事を思う存分、見ていてくれ」

椿の言葉に瀬田は受けてたつという意気込みを持って大きく頷く。杵島はといえば机に置かれていたお菓子を勝手に食べてゆり子にさっそく叱られていた。頼りになるのかならないのかわからない親友に、瀬田は笑顔の下で先の見えない不安を感じていた。



瀬田と杵島が生徒会補佐という前代未聞の役職についたことは、すぐにでも全校生徒に広まった。それを生徒達が受け入れたかというと、受け入れられているはずがないのだが、直接瀬田か杵島に言ってくるような生徒は今のところいなかった。




「あの転校生、生徒会に入るなんてあり得ねぇよな」

「…!」

廊下を歩いていた瀬田が2年4組の教室の前を通ったとき、窓越しに聞こえた声に思わず足を止めた。他の生徒達も思うことはあるだろうとわかってはいたが、実際に聞くのは初めてで盗み聞きはよくないとわかっていても、つい耳をそばだてていた。

「厳密には入ったわけじゃねえだろ? ただの補佐役で他の役員様みてーな特権はないらしいし」

「んなの関係ねーよ。だって立脇さんとかゆり子さまとか、中村真結美と間近で話せるんだぜ。いーよなー」

「あの3人があんなメガネ相手にするか? それより萩岡と同じ空間にいることがつらすぎだろ」

「いえてる」

男達の話につい聞き入ってしまう。棒立ちでいると不自然なので、壁にもたれ掛かって耳をそばだてた。

「瀬田柊二はまあわからなくもねぇけど…でもあいつホモなんだろ。会長狙いの。生徒会に入れていいんかよ」

「会長は聖人君子だからなぁ。それより萩岡が追い出しそう」

「転校生と瀬田って四六時中一緒にいるけど、…まさかできてるとか」

「マジでぇ? 会長ならともかくあのメガネをぉ?」

「メガネの方から誘ったのかも。そんで瀬田を利用して生徒会に入ったとか」

「何だその汚ねぇ昼ドラ展開」

男達の笑い声と共に瀬田はその場から離れた。彼らは冗談で言っているだけ。それはわかっているが自分のせいで杵島まで男が好きだと思われるがつらかった。自分は慣れているし本当の事だから仕方ないが、杵島は違うのだ。その事をどうしてもわかってほしかったが、方法が思い付かない。

「おーい、瀬田ーー」

一人悶々としていた瀬田は、後ろから杵島に声をかけられた。杵島は瀬田の肩に手を置くといつものようにじゃれてくる。

「お前俺を置いてくなよなぁ。寂しいじゃねぇか……瀬田?」

肩の手をそっとおろさせると、瀬田は神妙な面持ちで杵島を見た。様子がおかしいのがわかったのか杵島はふざけるのをやめた。

「どうした」

「…いや、ただ、杵島くん、俺にちょっとべったりすぎないかな、と思って」

「? そうでもねーだろ。てか仮にそうだとしたらどうなんだよ。鬱陶しいっていいたいのか?」

「違うよ! ただ、あんまり俺と一緒にいると、杵島くんまで…男が好きと思われるんじゃないかと。俺と付き合ってるって、不名誉な噂がいつ流れてもおかしくないし」

瀬田は杵島が好きだが、そういうつもりは一切ない。それはもちろん杵島も同じだが、端からそういう風には見えないだろう。

「別に杵島くんと離れたいわけじゃないんだ。ただ、今ならまだ俺以外の友達もできるんじゃないかと思って。杵島くんが他に友達作っても、俺ともたまに話してくれたらいいから。そうすれば誤解もとけるし……うわっ」

突然襟首を捕まれたかと思うと杵島は苛立ちをぶつけるかのように、瀬田の唇にぶつかる勢いでキスしてきた。

「ん!? んんっ」

ここは人通りの多い廊下のど真ん中である。場所の問題でもないが、一体こんな目立つところで何をしているのかと瀬田は思い切り杵島の身体を突き飛ばした。

「な、なにすんだよ何考えてんだよ杵島くん!」

「お前、ビビりすぎ」

突き飛ばされた杵島はヘラヘラしていたが、たとえ冗談だとしても瀬田には笑えなかった。すぐに口を袖で拭うと杵島から距離をとる。今のは周りにもばっちり見られていたらしく、瀬田達は周りの視線を集めていた。

「もうこれで俺は、仮にお前と離れてもホモだのなんだの言われるだろうな」

「そ、そーだよ! わかってんなら何で…っ」

「お前が、俺から離れられないようにしてんだよ。もう二度と、そんなふざけたこと言えないようにな」

「…な、なにそれ……」

絶句する瀬田に杵島がこんな状況にはそぐわないであろう、明朗な笑みを見せた。

「俺の事は弘也って呼べよ。俺たち、友達だろ」

友達って何なんだろう。口笛を吹きながら上機嫌で歩いていく杵島の後ろ姿を見ながら、瀬田は意味もわからずドキドキしていた。


[*前へ]
[戻る]


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
無料HPエムペ!