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日がな一日
孝太と瀬田



ことの発端は、萩岡孝太が親友と写った写真を兄に送ってしまったことにある。女友達に弟、つまり孝太を見てみたいと言われたので最近の写真を俺の携帯に送れ、と兄はお願いという名の命令を孝太に下した。
日頃から兄にはお金を貸してもらったり、車で送ってもらったりと世話になっている孝太はそれをあっさり了解した。けれど写真に興味のない自分の携帯に一人で写る写真などはなかったので、孝太は仕方なく、そして深く考えることもなく瀬田と写っていた写真を兄に送った。

そして数日後、兄から女友達と遊ぶから一緒に来いと"お願い"された。そこまでは予想範囲内だ。しかしそこにはあろうことか瀬田も含まれていて、孝太は自分の考えの足りなさに舌打ちした。
けれど兄の命令に逆うことなどできず、結局孝太は嫌々ながらも瀬田を呼ぶことになってしまった。




「瀬田、今日は悪かったな。兄貴が戻ってきたら送ってもらえっから」

「うん、ありがと」

日曜日、外出届を出して瀬田を実家へ連れてきていた。もちろんそこには大学生の兄とその女友達がいた。兄の手前、孝太は女達に愛想よく振る舞い、瀬田も孝太のために精一杯相手をした。ただでさえ女子が苦手な瀬田には苦行でしかないことはわかっていたので、孝太はなるべく自分に女達の注目を集めるようにした。


そのホームパーティーは寮の門限を理由に早めに解散となり、兄は女子達を駅まで送っていくため出ていった。広い家に瀬田と二人きりになり、孝太は深く長いため息をついて瀬田のとなりに腰を下ろした。

「あーーー、ダルかった」

心底疲れきった声の孝太に、瀬田は意外そうな顔をした。

「俺は楽しんでるのかと思ってた。孝ちゃん女の子と遊ぶの好きだし」

「そりゃ俺の友達の場合だろ。あいつらは全然気ぃ使わねぇけど、兄貴の友達とか接待だろあんなもん」

「孝ちゃんいつもよりテンション高くて面白かったけどな、俺は」

にこにこ笑う瀬田の頭に孝太がゴシゴシと触れてくる。まるでタオルで手を拭く時のような仕草に瀬田は顔をしかめた。

「何してんの?」

「ブスに触られたから消毒」

先程までベタベタしていた女子の事を悪し様に言う孝太に、瀬田は困惑していた。孝太の口が悪い事は今に始まったことではないが、瀬田はいつまでも慣れなかった。

「ブスって…孝ちゃん…」

「なんだよその目、お前、あの中に気に入った女がいたわけじゃねぇだろ?」

「まさか、そんな」

孝太からすると、瀬田にその気はなくとも女達はそうではなかった。見るからに遊びなれている孝太と違い、瀬田はわかりやすい草食系。女に慣れていない高校生など、年上の女の格好の餌食だ。
瀬田の写真を兄に送ったのは本当にたまたまだが、見せびらかしたいという気持ちがなかったわけではない。180をこえる身長に整った顔、それでいて大人しく自分にしか懐かないこの友人を、孝太は大変気に入っていた。
だからこそ、その辺のしょーもない女にくれてやる気は毛頭ない。放っておいたら悪い女に騙されて良いように利用されるのが目に見えていたため、瀬田には極力女を近づかせないようにしていた。孝太を通して瀬田に取り入ろうとする女はすべて排除し、女子が瀬田に告白でもしようものなら先回りしてあらゆる手を尽くしてその気をなくさせた。
面倒な事は嫌いな孝太だったが、ことさら瀬田に関してはまったく面倒だなどと思ったことはなかった。

「孝ちゃんには、立脇さんがいるもんね。立脇さんに比べたら、他の子はあんまり可愛くみえないのかもね」

立脇詩音は孝太が少し前から付き合っているクラスメートだ。瀬田が彼女を好きだった事に孝太は気がついていたので、付き合うと知ったらどんな反応をするのかと思っていたが瀬田は笑顔で祝福してくれた。少しの動揺も嫉妬も見せず、お似合いのカップルだと言って喜んでいるようにさえ見えた。
瀬田がいまも詩音を好きかどうかはわからない。相変わらず詩音と話すときは真っ赤になっているが、孝太と仲の良い彼女を見せつけられてもその笑顔が崩れることはなかった。

「お前は、彼女欲しいとか思ってんの?」

「え!? えっと…それは、もちろん……」

女なんか選り取りみどり、みたいな顔をしているくせに、この手の会話にすら免疫がない瀬田。いったいなぜこんな性格になってしまったのか。こいつは本当に自分と同じ男なのかと疑ったこともある。

「好きな子ができたら、付き合いたいよ」

照れくさそうに笑う瀬田に、孝太は思わず見入ってしまう。散々上に塗りたくった女よりも綺麗な肌、ビー玉みたいな大きな瞳。すっと通った鼻筋に歯並びの綺麗な口元。本人には言わないが、ふとした仕草に魅せられて目が離せなくなる瞬間があった。

「だったら俺に任せろ。お前に相応しい女を、俺が見つけてやるからな」

瀬田は選り好みの激しい自分が認めて側に置いている男なのだ。それなりにいい女と付き合ってもらわなければ困る。女の良し悪しなど瀬田にわかるわけがないから、代わりに自分が見極めてやらなければ。孝太は瀬田にじゃれつきながら、本気でそんなことを思っていた。


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