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日がな一日
005


瀬田が椿の事で熱弁を振るっている間に、生徒会専用席に一人の男子が座った。
男の名前は萩岡孝太。彼は生徒会長である椿のことが大嫌いだったが、彼の席は椿の左隣と決められていたので、食堂にいる間いつも萩岡はわかりやすいくらい不機嫌だった。

「あいつはいつもクラスで見てるから紹介いらねーぞ」

萩岡に気づいて意気揚々と説明しようとしていた瀬田を、杵島が何も言わないうちに止めた。

「同じクラスっていったって何にも知らないじゃん。萩岡くんは──」

杵島の言葉を無視して瀬田は事細かに彼を紹介を続ける。生徒会書記である萩岡孝太は多少強面ではあるものの、精悍な顔つきをした男前だ。生徒会役員でありながらよく不良に間違えられるほど荒っぽい性格だが、意外にもその授業態度は真面目で成績は常に学年10位以内。椿ほどではないにしろ十分優秀な男だった。

「そんでもって、萩岡くんと椿くんって従兄弟同士なんだよ」

「えっ、マジ!? 全然似てねぇ!」

「超仲悪いけどね」

というよりは萩岡の方が椿を一方的に煙たがっていると言った方が正しい。椿は誰かをあからさまに嫌ったりする男ではないが、萩岡はたいていの人間をわかりやすく嫌っている。

「今年の生徒会役員はね、凄いんだよ」

「どうしたいきなり」

机の上で腕を組んだ瀬田が大真面目に口を開く。この学校で一番の生徒会ファンだと自負している瀬田は、なんとか杵島に生徒会の素晴らしさをわかってほしくて必死だった。

「今年選ばれたメンバーは、たぶん、歴代の生徒会の中で多分一番嫌われてる」

「……はい?」

また長々と生徒会の賛辞が始まると気構えていた杵島は突然の悪口に自分の耳を疑う。微妙な表情になった杵島にも気づかず瀬田は語り続けた。

「毎年生徒会は容姿、能力、人柄が総合的に優れている人間を選ぶんだけど、この中で一番重要視されるのが実は人柄、というか他の生徒からの人気度なんだ。いくら顔と頭が良くても嫌われ者なら選ばれない。うちの生徒会ってのは人気が大事だから」

頭でっかちの顔だけ集団、では生徒会はつとまらない。ある程度の人望がないとプライドの高いここの生徒達をまとめることはできないのだ。

「でも、今年の生徒会役員は違う。アンチも多いのに、その美しすぎる容姿と類まれなる才能で生徒会に入れざるを得なかった人たちなんだよ。……あ、でも椿くんはみんなから好かれてるけどね! やっぱ生徒会長は別格っていうか」

「じゃあ、会長以外の奴らはみんな萩岡並みにウザいってこと?」

「いや、みんながウザいとかそういう事じゃなくて……ほら、あそこ! いま座った女子二人見て!」

「えっ、女子!?」

女と聞いて今までとは違う食い付きを見せる杵島。新たに席についた生徒会メンバーは、背の高い大人びた風貌の眼鏡の女子と、小さくて可愛らしい中学生みたいな女子だった。

「小さい方が、生徒会会計の立脇(たてわき)さん。俺的には立脇さんが生徒会の中で一番可愛くて、オススメ」

「瀬田のオススメは椿だろーが。てか何でそんな真っ赤になってんの」

立脇を見ていた瀬田は杵島の指摘でさらに赤くなる。誰にも言ったことはなかったが、立脇は瀬田にとって特別な女子だった。

「今だから言えるけど、俺1年の時ちょっと立脇さんの事好きだったんだよね……」

「は? 瀬田が?? ホモなのに?」

「いや、俺男を好きになったのは椿くんが初めてだから」

「はい?」

照れながらそんなことを言う瀬田に杵島がキレ気味に聞き返す。

「だったら瀬田、お前はホモじゃない。バイだ」

「バイ?」

「バイセクシャルな。男も女もどんとこいってやつ」

「何だよその節操なしな感じ。いま俺が好きなのは椿くんだけだから」

「……あ、うん、そうだな」

説明するのが面倒なのか杵島はそれ以上言わなかった。瀬田の性癖がどんなものであろうとどうでも良かったのかもしれない。

「で、その立脇さんの横にいるのが田中ゆり子副会長。チャームポイントはあの美しい横顔と長い足」

「チャームポイントて」

副会長である田中ゆり子は椿と同様、1年の時から生徒会役員を務める才女である。すらっとした長身の美女で、成績は常に椿に続いて次席をキープしている才色兼備だ。

「真面目なのになぜかスカートは超短くて、長い足が丸見えでそこがもう最高っていうか」

「お前のそのミーハー根性が女に向けられるだけで犯罪臭すごいぞ……」

「いや俺は何もしないよ! けどあんな足出されたら男ならつい見てしまうというか」

「うーん、でもここからじゃ足が見えない……あ、なんか今目があった」

「そらして! すぐに!」

「なんで?」

「怒られるから! 男に人一倍厳しい人だから!」

田中ゆり子の男嫌いは有名で、特に萩岡とはしょっちゅう本気の喧嘩をしている。その物怖じしない強気な性格と冷たい視線で男の心を容赦なくへし折るのだ。不用意に近づけばボコボコにされる事は予想できていたので、瀬田は去年同じクラスだったにも関わらず遠くから眺めるだけで満足していた。

「副会長はね、“ゆり子様”っていうあだ名が皮肉でつくくらい男子から怖がられてるんだよ。でも男嫌いなはずなのに椿くんとは仲良くしてるから、女子からの反感もすごいんだよ……」

椿礼人のモテっぷりは異常なレベルなので、少しでも誰かが抜け駆けをしようとすると周りから制圧される。それは同じ生徒会役員女子も同様で、美人でもおっかない彼女のアンチは男女共に多かったが、その一方で何を言われても動じず生徒会役員としての仕事をこなす彼女に憧れる生徒もたくさんいた。

「とにかく、今日はもう見るの止めよう。なんかすごい今もこっち睨んでる気がするし」

「何でそんなにビビってんの」

「いやマジであの子男に容赦ないから。平気で目とか潰しにくるから」

「そんなに!?」

一度食堂でゆり子をキレさせた男子を見たことがある。その時の事を思い出し身震いしながら小さくなった瀬田は、何度もちらちらと盗み見ようとする杵島を止めながらひたすら食べることに集中した。


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あきゅろす。
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