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日がな一日
004


「よし、じゃあ今日は一緒にご飯を食べよう」

昼休み、杵島が生徒会メンバー全員を見たいと言うので瀬田は彼を誘って食堂に行くことにした。行けば必ず生徒会役員の姿を見ることができる場所、それが食堂だ。

「ほら、杵島くん。走るよ」

「え? 何で」

「いい席がなくなっちゃうから!」

四時間目が終わった途端、瀬田は杵島を引きずって食堂に走った。ほぼすべての生徒が利用するここの食堂の席の争奪戦は日常茶飯事である。生徒会役員には専用スペースが設けられているので、彼らが近くで見られる席は急いで取りに行かなければまず座ることはできない。

「よっし、間に合った! ほんと8組って学食近くてラッキー」

「はぁ……もしかして、毎日、これやるの…?」

「生徒会の皆をいい席で見るためだよ。杵島くんここに座ってて。俺が食券買ってくるから」

「りょーかい……」

息切れする杵島を場所とり要員にして瀬田が食券を買いに行く。生徒会役員が来る前にいつものベストポジションをゲットすることができた瀬田は上機嫌だった。

「はい、食券。Bランチで良かった?」

「おー、サンキュ。あそこが生徒会役員の席?」

「うん、そう」

生徒会専用スペースは食堂のど真ん中にあり、テーブルと椅子の色が違うのでわかりやすくなっている。席がなくなる心配がないかわりに必ずここに座らなければならないので、例え仲があまり良くなくても彼らは生徒会役員同士で昼食をとることになる。これも生徒会特権の一つだが、いいのか悪いのかはわからない。

「でもここちょっと遠くないか。隣の席とかあいてるのに、なんでここ?」

「わかってないな杵島くんは。あんまり近くてもガン見できないだろ。遠すぎず近すぎず、ここは俺が長年かけて計算しつくしたベストポジションなんだよ!!」

「お前はプロのストーカーか何かかよ」

あまり近づくと椿に迷惑がかかるとわかっていながらも、食堂は唯一生徒会役員を思う存分眺められる場所なのだ。懲りない瀬田はほぼ毎日かかさずこの席を陣取っていた。

「俺、一応生徒会ファンクラブの一員だからさ」

「何そのキモいクラブ」

「キモくない! 失礼な!」

「それ入ってたら何か得すんの?」

「何も、ただこの会員カードがもらえる」

「え、いらねぇ」

せっかく見せたカードにゴミを見るような視線を向けられ、さすがの瀬田もむっとする。少しふてくされながら杵島を睨み付け、瀬田は食券を持って席を離れた。







瀬田と杵島が戻った時、すでに食堂は生徒達で溢れかえっていた。そしてちょうど、生徒会長である椿礼人が食堂に現れた。

「椿くん、いっつも食堂一番乗り………」

「うっとりするポイントが意味不明」

人混みの隙間から椿をこっそり盗み見て、その綺麗な顔に見とれる。椅子に座る動作や箸の持ち方まですべてが素晴らしい。

「あれが生徒会長、椿礼人くんだよ」

「ふーん」

「椿礼人、って響きがすでにいいよね! まさに選ばれた人間に相応しい名前、って感じで」

「そうか? 珍しい苗字だなとしか……確かに男にしては綺麗な顔してるとは思うけど」

「そうだろうそうだろう」

大好きな椿を褒められて瀬田は大満足だった。文武両道で欠点のない完璧な男、それが椿礼人だ。正直、彼への賛辞ならいくらでも並べたてることができる。

「椿くんは見た目だけじゃなくて、中身もすごいよ! 大企業の御曹司で、一年の時からずーっと成績は学年トップで、運動神経も良くて、なのに全然偉ぶってないし優しいし」

「じゃあ俺が誠心誠意頼んだら生徒会に入れてくれる?」

正直椿の完璧なスペックと美しい容姿を見ればどんな人間でも引け目を感じるだろうと思っていたが、杵島はそうではなかったらしい。これには瀬田もがっくりきて深くため息をついた。

「杵島くん、最初から思ってたけど、生徒会に入ろうなんて身の程知らずもいいところだよ」

「お前って、結構ハッキリ物言うよな」



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