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日がな一日
009



「柊二、これ」

「……?」

シャワーを浴びたあとに戻ってきた瀬田は、夏目が差し出してきた紙袋に首をかしげた。そこには丸められたポスターが入っていて、広げるとそれは処分されたと思っていた椿と嵐志のものだった。

「え!? な、何でこれが……」

「燃やしたってのは嘘。……今まで黙ってて悪かったよ」

「ほ……」

正真正銘の本物だ。ポスターを持つ手が緊張で震える。もう見られることはないと思っていたものが思わぬ形で戻ってきて、瀬田は喜びのあまり夏目を抱き締めた。

「ありがとう! ありがとう夏目くん!」

「柊二、泣いてる……」

「えっ、嘘」

目から自然と涙がこぼれてくきて唖然とする。夏目の顔は少し引いていたが、思っていたよりもずっとこれは自分にとって大切なものだったようだ。

「最初見つけた時は本気で捨てようと思ってたんだけど、一応俺にも理性が残ってたからな。我慢した」

「本当にありがとう!!」

ポスターはなくとも夏目がいるからそれでもう構わない、と思っていたはずの瀬田は涙目になりながら歓喜していた。こんなにも嬉しそうにはしゃぐ瀬田の姿を夏目は初めて見た。

「別にお礼なんかいらないって。俺が悪かったんだから」

そうは言いつつ顔をしかめる夏目。その顔を見て瀬田は自分が喜びすぎたとようやく自覚した。

「……あ、でももちろん俺の部屋にはもう飾らないよ」

「はは、そんなことしてたら今度こそ窓から破って捨てる」

「俺の部屋のクローゼットからも撤去するよ!」

とはいったものの、もう当分実家に帰ることはないだろう。それまでこのポスターは自分の部屋に隠しておかなければならないが、夏目がこれを見るたび落ち込ませるのは忍びないし、そこにあるのがわかっていると捨てたい欲求を今度こそ我慢できないかもしれない。

「そうだ、いい方法思い付いた」

「……?」






その日の夜、瀬田は夏目と一緒に弘也の部屋に行った。幸い弘也は部屋にいて、瀬田がノックして呼び掛けると不機嫌そうな顔で扉を開ける。

「何だよ今何時だと思ってんだよ……って何で夏目まで。何しに来たお前ら」

「弘也、これお土産」

「あ?」

「入ってもいい?」

「駄目」

実家に帰ったついでにお世話になった弘也に地元で有名な菓子を買っておいた。それは素直に受け取ってくれたが部屋には入れてくれない。すぐにインコを夏目に見せないためだと気づき、押し入るのは諦めた。

「その様子だと仲直りできたみたいだな」

「うん、弘也には迷惑かけたから、そのお詫び」

「サンキュー。でもこんなもんじゃ俺への貸しはチャラにならないぞ」

「それから、これも」

瀬田からわたされたポスターを見て弘也は顔をひきつらせる。瀬田は慌てて説明した。

「夏目くん本当は捨ててなくて隠してただけなんだ。これをしばらく弘也に預かってもらいたいんだけど……」

「やだよ」

「部屋の隅っこに置いといてもらえるだけでいいんだ。年末の里帰りの時には実家に持って帰るから」

「話聞いてんのか、やだっつってんだろ」

「俺がこれを持ってると夏目くんが嫌な思いをするかもしれないし……。ポスターは大事なものだけど、夏目くんには代えられないから」

「柊二、俺のためにありがとう」

「そんなの当然だよ」

「おい、そういうのはお前ら自分の部屋でやれ」

見つめあう二人に弘也はうんざりだと嫌悪感をあらわにして手で追い払う。瀬田は夏目の手を握り締めたまま、親友に向き直った。

「頼む、こんなことお願いできるのは弘也だけなんだ」

「俺からも頼むよ、弘也」

「夏目てめぇ後輩のくせに弘也とか気安く呼んでんじゃねぇぞ」

押し問答の末、バカップル二人に押しきられて結局そのポスターは弘也が預かることになった。恩を仇で返される結果になった弘也だが、「良かったな」と瀬田に言ってくれた。


おしまい
2017/9/7

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