日がな一日
おかえりなさい※
夏目と瀬田が付き合い初めてから約1ヶ月。紆余曲折あったものの、恋人同士になってからは順風満帆でまさにバカップルそのものだった。もちろん瀬田と夏目が付き合っている事を知っているのは生徒会役員達だけだったが、他の生徒達の間でもその仲の良さは周知のものとなっていた。
今は瀬田のみ出入り自由となった夏目の生徒会専用の部屋の合鍵をもらったので、ほぼ毎日のように入り浸っていた。しかし夏目が瀬田の部屋に来るときもあり、その殆どが突然の来訪ではあったが瀬田はどんな時でも彼を笑顔で迎えた。
「柊二、部活どう? 塩谷にいじめられてないか?」
「大丈夫。最近はちょっとずつ打ち解けてきてるから」
後ろから抱き締められて瀬田は照れつつも部活での事を話す。学校ではできない分、部屋での夏目はずっと瀬田に触れていた。接触恐怖症なんてものは瀬田の前では無に等しい。一度鍵をかけ忘れていて弘也がいきなり入ってきた時は、なんとも言えない気まずい雰囲気が流れた。
「柊二、この後一緒に飯買いに行こーぜ」
「わかったわかった。でもそろそろ風呂の時間だし、その後にしよう」
生徒会役員でなくなった瀬田は、元の大浴場で決められた時間に風呂に入っていた。幼馴染の大園律香が瀬田の彼女だと大勢の前で公言してからはゲイ疑惑も薄らいで、皆と一緒に入浴しても嫌がられないようになった。一時ではあるものの生徒会という人気者集団に所属していたのも、瀬田の株を上げる要因になった。
「風呂入るの? だったらさぁ…」
「わっ」
夏目は瀬田のうなじに吸い付き、そのままベッドに引きずり込む。一般生徒の部屋は狭いためすぐ横にベッドがある。突然恋人がその気になっても止められないのが難点だ。
「な、夏目く……待って……っ」
「柊二、柊二可愛い……」
夏目は一体どこでスイッチが入ったのか、話も聞かず瀬田の尻を無遠慮に揉み、濃厚なキスを続ける。
付き合ってすぐに身体の関係を持った二人だが、その後は様々な障害のせいで数えるほどしかできていない。
夏目は生徒会の仕事もこなしつつ、成績も落とすことができず多忙の日々。文化祭で助っ人として活躍した功績がある瀬田も、正式に部員となったからには下っ端から始めなければならず、部長達からの期待に応えるべく日々奮闘している。夏目とは別の意味でこれ以上成績を落とすわけにもいかないので、面倒くさがりな弘也に頼み込んで勉強を教えてもらっていた。
「夏目くん、やめてってば」
ずり下げられたジャージを再び穿きなおすことはできても、狭い二段ベッドで身体を密着させられているので簡単には腕の中から逃げ出せない。本気で拒否しているのに、夏目は嬉しそうだった。
「そんな風に嫌がられると、俺の妄想ん中の柊二みたいで興奮する」
「その妄想はやめなさいって言ったろ! ……マジで無理矢理やるつもりじゃないだろうな」
「まさか。でも、俺達って一週間もご無沙汰じゃんか…」
しょげた顔でそう言われてしまうと恋人の望みを叶えてやりたくなるが、瀬田も理由もなく拒絶しているわけではない。
「だから、俺の部屋はだめだって言ってるだろ。壁薄いんだから」
一人部屋にも関わらず、ここでしたことがないのは隣の住人に声を聞かれるかもしれないからだ。たまに大きな笑い声などが隣から聞こえてくるほど、ここは壁が薄い。夏目の防音のしっかりきいた部屋があるのだから、そちらを使う方が安心だ。
「じゃあ今から俺の部屋行こ」
「だーかーらー、もうすく入浴の時間だって言ったじゃん。生徒会の時とは違って、時間決められてるんだから守らなきゃ」
「こっそりこっちの風呂入ればいいだろ。どうせバレねぇよ」
「それでこの前鉢合わせしちゃったんだろー!」
瀬田と夏目が盛んになれない理由の一つが、風呂問題である。終わった後は当然身体を綺麗にしたいが寮生活ではそうもいかない。しかし生徒会役員専用の浴室はいつでも使用することができる。しかも夏目の部屋から近いので瀬田はこっそりシャワーを使わせてもらっていたが、この前浴室の前で椿と鉢合わせしてしまったのだ。
もう使用する権限のない瀬田が浴室を使っていたことにお咎めがあるかと思ったが、椿は何も言わなかった。消灯時間間近に焦ってシャワーだけ使いに来た瀬田に察するものがあったのだろう。夏目との行為で汚れた身体を洗い流すために、椿も使う浴室を無断使用するなんて瀬田にできるはずもなく。あれ以来瀬田は夏目をやんわりと拒んでいた。
「でも俺、このまま放置じゃつらいんだけど」
彼が恥じらいもなく押し付けてきた下半身はしっかりと勃ち上がっていて、瀬田の顔がひきつる。確かにそれはつらいだろうという同情と、そんなものを出してくるなという拒絶が混同していた。
「柊二、俺のお願いきいてくれる?」
「嫌な予感」
「柊二の口で、俺の舐めてくんない?」
「!?」
妄想の中でいかにやりたいようにやっていたかがわかるとんでもない発言だ。もちろん嫌だと即答しようとしたが、これくらい恋人同士ならば普通のことかもしれないと思うと無下にもできない。
爽やかな笑顔で欲望丸出しの事を言う。変態アブノーマル野郎、というのは瀬田が密かにつけた夏目のあだ名だ。彼がこんなにエロいことに積極的だとは、付き合う前は想像もしていなかった。
「でも俺、そんなのしたことないし、どうすればいいかわかんないから……」
「したことあったら逆に怒るわ。特別な技術なんかいらねえよ。普通に舐めて、口に入れてくれればいいんだって」
膝立ちになった夏目に促され、最早嫌だと拒絶できなくなっていた。四つん這いになった瀬田は夏目の下着をずらし、極力見ないようにして恐々舌を這わせる。
「うわっ、マジ……」
マジでしてくれるの!? という夏目の歓喜の声が聞こえた気がして上目使いで睨み付ける。やらなくていいならやりたくないが、夏目がたまらなく嬉しそうにしているので今やめてがっかりして欲しくはない。瀬田は覚悟を決めて、すでに上を向いている夏目の先っぽを躊躇いながらも舐め続けた。
「柊二……」
夏目が自分の頭を愛おしそうに撫でている。もちろん不味いしすぐにでもうがいしたいところだが、夏目が達するまではと必死で我慢していた。
「先だけじゃなくて根本までやって。じゃないとイけない」
「……」
この上さらに注文をつけるなんて調子に乗りすぎだ、という不満はあったが確かに夏目の言う通りなので指示に従う。自分だったらここがいいだろうと思うところを重点的に攻めていると、夏目がしびれをきらしたように瀬田の顎に手をかけた。
「もう柊二の口の中に入れていい? 気持ち良いんだけど、さっきから生殺しで……」
こんなに硬く大きくなったものをくわえられるのかと一瞬躊躇したが、夏目は瀬田の返事を待たず突っ込んできた。つい逃げようとして下がる瀬田の頭を固定して、口内を容赦なく犯してくる。
「ん……んんっ……!」
「ごめん。でも柊二ん中、気持ち良くて……」
口いっぱいに頬張らないと夏目のものは入らない。先端で喉奥を突かれて何度も吐き出しそうになったが、夏目がそれを許してくれない。独特の臭いと味が口の中に目一杯広がり、呼吸が苦しく涙目になっていく瀬田の目尻を、夏目が優しく拭った。
「柊二、奥…出すから」
「ん……んん……」
「飲んで」
「!?」
エスカレートしてくる要求にさすがの瀬田も嫌だと突っぱねたかったが、口が使えないのでどうすることもできない。ピストンする動きがいっそう激しくなり、逃げようと暴れて唸っているうちに口の中でおもいっきり射精されてしまった。口いっぱいに広がる苦味に思わずむせてしまうも、夏目は瀬田の中から出ていこうとしない。
「飲み込んでって言ったろ? それまでこのままだから」
こいつは鬼かと愕然としたがこうなってしまっては飲み込むしかない。瀬田が苦労してなんとか飲み込むと、ようやく大人しくなった自分のものを口から出して瀬田を解放してくれた。褒めるように瀬田を撫でまわし、こめかみに何度もキスをする。
「ありがとう。柊二が可愛すぎてもっとしたくなったけど、今日はこれで我慢するから……」
「うがいしていい!?」
「………え、ああ、うん」
許可をもらってダッシュで手洗い場に向かう。この部屋にはないので廊下に出なければならず、夏目を置いて部屋を飛び出した。共同の水道でこれでもかというくらい口を洗ったが、まだ粘つく感じが残っているような気がする。
最近ご無沙汰しているので鬱憤がたまっているのかもしれないが、これから夏目の要求がどんどんエスカレートしてきそうで怖い。何より怖いのが夏目に頼まれると例えそれがどんなことでも断りきれない事だ。彼が自分の事を本気で好きだというのがわかるので、夏目の望みは何でも叶えてやりたくなるし期待には応えたくなる。
瀬田が戻った時、夏目は満面の笑みで出迎えてくれた。ぎゅっと瀬田を抱き締めて満足げに微笑んでいる。
「柊二、大丈夫? ごめんなやりすぎて。俺のこと嫌いになってない?」
「なってない。俺風呂入ってくるから、一緒に飯食うならここで待っててよ」
なんとなく照れくさいので夏目の顔を見ずにクローゼットを開ける。タオルと着替えを探していると、あるはずのものがないことに気がついた。
「……!?」
夏目が突然やってくるので、もうずっとクローゼットに丸めて隠していた佐々木嵐志と椿礼人のポスターがない。端の方に立て掛けてあったのに、その周辺をひっくり返して探しても見当たらなかった。
「柊二、どうした?」
「いや、別に……」
と言う割りには瀬田の行動はおかしかっただろうが、夏目に理由を言うわけにもいかず、瀬田はとにかく可能性のある場所をひっくり返して探した。
「もしかして、あの二人のポスター探してる?」
「えっ」
夏目の言葉に思わず振り返って固まる。なぜ彼があの秘蔵ポスターのことを知っているのか。バレていたとしたら気まずいどころの話ではない。
「嵐志と会長のやつ、そこにしまってただろ」
「な、な、なんで……いやアレはちがくて」
「大丈夫、もう怒ってねぇよ。でも、あれは俺が代わりに捨てといたから」
「……は!?」
衝撃的な言葉に瀬田は夏目に詰め寄る。その胸ぐらを掴み上げ、これでもかと揺さぶった。
「いつ! どこに!」
「だいぶ前。捨てたっつーか燃やした。だって俺がいるんだから、あんなのもう必要ないだろ」
悪びれもせず言ってのける夏目に、瀬田は絶句した。そして気がつくと、そのまま夏目の顔面に強烈な平手打ちをくらわしていた。
[次へ#]
[戻る]
無料HPエムペ!