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日がな一日
それから


瀬田はその後、文化祭に参加することはできず後日生徒会役員達や演劇部に謝ってまわった。理由をなんとなく察している人達からは何とも言えない顔をされたが、弘也だけは笑っていた。夜になって預かっていたインコを迎えに来た彼は、瀬田から詳しい話を聞くため鳥かごの横に腰を下ろした。

「とりあえず、良かったな。お前が幸せそうで何より」

「ありがとう弘也」

弘也に会えて嬉しいのかカゴの中のインコは瀬田が聞いたこともないような声で鳴き続けている。弘也はそれに慣れているらしく指だけを隙間から入れていつも通り撫でてあげていた。

「でももし別れたくなったり、あいつに暴力的な脅しとかされたら俺に言えよ。俺が何とかしてやるから」

「そんなこと夏目くんはしないよ」

「お前が動けなくなるくらいヤりまくった男なんざ信用できるか。しかも付き合い始めたその日に。瀬田、お前アイツの言いなりになんかなるなよ。もし写真なんか撮られそうになったら絶対止めろ」

「……」

「おいまさか」

「撮られてないよ。……でも」

「でも?」

瀬田は自分の間抜けな寝顔を撮られていたことを照れながら話した。ノロケにも聞こえる話を弘也は呆れながらも聞いてくれた。

「でも、その写真も消しちゃったんだけどね」

「バッカお前、撮ったのがその一枚だけなわけないだろ」

「でも、フォルダはちゃんと見たよ」

「隠す方法なんかいくらでもあるだろ。もっとヤバい写真も100パー撮ってる」

「夏目くんは撮ってないって言ってた。弘也に何言われたって、俺はそれを信じてる」

彼の裏の顔を目の当たりにした後では、絶対にないと言い切れないのは事実だが瀬田は夏目を疑いたくはなかった。夏目ならば自分を困らせるようなことはしないという確信があったからこそ、信用することができたわけだが。

「まあ、あいつならバレるようなヘマはしないだろーよ。それにお前のことが好きなのは本当みたいだから、見逃しといてやる」

「……」

夏目を疑う弘也に不満はあったが、それだけの理由があるのもわかっている。これ以上は喧嘩になりそうだったので夏目のことは何も言わないでおいた。

「それから、もう萩岡と二人きりになったらダメだからな」

「……孝ちゃん怒ってた?」

「ああ。でも自分が邪魔もんだってのは一応わかってるから、お前と二人になって理性ぶっ飛ばない限り何もしてこねぇだろ」

孝太のことを考えると気持ちが塞いだが、わかりあえることがない以上話し合っても無駄だろう。ゲージの隙間から指を入れてインコを撫で続ける弘也を前に、瀬田は意を決して口を開いた。

「実は、弘也に話したいことがあるんだけど……」





それから瀬田は、弘也と相談した上で生徒会役員補佐をやめることにした。もともと弘也に引っ張られて入ることになったので、何か志を持っている訳でもない。そして何より、瀬田は演劇部に入りたかった。これまでは目立つことをずっと避けていたが、夏目の後押しもあってやりたいことに挑戦してみようと思ったのだ。文化祭での助っ人としての活躍もあり、演劇部の部員たちも快く受け入れてくれた。


弘也は瀬田の知らないところで夏目や椿だけでなく孝太と詩音、そしてゆり子にまで生徒会加入の許可をもらっていたらしい。後は一年二人の承諾を得るだけとなり、もう瀬田がいなくても大丈夫だと言われてしまった。反対されるとばかり思っていたので拍子抜けだったが、少し前まで弘也が生徒会に入ることなど無理だと思っていただけに、いつの間にかそれを実現させていた彼には驚かされた。



恋人になった後はオープンに瀬田に付きまとうようになった夏目だが、先輩達とあんなことがあった後もなに食わぬ顔で生徒会に居座っている。最早猫を被る必要がなくなったため、唯一生徒会室でだけは本性を晒しているらしく、ゆり子と詩音、そして孝太の3人とは日々バトルを繰り広げているらしい。


「夏目! お前またここで何か食っただろ! お茶以外持ち込み禁止って何回言ったらわかんだよ!」

「はあ? 俺が犯人だって証拠でもあんの?」

「夏目くん! 机から足をおろしなさい!」

「あーはいはい。わかりましたよ」

孝太とゆり子に怒られ足を下ろす夏目を廊下からドア越しに目撃して、瀬田は頭を抱えた。無駄に軋轢を生みそうな彼の態度を見ていると、本性を隠したままの方が良かったと思えてくる。

「失礼します」

後で夏目としっかり話し合おうと決めてノックしてから扉を開ける。瀬田の姿を見た夏目は今までの倦怠感丸出しの顔を引っ込めて笑顔で瀬田に駆け寄ってきた。

「柊二、どうした?」

「俺と夏目くんにお礼がしたいって塩谷くんが言うから連れてきたんだ。入ってもいい?」

「塩谷くん?」

夏目は一瞬誰かわからないという顔をしていたが、瀬田の背後にいる三人の生徒を見て理解したらしい。演劇部部長の藤村、ヒロイン役の白戸、そして怪我で休部していた塩谷を見て、部屋に入るように促した。


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あきゅろす。
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