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日がな一日
003


「俺はずっと柊二のことを考えてたよ。柊二は普段何を食べてるのかとか、どんな生活を送ってたのかとか、どういう人が好きなのかとか」

「お、俺のそんなことを…?」

なぜそんな無駄な時間を、と一瞬夏目が心配になったがそれだけ愛が深いのだということにして無理矢理納得する。夏目は満足げに頷いて話を続けていった。

「それだけじゃない。柊二とまた会いたくて死ぬ気で勉強してここに入ったし、血を吐くような体重制限も乗り越えた。他人とうまく話せるように苦手な人付き合いにも耐えたけど…まぁ、正直これが一番つらかったな」

最後の言葉に瀬田はつい笑ってしまった。夏目の顔が見たこともないような苦渋の表情を浮かべていたからだ。

「せっかく憧れてくれたのに、会ったらダメダメでびっくりしただろ。夏目くんは人気者になってるし、俺の方が憧れてたくらいだよ」

「まともなコミュニケーション能力さえ身につけたら、人に好かれるのは意外と簡単なんだ。クラスでは人が嫌がることを率先してやって、どんな奴にでも明るく笑顔で話しかけたらいい。イケメンにしか使えない手だけどな」

「確かに、夏目くんは格好いいもんね」

瀬田の言葉に、沈んだ表情をしていた夏目の顔が赤みを帯びる。格好いいなんて何度も言われている言葉だと思っていたが、もしかするとそれほど褒められることには慣れていないのかもしれない。

「この顔がなけりゃ多分生徒会には入れなかったよ。ただの都合のいい良い奴止まりでさ」

「生徒会じゃなくたって、夏目くんは特別だったよ、きっと」

「…ありがと。でも、生徒会に入りたかったのは柊二によく見られたかったからだけど、一人部屋が欲しかったのもあるからな」

「一人部屋?」

「そう。学校終わってからもこのキャラ作るのキツすぎだから絶対一人部屋が良くて。柊二とも付き合えたし、ほんとこの顔で助かった」

「夏目くん、…一応言っとくけど、俺別に夏目くんの顔が好きで付き合うことにしたわけじゃないからな」

瀬田が面食いであることはバレているので、勘違いされてはいけないと弁明する。椿が好きだったときはその顔が大部分を占めていたわけだが、夏目はそうではない。

「じゃあ俺の好きなとこ言って」

「えっ…は、恥ずかしくない? それ」

「言ってよ先輩。俺聞きてぇなー」

こんなときだけ先輩扱いするなと言ってやりたかったが、ここで言えなければ顔目当てだと思われかねない。瀬田は覚悟して口を開いた。

「……夏目くんの好きなとこは、俺をよく見てくれてるとこと、どんな時でも優しいとこと、俺に興味津々なとこと、俺を馬鹿にしないとこと、俺の好みを把握して先回りしてくれるとこと」

「何かストーカー臭キツいな、それ」

「あと、俺の幸せを一番に考えてくれてるとこ」

その言葉に夏目は目を大きく見開くと、瀬田をぎゅっと抱き締める。締め付けられ具合が心地良く瀬田もつい身を任せてしまった。

「柊二の幸せを考えるなら、俺なんかよりお似合いの相手がいくらでもいたはずだ。副会長とだって、俺なんかと付き合うよりはまっとうだし。でもどうしても、柊二を諦められなくて…」

夏目は瀬田をうっとりと見つめながら顔を近づける。瀬田が何が起こっているか理解する前に口に噛みつき、身体を勢いよく押し倒す。

「…? んんっ…? な、夏目くん…! 待って」

「…何で? 俺達、もう付き合ってんのに」

「や、でも…。ほら、3時までには向こう戻らなきゃいけないし」

「柊二の仕事は俺がやるよ。柊二はここで寝てていいから」

寝なければならないような目にあうのかと思うと流石に逃げたくなる。何とか思い直してもらおうと瀬田の必死の説得が始まった。

「でも、いつも夏目くんにた、助けてもらってばっかで悪いし」

「柊二を仕事できないような身体にするのは俺なんだから、当然だろ」

「…あはは。それ、笑うとこだよな…。だって、何も今じゃなくてもいいんじゃん。ほら、これから時間はたくさんあるわけだから」

「はあ?」

夏目の威圧感のある目に怯んでいると容赦なく舌を入れられる。逃げようともがくと信じられないような強い力で服を脱がされた。

「駄目、今はダメだって。だってほら、俺病み上がりだし、汗すごいし」

「全快したって自分で言ってたじゃん。風呂なら終わってから入れてやるし。なあ、柊二。これ無理やり襲ってるみたいで興奮するから、大人しくした方がいいと思うけど」

「っ…!」

瀬田は真っ赤になりながら首を振る。夏目とこういうことをするのが嫌なわけではない。ただまだ心の準備ができていないし、瀬田には任された仕事がある。文化祭もまだ終わっていない。

「…椿と萩岡に無理矢理されたから、怖いのか?」

「え!? いや、それは」

そうだと言えばやめてくれるかもしれないが、夏目があの二人に何をするかわからない。保身のために嘘をつくわけにもいかず、瀬田は首を振った。

「…無理矢理じゃないんだ。椿くんのこと好きだったし、孝ちゃんとだって嫌じゃなかった…」

「柊二さ、ストーカー相手にそういうこと言って大丈夫だと思ってんの? 嘘でも無理矢理ヤられたキモかったって言えよ」

「……」

瀬田の服を脱がす手は止めず、夏目は怒りに燃えた目を無理矢理おし殺していた。瀬田が後悔しているのはわかっていたが、自分以外の誰かが瀬田に触ったと思うだけで胸が痛かった。

「悪いけど、もう待てない。俺は今日までずっと柊二を狙ってたんだから、絶対にいま柊二を自分のもんにするからな」


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