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日がな一日
日がな一日


「ほんとに……?」

瀬田の言葉が夏目はすぐに信じられないようだった。それも無理はないことだが、夏目がストーカーだろうが口が悪かろうが瀬田にとってそれは重要ではない。瀬田を好きだと言ってくれたあの言葉が本当なのかどうかそれだけが気になっていた。

「うん、俺も夏目くんのこと好きだから」

「柊二…!」

「でも立脇さんには謝ろうな」

「ええ……」

「女の子をあんな風に脅すとか、ないから」

「……はい」

ほら、と背中を押すと夏目が渋々ながら立ちあがり詩音に小さな声で「ごめんなさい」と謝った。しかし彼を笑顔で許すほど詩音は甘くなかった。

「そんな心にもない謝罪いらないんだけど! 柊二くん! 私はこいつにぎゃふんと言わせたかったのに、何で付き合っちゃうの!?」

「そうだ瀬田、もうちょっとよく考えろ。そんなクソ野郎相手にすんな」

「弘也くん! 弘也くんも止めてよ!」

詩音や孝太に言われても瀬田の意思は固かった。詩音は傍観する弘也にも頼んだが、彼はそれを拒否した。

「俺が駄目だって言ってんのにやめねぇならそれまでだろ。なら好きにやれよ」

ずっと難しい顔をしていた弘也が笑ったので瀬田はほっとした。機嫌を損ねたらどうしようかと思っていたが、弘也は瀬田の意思を尊重してくれた。

「瀬田自身がまずストーカーみたいなもんだし、ある意味お似合いだよな。ははっ」

「礼人くんは! 礼人くんは何も言わなくていいの?」

最後の手段だとばかりに詩音が椿にすがる。椿は瀬田に近づくと警戒する夏目を横目に瀬田に微笑んだ。

「僕はきっと君を困らせてたんだろうね。好意を押し付けてすまない」

「そんな……そんなことないよ。俺、椿くんが俺を……その、好きだって、思ってくれて嬉しかった」

瀬田が椿が好きだったのは本当だ。椿の顔は今でも一番好きで、そのオーラには圧倒され見ているだけで幸せになれる。だが瀬田は、彼のファンの一人でいるだけで良かった。

「そうだな。あの日の夜……君はとても積極的で素晴らしかった」

「うぇ!?」

「僕はあの日の思い出を大切にさせてもらう。もし夏目くんに泣かされることがあったら、いつでも戻ってきてくれ」

椿の突然の暴露に瀬田は卒倒しそうになったが、夏目と女子達の受けた衝撃はそれ以上だった。

「えっ、ちょっ、椿くんそれどういう意味!? あなた達付き合ってたってこと?」

「冗談ですよね!? そうですよね椿せんぱいっっ!」

「何でここの男子は男ばっかり好きになってんの!? 意味わかんないんだけど!」

「俺は瀬田と何もないぞー、念のために言っとくけどー」

弘也が阿鼻叫喚の女子達に言った言葉はあっさり無視される。瀬田は本当のことなだけに椿を責めることもできず、夏目の顔も見られなかった。

「柊二、今の…ほんとに…?」

「いや……あの……」

言い淀む瀬田を見て、根源の椿が悪びれもせず夏目に言った。

「夏目くん、君と付き合う前に何があろうとそれは仕方ないことだろう。君だって恋人の一人や二人いたんじゃないのか」

「うそ、そんなの嘘……」

そう言ったのは夏目ではなく椿の背後にいた真結美だ。ショックのあまり後ずさり、顔に手をあてながら泣き叫んだ。

「椿先輩と瀬田先輩の馬鹿ぁぁあ!」

大声で叫びながら部屋を飛び出していく真結美。片想い仲間だと思っていた瀬田と椿の秘密、そしてこの部屋の空気に耐えられなかったらしい。それは飽きて携帯ゲームを始めた弘也以外はみな同じ気持ちだった。

「よくそんなことが平然と言えんな。付き合ってもねーだろお前は」

もう我慢ならない、と殺気立った孝太が好き勝手言う椿を睨み付ける。だが椿は顔色ひとつ変えない。

「お前は瀬田を無理矢理襲っただけじゃねーか」

「無理矢理? それはお前のことだろう、孝太」

「はあ?」

「嫌がる瀬田くんを無理矢理押し倒して……嘆かわしい。よく訴えられなかったな」

「ちゃんと合意の上だっつーの!」

「こ、孝太くんも柊二くんに手出してたの?? 嘘でしょ?!」

三人の爛れた関係に詩音も悲鳴をあげる。言い争う椿と孝太に、夏目に知られたことで項垂れる瀬田。収拾がつかなくなった全員を、ゆり子が机を叩いて黙らせた。

「うるさい!!!」

女子とは思えない迫力ある声に全員が押し黙る。ぎろりと男達を睨み付けると、軽蔑の眼差しと共に吐き捨てた。

「瀬田くんが誰と付き合おうがもうどうでもいいけど、これ以上醜い喧嘩を続けるなら生徒会から全員追い出すから! これ以上ここの風紀を乱さないで!」

叱られた全員が呆然とする中、ゆり子は部屋を出ていこうとする。それを詩音が慌てて追いかけた。

「ゆり子ちゃん、どこ行くの?」

「佐々木くんと交代してくる!」

「わ、私も行く」

女子二人が部屋を出ていって、男5人が残される。彼らだけ残して流血沙汰にならないか不安はあったが、詩音も一人で彼らを止められるほど冷静ではいられなかった。




早足で廊下を突き進むゆり子の横に小走りの詩音が並ぶ。彼女は憤慨という言葉がよく似合う顔をして歩き続けていた。

「ほんと、男なんて馬鹿ばっかり!」

「だよね…。柊二くんと礼人くんの事だけでもびっくりなのに、まさか孝太くんまで…」

全員手が早すぎる。もはやここまでくると瀬田が魔性の男に見えてきた。彼のことが好きだったゆり子のダメージは計り知れないだろう。詩音もまた、孝太のことでは少なからずショックを受けていた。

「あの……ごめんね、ゆり子ちゃん。私が余計なことしたから……」

自分が何もしなければ彼らの秘密を知ることもなかった。よかれと思ってやったことが逆にゆり子を傷つけたことに詩音は落ち込んでいた。

「別に、詩音のせいじゃない」

「でも……」

「詩音が言ってくれなかったら、ずっともやもやしたままだったもん。私のかわりに夏目くんに怒ってくれてスッキリした。瀬田くんを完全に諦められたのも詩音のおかげだし。……だから、ありがとう」

ゆり子の言葉に、詩音の表情が途端に明るくなる。彼女は慰めなど言わないタイプだ。これもきっと本心だろう。

「ゆり子ちゃん! だいすき!」

「ちょっと、離れて詩音っ。重いってば」

ゆり子に飛び付いた詩音は彼女をぎゅっと抱き締める。ずっと孝太が好きだった詩音だが、これからは偽装カップルの相手として割りきれる気がしていた。


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あきゅろす。
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