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日がな一日
004



「『俺なんか信じる自分が悪いんだろ。告白する勇気がねぇから先伸ばしにされても黙ってたんだろうが。普通あんなの信じるか? アホだよアホ』」

「ちょ、ちょっと、これって……」

繰り返される昨日の会話にゆり子がおずおずと訊ねる。全員が呆然と音声を聞く中、詩音は得意気に語った。

「これは! こんなこともあろうかと! ボイスレコーダーアプリで録っておいた私と夏目くんの会話を編集したものだよ!」

「……お前、あれ録音してたのかよ」

孝太達もそれは知らなかったらしく驚いている。詩音は戸惑う瀬田の側に寄っていって携帯の音を鮮明に聞かせた。

「『この際だから言っとくけど、俺はお前みたいな女が一番嫌いだから! アンタ含めて生徒会の奴らは特に、見てるだけで吐き気がするけどな。今日のこと柊二にチクったら、二度と外歩けねぇような目にあわせてやるから。わかった?」』」

「今の聞いた?! 昨日、私が全部言われたことなんだよ! 柊二くん!」

「う、嘘」

「嘘じゃないってば! まさか私が録音してるなんて思わなくて油断したんでしょうけど、失敗だったよね。せいぜい私にあんな口の聞き方したことを後悔することね。あーはっはっはっ」

「詩音、なんか悪役みたいな口調になってる……」

「なってないよ〜当然の報いだよ〜。ね、柊二くん、これで考え直してくれるよね??」

「お前たち! ここで何やってる!!」

詩音に詰め寄られ瀬田が困っていると、突然扉が開き椿が姿を現した。怒鳴る彼の後ろには何故か上機嫌の真結美の姿もあった。

「仕事は一体どうした! この忙しい時に全員で仲良く休憩か? 僕と中村さんの迷惑を考えろ!」

「そうですよ〜先輩方こんなところで何してるんですか? 別にまゆはずっと椿先輩と二人きりでもいいんですけどね」

「それから佐々木くんに受付押し付けたのはどこのどいつだ! 入り口に彼のファンが集まって大変なことになってるぞ! さっさと交代しろ!」

この連日の忙しさに理性を失いかけているのか、遠慮なく怒鳴り続ける椿。全員が尻込みする中、一番先に動いたのは詩音だった。

「待って礼人くん! 今とっても大事な話をしてるんだから」

「大事な話? 何だそれは」

「柊二くんが性悪男……じゃなくて、夏目くんと付き合うのを阻止してるの!」

「なに?!」

「椿くんも一緒に止めてよ!」

詩音はいかに夏目が酷い男かということを語って聞かせ、瀬田を含めて全員が騙されていたのだとあの録音した声を聞かせて説明した。余程脅されたことを怒っているらしい。先程までの怒りはどこへやら、椿はそれを熱心に聞いていたがゆり子がそれを止めた。

「詩音、椿くんまで巻き込む必要はないじゃない。とりあえずこの話は保留にして、後で話し合いましょう」

「そんなことない! 礼人くんだって関係あるよ。だって、礼人くんも柊二くんのこと好きなんだから!」

「「え!?」」

その発言に全員が詩音と椿を見る。孝太と弘也は表情をあまり変えなかったが、真結美は目に見えて動揺していた。

「そ、そんなまさか。瀬田先輩はフラれたんでしょ? 詩音先輩も変なこと言いますね〜…」

「人の恋愛を見てばっかだった私の観察眼に狂いがなければだけどね。礼人くん、私間違ってる?」

「……いいや」

椿の言葉に真結美は卒倒しそうになり孝太は舌打ちした。椿はそれらを無視して瀬田だけを見つめていた。

「正直な話、夏目くんよりも僕を選べと言いたいところだが、瀬田くんはどうするつもりなんだ」

「え……」

「君の答えが知りたい」

全員の視線がこちらに向き、後ずさりする瀬田。助けを求めて弘也に視線を向ける。

「弘也…俺……」

「なんだよ、瀬田。俺の意見が聞きたいなら言わせてもらうけど? 夏目とは付き合うな」

「……」

「そーだよ柊二くん! 後で絶対後悔するよ」

「よりにもよってアイツを選ぶ必要はねえだろ。冷静になって考えてみろ」

詩音と孝太の言葉がやけに頭に響いて思考を邪魔してくる。瀬田はこちらを見ようともしない夏目にそっと近づいた。本性がバレた夏目は生徒会長用の立派な椅子に座って項垂れていた。

「夏目くん」

「……なに」

「立脇さん達が言ってたことって本当?」

「録音聞いただろ。その通りだよ」

瀬田は膝を床について、夏目の顔を覗きこむ。

「部屋に行ったとき見つけちゃったんだけど、何で、俺の写真なんか持ってたの?」

「……」

責めるような口調ではなく、単純な質問のようだった。どう答えるべきかあんなに迷っていたのに、今の夏目には簡単に答えが出た。

「柊二が好きだから」

「……そっか」

瀬田は優しく夏目の手を握る。顔をあげると、瀬田の笑顔があった。

「だったらいいんだ。夏目くん、俺と付き合って下さい」

「……は?」

瀬田の言葉に夏目は間抜けな声しか返せなかった。夏目の手を握る瀬田の手はやけに温かい。夏目の放心した顔を見て瀬田はその手を強く握った。

「今日はこれを言いたくて呼び出したんだ。…ちゃんと、大事にするから。俺と付き合って欲しい」

せっかくの瀬田の笑顔が霞んで見えない。それは逃げ出すばかりだった夏目が唯一追い求め、自分の終着点にしたかったものをようやく手に入れた瞬間だった。


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