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してる」を全力で
004



安曇と柄の悪い連中が入っていったのは人気のない場所にある空き教室だった。この学校は無駄に広く使われてない教室がたくさんある。誰かが学校内で何かよからぬことをしても気づかれない。嘘か本当か、生徒が生徒に襲われるという事件も多発しているらしい。初めてその噂を聞いた時はいくらホモが多いとはいえそれはないだろうと鼻で笑っていたが、あの可愛い安曇なら十分被害者になる可能性はある。



「……放せ! やめろよ!」

部屋の中から安曇のせっぱ詰まった声が聞こえ、俺はすぐさま教室のドアを開けた。カーテンを閉めきった薄暗い部屋の隅には、今まさに制服を脱がされようとしている安曇とそれを囲む4人の男がいた。

「何してんだお前ら! 今すぐ安曇から離れろ!」

怯える安曇の姿が見えて頭に血が昇った俺はすぐさま安曇の元へ駆け寄ろうとする。だがすぐに男の1人に行く手を阻まれた。

「誰だてめぇ、部外者が邪魔してんじゃねぇよ」

人相の悪い茶髪の男が俺を睨み付けてくる。本気の喧嘩なんてまるでしたことがない俺には、こんなガチの不良を相手にしたことなどない。けれど安曇のことで怒りが頂点に達していた俺に恐れという感情はなかった。

「か、上山君……?」

ようやく俺に気がついた安曇がきょとんとした目をこちらに向ける。軽薄そうな面をした金髪の男が楽しそうに安曇を引き寄せていた。

「あれ誰? 安曇ちゃんの知り合い?」

「おい! 安曇にさわんなって言ってんだろ!」

「なんか生意気な奴だなー。見ない顔だし、1年だよな?」

「じゃあ先輩として上下関係ってのをきちんと教えてやらねぇと」

俺を無視して暢気に会話を続ける不良達を見て、このままじゃ安曇を助けられない、とはたと気がつく。予定では俺に見られた時点で奴らは諦めて逃げ出すはずだったのだが、現実はそう甘くなかった。いくらかっこつけて助けに来たって、安曇を守れないならまるで意味がない。

しかし光晴が教師を呼びにいってくれているという可能性もある。いや、あいつはああ見えて意外と頭がいいから、ほぼ確実に呼んでくれているだろう。ということは光晴が来るまでの間、時間稼ぎをすればいいだけの話だ。それでもしチャンスがあれば、隙を見て安曇と一緒に逃げ出すことにしよう。うまくいけば、安曇も俺を見直してくれるかもしれない。そしたらあの九ヶ島なんて野郎よりも、俺を好きになってくれるかも。

「上山だっけ? お前、よく見たら意外と可愛い顔してんね」

「は?」

金髪の男がずかずかと近寄ってきて俺の顎に手をかける。不躾に全身をじろじろと見られて俺は不快感丸出しの表情を浮かべた。

「上山って、もしかしてあの上山千昭?」

「なに、知ってんの?」

「1年ん中じゃかなり有名だもんよ。初めて本物見たけど、想像以上じゃん」

二人の男の視線に何か嫌なものを感じ、俺は半歩後ずさる。金髪の方の男がにやにやと笑いながら俺の手をとった。

「お前、ちょっとこいつ捕まえといて」

「ええ、俺が?」

「いいだろ。後でかわってやるから」

「えっ、ちょ」

抵抗する間もなく男の1人に手を後ろから拘束される。金髪の男の手がのびてきて、殴られると思い反射的に目をつぶった俺を襲ったのはまったく別の衝撃だった。

「んっ…!?」

男の唇が俺の唇に押し付けらる。口をこじ開けられ舌を入れられても茫然とするばかりで、これがキスなのだと気づくのにかなり時間がかかった。

「…なっ、な、何しやがんだよ気色悪ぃ!」

よくやく解放されてしゃべれるようになったが、手はまだ後ろで掴まれたままだ。今すぐ口を拭って消毒したいぐらいなのにそれもできない。なんにせよ気持ち悪すぎる。

「キスぐらいで真っ赤になるなよ。これからもっとすげぇことするのにさぁ」

「げー、そんなでかい奴相手にマジでやんの?」

「余裕余裕」

男の手がベルトにかかり、ようやく自分の身に迫る別の危険に気がついた。俺は真っ青になって必死に抵抗しようとするが二人相手ではどうしようもない。まさか自分がそんな対象になるなんて思いもしなかった。しかもよりにもよって安曇の前で。こんな屈辱絶対に許せない。

「暴れちゃ駄目だって千昭ちゃん。やりにくいだろ」

「誰が千昭ちゃんだ! いっ……」

床に引き倒され制服をひん剥かれる。奴らの手から何とか抜け出そうともがいている間、遠くで安曇の叫び声が聞こえた。

「やめろよ! そいつは関係ないじゃんか!」

「駄目駄目、安曇ちゃんは俺らの相手してくれなきゃ」

「は、放して! 誰か……っ」


安曇を助けるはずだった。なのにこの有り様は何だ。安曇どころか自分の身も守れないなんて、情けないにも程がある。

悔しさに唇を噛み締める俺を組み敷きながら、男達は悠長な会話を繰り返していた。けれど腕を床に押さえつけられている状態では、相手を睨むことしかできない。

「お前らも悪趣味だなー。そんな男やって何が楽しいんだか」

「ほっとけ。こっちの方がやり甲斐あんだろ。それにやっぱ安曇に手ぇ出して九ヶ島にバレたらめんどくせーしな」

「大丈夫だろ。セフレの1人ぐらいあいつだって気にしねぇよ。1年前ならともかく、もうとっくに興味なくしてんじゃねえの」

「えー、安曇ちゃん可哀想」

必死に身をよじって逃げ出そうとする俺の耳にも奴らの声は聞こえてくる。安曇にこんなことをしておいて、その上さらに傷つけるようなことを言うなんて許せない。

「あーあー、千昭ちゃん大人しくしてなって。裂けちゃったらどうすんの」

「っ…」

何もできない自分の無力さと、これからされることへの恐怖で涙が滲んだ。こいつら全員、今すぐにでもぶっ殺してやりたい。俺にその力があれば、ためらうことなくやっていたのに。







「なにしてんですか、先輩方」

突然、聞き覚えのある声が教室に響き、男達の手が止まる。声のした方を見ると、そこにはこちらを見下ろす派手な金髪の男がいた。

「く、九ヶ島……」

「篠木先輩、あんたそんなに相手してほしいなら直接言ってくれればいのに」

先程までの勢いが嘘のように真っ青になる男。不良としての九ヶ島のことを知らない俺ですら、奴の姿を見るだけで恐怖を感じるのだから無理もない。ただ立っているだけなのに、ここからでもキレていることがわかった。

「人のもんに手ぇ出してきたんだから、それなりの覚悟はできてんだろうなぁ、クズ共」

九ヶ島がにっこりとわざとらしい笑みを浮かべる。その笑顔を崩さないまま、一歩ずつゆっくりとこちらに近づいてきた。


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あきゅろす。
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