「愛してる」を全力で
後日談
「いやー、はっきり言って俺はあの時もう駄目だって思ったね。頭がおかしくなっちまったとしか思えなかったもん」
あの出来事から少したったとある日の放課後、俺は光晴と二人、誰もいなくなった教室で話をしていた。あれから2、3日はどこにいても好奇の目に晒され俺は安曇と共に一躍有名人になったりもしたが、人の興味と関心は七十五日ともたず今はかなり穏やかな生活をおくっている。
「あんな映画でもめったに見られない告白をまさか自分の友達がやるなんて。しかもプライドでがっちがちのお前が。あーあー世の中何があるかわかんねぇよなぁ、ほんと。ドン引きだって、ドン引き」
「それでも、協力してくれただろ?」
にこにこと笑う俺から目をそらし、ふんと鼻をならす光晴。照れ隠しのつもりなのか眼鏡をつけたりはずしたりと無意味な行動を繰り返している。
「まーね。短い付き合いだけど、結構千昭のこと好きだからね、俺」
「おっと、俺には安曇がいるんだ。悪いが浮気はできねーな」
「アホか。俺だって奈子ちゃん一筋だっつーの」
お互い馬鹿な冗談を言って笑いあった後、光晴はぐいっと身を乗り出してきた。
「つか結局のところ、お前と安曇先輩って付き合ってんの? 仲良さそうではあるけどさ」
「もちろん付き合ってるに決まってるだろ。見てたんなら知ってるはずだ。俺の熱い告白を受け入れて俺の胸に飛び込む安曇の姿を」
「あー…ほとんどの生徒が見てたな」
「安曇と俺はもはや誰にも邪魔できない、究極のラブラブカップルだ。現に今もこうやって安曇のクラスが終わるのを待って一緒に帰る予て……」
「なにペラペラ嘘ついてるんだよ、このど阿呆!」
いきなりのドア口からの声に振り替えると、そこにはしかめっ面をした安曇が立っていた。鋭い視線をこちらに寄越しながらずかずかと近寄ってくる。
「いつ、誰がお前と付き合ったっていうんだ。僕はそんなこと認めてないからな!」
「でも安曇、俺達毎日一緒に帰ってるし」
「それがなんだよ」
「お互いの家に行って、両親に挨拶までしたし」
「そんなの友達として、じゃないか」
「手だって繋いだし」
「それは千昭が」
「キスだってしたじゃん」
「無理やりしたんだろ!」
顔を真っ赤にして怒っていることを全身でアピールする安曇。無理矢理だなんて人聞きの悪い。安曇なら俺なんて簡単に拒否できるくせに。
「はいはい千昭、安曇先輩、いちゃつくなら邪魔者は退散するので二人でやってくださいね」
「別にいちゃついてな―」
「付き合ってくれてサンキューな、光晴。なんなら途中まで一緒に帰るか?」
「頼まれてもやだよ。それに今日は奈子ちゃん家行くからさ」
じゃ、と手をふった光晴は一足先に教室から出ていく。残された安曇は光晴にからかわれたことが恥ずかしかったのか、居た堪れない様子で俯いていた。
「……俺らも帰ろうぜ、安曇」
小さく頷く安曇の腕を引いて俺は歩き出す。安曇はその手を振り払ったりはしなかった。
あの日からさらに安曇にまとわりつくようになって、わかったことがある。安曇は俺に情が湧いてしまっている。そして、彼は一度情が湧いてしまった人間には非情になりきれない。俺を好きになったというわけでなくとも、俺のしていることを受け入れてしまっているのだ。このまま流されてくれるのなら、情が好意へとすりかわる可能性もあるだろう。そういう意味では安曇の気持ちは手に入れたも同然だ。
「あーづみ」
「なに」
「好きだよ」
「……一生言ってろ」
命令されずとも、一生言ってやるさ。お前が俺を好きになってくれるまで、ずっと。
今はまだ無理でも、俺という存在が安曇の助けになればいい。そんな日がくることを俺はただ、ひたすらに願っていた。
おしまい
2012/3/24
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