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してる」を全力で
壊れる関係、壊したい関係





「なあなあ、聞いてくれよ千昭!」

「……なんだよ」

昼休み、光晴が弁当を手に持ちながらやけにテンションを上げて俺の前の席に座った。前々から少し思っていたことだが、こいつの機嫌が良くなるとそれに反比例して、俺のテンションが下がっていくのは何故なのだろう。

「さっきさぁ、天谷ひなたが俺んとこきて俺のギター褒めてくれたんだよ。音楽室で弾いてたのを、たまたま聞いてくれてたらしいんだけど」

「だからお前、彼女はどうした」

「それはそれ、これはこれ。俺の一番はもちろん奈子ちゃんだけど、天谷はみんなの癒しだろ!」

「あー…はいはい」

最近のこいつは恋人と天谷と部活の話しかしていない気がする。少し前まではしつこいぐらい安曇の話を聞いてきたのに、俺が友達宣言をしてからはさっぱりだ。

「なんで天谷は木月みたいな無愛想男と付き合ってんだろーなー。やっぱり幼馴染みだからか?」

「……幼馴染み? あの二人って幼馴染みなのか?」

「多分」

「多分って。天谷に訊いたんじゃないのかよ」

「まさか! 天谷と話してると絶対に木月が後ろにいて睨んでくんのにそんなこと訊けるかよ。ただ、あいつら入学初日からべったりだったから、そうなのかなーって思って」

入学初日のクラスの様子なんてコイツよく覚えてるな。俺は安曇のことで頭がいっぱいだったから、クラスの連中のことなど何の記憶もない。

光晴につられて、仲が良さそうに話す木月と天谷を見る。いつもは愛想の欠片もない木月が天谷の前では屈託ない笑顔を見せていた。奴が天谷をすごく好いているのが、二人のことをよく知らない俺にもわかる。


「いいなぁ…」

考えるより先につい本音がこぼれる。相思相愛で幸せそうにしている木月と天谷が羨ましかった。
もし俺が九ヶ島より早く安曇に会えていたら、いや、俺が九ヶ島ぐらい喧嘩が強かったなら、安曇は俺のことを好きになってくれたのだろうか。
……いや、今更何を言ってるんだ俺は。俺は安曇の友達になるって決めたはずだ。なのに今更、なんでこんなことを考えているんだろう。

「……千昭ってさ、安曇先輩と本当に友達でいたいって思ってんの?」

「え」

唐突に安曇のことを訊ねられて、俺は固まってしまう。まるで今の俺の考えを見透かされたようで、光晴から視線をそらせなくなった。

「……なんで?」

「だって安曇先輩と仲良くなったって言う割には毎日なんか暗いし。先輩の話もあんまりしないしさぁ」

「……」

それは、いま光晴に言われて初めて気づいた。最近の俺は人の目からはそんな風に見えていたのか。だが、安曇はもう俺の理想とはかけ離れた存在になってしまったはずだ。けして、未練を断ち切るための言い訳に友達という関係を利用しているわけではない。

「…何で、そんなこと聞くんだよ」

今までの話から察するに、光晴が安曇のことを聞いてこないと俺が思っていたのは、俺が安曇の話を光晴にしていなかったからということだろう。ならばなぜ、光晴はいきなり自分から安曇の話を持ち出してきたのか。

「九ヶ島先輩が、恋人全員と別れてまわってるらしいって聞いた」

「は…はあ!? なんだよそれ、どういうことだよ!」

光晴の言葉に俺は驚きと動揺を隠せない。あの浮気野郎が恋人全員と別れるなんて、何かあったとしか思えない。

「俺も詳しいことは知らない。今日部活の奴らに聞いたばっかなんだから」

「でも、そんなの……」

もしかすると、九ヶ島はようやく自分が誰を好いているのか自覚したのだろうか。だとすれば今までの浮わついた関係を清算しようとしている理由も納得できる。もしその相手が安曇の思った通り、久遠という名の先輩のことなら、安曇は――

「でもまあ、結局別れを切り出された奴らの大半は納得できなくてごねてるみたいだから、うまく別れられるかどうか……って千昭?」

「悪い、俺行かなきゃ」

突然立ち上がった俺を見てぽかんとする光晴。だがすぐに俺の考えを察してたようで、にやにやしながら手で俺を追い払うような仕草をした。

「おー、行ってこい行ってこい。5時間目までに帰ってこなかったら、俺が言い訳しといてやるよ」

「ありがと、光晴」

気のきく友人に礼を言い、俺はすぐさま安曇のクラスに向かった。もしかすると教室にいないんじゃないかと思ったが、それは杞憂だった。

安曇は、いつも通りそこにいた。がやがやとうるさい教室の中で友達と一緒に笑っている。まるで何事もなかったかのように。

「安曇!」

俺が2年の教室に入ると一瞬クラスが静まりかえる。安曇の訝しげな目がこちらを見ていた。

「何だよ、千昭。いきなり」

友人との会話を中断し、立ち上がる安曇。何もない、いつも通りの彼だ。もしかして、安曇はまだ九ヶ島から別れ話を持ちかけられてないのか? それとも、あくまで恋人のふりをしている彼には関係のない話なのだろうか。

「話があるんだ。ちょっと、一緒に来てくれ」

「……。…わかった」

その瞬間、安曇の顔つきが少しだけ変わる。些細な変化だったが、安曇の心境を察するには十分だった。

そうだ。きっと、安曇はもう――


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あきゅろす。
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